第27話 元将軍のショッキングな事件

 ローマでは簡易住宅がようやく形になってきたところだ。今朝にはオーク達が到着し、作業スピードが一気に上がったんだ。意外なことに来てくれたオークの人数は三十を超えた。

 マッスルブの手腕とは思えないから、彼らの食欲が凄まじいってことだろう。


 悔しいことにマッスルブの言う通り、オークの膂力は素晴らしい。斧を振れば短時間で木を切り倒し、一人で丸太を担いでしまうのだ。肝心の餌はベリサリウスのお陰で既に充分な量がある。

 いっぱい食べて、その分働いてくれ!


 作業を横目で見ながら、俺はまず小鬼の村の村長に相談を持ち掛けることにしたんだ。今後何を優先的にやっていくか村長とすり合わせしたい。


 村長は自ら陣頭指揮を執り、簡易住宅の建設を手伝っていたが、作業を止めてもらい俺との時間を造ってくれる。もちろん、指揮は別の人に譲ってからだ。


「村長殿、相談したいことは山ほどあるんですが、木を切るにも金属の刃が必要です。金属について教えてもらえますか?」


「プロコピウス殿。そうですな。ちょうど旧小鬼の村とローマの中間あたりに鉄が採掘できる場所があります」


「おお。鉄が産出するんですか!」


「いかにも。鉄を加工する技術もあるのですぞ。ただ、鉱石を掘るのが大変なのですぞ。小鬼は力が弱く、周辺に危険なモンスターもいますからな」


「なるほど。鉱石を掘るのはオークに任せましょう。同時に鍛冶施設も先に造りましょう。建物自体は後から改装すればいいかと」


「そうですな。鉄の道具が極端に不足しております。これまで鉄の採掘がなかなか進みませんでしたから」


「モンスターはベリサリウス様にお願いしましょう。とにかく道具が無いと何もできません。建物も道も何もかもです」


「おっしゃる通り。この前プロコピウス殿が言っていた適材適所って奴ですな。これほど順調に進むとは驚きですぞ。オークが来てから見違えるように簡易住宅の建設が進みましたぞ」


「みんなで協力すれば、きっと素晴らしい街が出来ると思います!」


 とにかく何をするにしても、道具が必要だ。幸い小鬼の村長も痛感しているようだから、先に簡易的な住居に鍛冶施設が建つことだろう。街を造るにあたって必要なことは多岐に渡る。

 住宅はもちろんだけど、道をどこに通すか、水源はどうするのか、排水はどうするのかなど考え出すときりがない。今は一つずつ進めていくしかないだろう。


「ではさっそく、ベリサリウス様を呼んでまいります」


「ありがとうございます」


 さて、ベリサリウスは......確か今はローマに居たはずだ。

 俺は村長に挨拶をすると、ベリサリウスを捜しに周囲を見渡した。



 ほどなくベリサリウスは見つかったが、なんだか非常に暗い顔をしている......隣にいるエリスもどうしていいか分からないといった風なんだけど。何があった?


「どうされました? ベリサリウス様」


「おお。プロコピウスか。ご婦人方に力仕事をさせるなんて何てことだと思っていたのだ」


 ん、ご婦人とは? えっと。ああ! オークか。オークのことか。

 念のためベリサリウスに聞いてみよう。いや、オークで確定と思うけど。


「ベリサリウス様? ご婦人とは?」


「エリスに聞いたところ、オークという種族だ。あんなか弱いご婦人方に木を切らせ運ばせるとは」


 ワナワナとベリサリウスは今にも崩れ落ちそうだけど......これ、俺が説明するのかよ。

 ベリサリウスの隣で控えているエリスに目を向けると、思いっきり目を逸らされた。俺か、やはり俺が説明しないといけないのか!


