第25話 魅力の秘密

「すごいですね! ダークエルフの村って」


 族長宅を見上げながら、ティンが感嘆の声をあげる。それもそうだろう。ダークエルフ族長宅は、他の住宅と同じように一階部分は支柱の柱が建っているが、二階、三階、なんと四階部分まであるようだ。

 地面からの高さで見ると五階分の高さがある。この高さは小鬼の村にやった監視用の櫓より背が高い。ティンが驚くのも無理のないことだ。


「あなたはあまり驚いていないようね」


 胸の下で腕を組んだエリスから訝しむような目線を感じる。腕におっぱいが乗っかっているがこれはわざと何だろうか? いや、よく腕を組んでいるから癖なんだろうな。だってベリサリウスにしか興味ないし。


「いえ、感嘆してますよ。ダークエルフの技術力は素晴らしいですね!」


「ふーん。あなたの住んでいた世界にもあったんでしょう。こんな高さの建物が」


 鋭いなエリス。ティンと俺の族長宅を見た時の態度の違いから判断したんだろう。ティンの驚嘆は初めて見る巨大な建物を見た時の驚きだ。俺は違う。ダークエルフがここまでの建物を建てれたことに対する感嘆だ。


「え、ええ。まあ」


「どんな建物があったの?あなたの世界には」


「水を引き込む水道橋や、石畳の街道などありましたよ」


「ふーん。ベリサリウス様も見ていたのかしら?」


「ええ。私の世界のローマにありました」


「ベリサリウス様のかつて見た風景......とてもとても興味あるわ!」


 やっぱそういうことかよ! ベリサリウスの生きた時代の東ローマの技術でさえ、ダークエルフの村と比べてもさらに隔絶して水準が高い。もしエリスがベリサリウスの時代の東ローマ帝国の帝都「コンスタンチノープル」を見たならば、ひっくり返って驚くと思う。

 二十一世紀日本では、中世ファンタジー風の物語が良くあるが、あれは西欧をイメージしたものだ。当時の西欧と東ローマでは文化レベル、技術水準ともに東ローマのほうが格段に高かった。

 だから、ベリサリウスが中世初期出身とはいえ、中世ファンタジーをイメージしながら建築や街道の話をしてはいけない。東ローマをイメージして会話するように注意しないと。


「わ、分かりましたから。機会があればお話ししますよ」


「よろしくお願いするわ! さあ行きましょう!」


 やれやれだよ。エリスに少し乱されたが、ダークエルフの族長との会談は楽しみだ。



◇◇◇◇◇



 族長は俺たちが扉をノックすると、出迎えて招き入れてくれた。

 ダークエルフの族長は年配の人と思っていたが、意外にも若かった。族長は、人間で言うところの三十台頭くらいの繊細で整った顔をした、エリスと同じ銀色に淡い青色が乗った美しい長髪が特徴的なダークエルフの男だった。


「あなたがプロコピウスですか? 初めまして私はグランデルと言います」


 見た目どおり柔らかな物腰で族長――グランデルは俺に美麗な礼をする。


「ご丁寧にありがとうございます。俺はプロコピウスです」


 グランデルに中へ案内されると、エリスとティンは外で待つこととなる。一緒に来てくれたほうが心強いんだけど。グランデルの希望なのだろうか。俺一人で家の中へ行くことになった......


 家に入り、中の様子を見渡してみるとやはり他とは違う。

 彼の家はやはり他の亜人宅に比べ俺の知る「家」に近かった。玄関には白黒の虎柄の毛皮、背もたれのついた椅子が四つに机。壁には獣の牙を組み合わせたリースが飾ってある。

 机のそばには握りこぶしほどの太さがある銀色の金属で出来た、一メートル半ほどの円柱。この円柱の先は同じ金属で出来た球体が取り付けてあり、ぼんやりと柔らかい光を放っていた。

 これまで俺は「家具」らしきものを、毛皮はともかく他は見たことが無かった。


「こちらにかけてください」


「ありがとうございます」


 俺が腰かけるのを待ってから、グランデルは口を開く。


「プロコピウス、単刀直入に聞きましょう。あなたは何をダークエルフに求めるのですか?」


「私たちはオーガの拠点があった開けた土地にローマという街を建設しようとしてます。とにかく人材が不足してまして、ご協力していただきたくべく、ここへ参りました」


「エリスから聞いていると思いますが、私たちダークエルフは外部との接触を嫌います。特に人間との戦いがあって以来それが顕著です」


「知っています。ですので、私に知識だけでも教えていただけませんか?」


「なるほど。私たちの事情も考慮してとのことですね。ではプロコピウス。あなたはどんな知識を私たちに求めるのですか?」


「食べていくことのできる知識だけでも、教えていただきたいのです。農耕はご存知ですか? 食べれる植物や木の実を、村で育てることです」


「農耕ですか。残念ですが、多少のキノコ類を育てるくらいしか行ってませんね。人間は大規模に小麦やイモ類なるものを育てているようですが」


 うーん。湖のそばに村を構えているとはいえ、ダークエルフも狩猟で生活している亜人らしい。やはり森林という特性上農耕が育つ地理的条件が無いということか。

 しかし、将来を見据えた場合、農耕は必須だと俺は考えているんだ。ローマを中心にいずれは森林を切り開き、食料の安定供給を行う。もちろん農耕をはじめたとしても問題は多数あるだろう。

 例えば水源をどうするかなどだ。川から水を引くとなると、猫耳族の集落かリザードマンの集落あたりから水を引き込まないといけないから。


 人間は農耕を行っているのか。魔の森へ亜人を追いやった人間たちは平地で農耕を行っているのならば、さぞ人口も多いことだろう。小鬼の村を襲ってきたことを考慮すると、今後人間とさらなる争いが起こる可能性は高いと思う。

 いくらベリサリウスでも多勢に無勢で、戦争を続ける食料さえないなら戦えないだろ。


 どうするか。人間を攫うか?


「そうですか。ダークエルフの建築技術などにももちろん興味はありますが、亜人ごとの事情もありますのでこれ以上は求めません」


「プロコピウス、そしてベリサリウスでしたかな。あなたたちは欲がありませんね」


 正直、精霊術での通信やダークエルフの技術力は喉から手がでるほど欲しい。しかし、無理に連れて来て他の亜人と軋轢を生んだら元も子もない。

 農耕技術が無い以上、引いたほうがよさそうだ......ローマの文化大革命は惜しいけどね。

 俺ならダークエルフの村へ今後滞在することもできるだろうけど、俺が知識を教えてもらったところでローマへ持ち帰り、活かせるのか甚だ疑問だ。俺は大工や鍛冶はできないから、学んでも使えない......


「人間に接触することも考えてみます。ありがとうございます」


「なるほど。エリスから聞いていた通りあなたは面白い。ダークエルフを数人ローマへ送りましょう」


「他の亜