「べ、ベリサリウス様。オークで力仕事をしている者は全て男性です」


「お、おお。何てことだ。あの方々は男だったのか。ならば仕方あるまい」


 ベリサリウスの落ち込む様子は、俺がここへ来て以来初めて見る。どんな強敵に対しても暗い顔一つしなかったこの元将軍が、たかがオークが力仕事してるだけでここまでとは。

 何か可笑しくなってきたが、彼の前では笑うことなぞできないって! 我慢だ。我慢しろ俺。

 俺がこんな状態なら、エリスはどうだ? 彼女は顔を逸らしてうつむいている。これ絶対笑ってるだろ。ベリサリウスから見えない位置にいるからって酷い奴め。


「ベ、ベリサリウス様。こんな時に申し訳ありませんが、鉄鉱山がこの付近にあるそうです。ここのモンスター駆除をお願いしたく」


「お、おお。そうか。この思い、全てモンスターにぶつけてくれようぞ。感謝するプロコピウス」


 厄介事を持ってこられて感謝するってすごい人だよ全く。今日のモンスター達に今から俺がお祈りしておいてやろう。いい食料になれよ。

 モンスターを狩ると安全にもなって、食料にもなる。いいことだらけだ。危険なモンスターを狩りつくしたら、動物を狩ればいい。その頃には牧場と農耕が軌道に乗っていればいいなあ。



◇◇◇◇◇



 俺はベリサリウスを見送った後、マッスルブと道について打ち合わせをしていた。といってもマッスルブにも俺にも道を造る技術はない。何をするのかと言うと、どこに道を造るのか目印を準備できないかと考えてる。


「マッスルブ。事前に道になるところに線を引いておこうと思ってるんだ」


「ブーは何すればいいブー?」


「この開けた土地は短い草花が生えているよな。道になるところの外側部分の草を引っこ抜くか、短く刈る」


「余り力要らなさそうブーね」


「ああ、多分明日には犬耳族が来るはずだから彼らにやってもらうつもりだ。マッスルブにはやり方を覚えていて欲しい。俺一人じゃ手が回らない」


「なるほどブー。でもオークが物を教えていいものかブー?」


「そういう習慣があるのか? 俺は気にしない」


「少し見直したブー。オークを教師にするなんて、ピウスの発想は斬新ブー。ブーも頑張るブー」


 ブーブーうるさい奴だな。オークが物を教えるのはおかしいことなのか? 知ってる者から知らない者に教えるのに誰だろうが関係ない。ましてや知能は皆人間並みだから、使える者は全て使うぞ。

 じゃないと街の建設が進まない。

 まあ、俺は専門知識のいることは全くできない。せいぜい人を適材適所に割り当てれるよう動くだけだ。


 この後マッスルブに、草をどのくらいの幅で刈っていくのかを教え、道作成の目印作成の目途はついた。


 どのようにローマの道を造るか実は少し考えている。東西南北に日本の幹線道路くらい幅がある道を十字につくり、そこから日本の道路で例えるなら二車線くらいの幅の道路をご盤上に張り巡らせる。

 さらに細い道路を二車線の道路の間に作成する予定だ。単純だけど分かりやすく輸送にも向いているはず。

 通路をどのように作るかが悩ましいところなんだよなあ。草花を抜いて、土を固めただけでは水はけが悪く、すぐぬかるみになってしまうだろう。道具があれば岩を切り出すか、レンガを準備して敷き詰めることで道に出来る。

 ただ、敷き詰めただけでは道として機能しない。これを繋ぎ合わせる何かが必要だ。


 いや、待てよ。


 俺は小鬼の村人からつるはしを借りて、再度マッスルブの元へと向かう。


「マッスルブ、これで地面を少し掘ってみてくれないか?」


「お安い御用ブー」


 マッスルブはつるはしを振り上げると、地面に突き刺す。凄いパワーだ。見る間に草花ごと地面が掘られていく。

 俺は掘られた地面をつぶさに観察してみる、や、やはりここの地盤。ここだけ高い木が無いのが不思議だったんだ。そうなると予想される地盤はいくつかに絞られる。


「マッスルブ、でかした! これで建築がものすごく捗るきっかけが出来たぞ」


 そう、ここの地盤は石灰岩だったんだ!

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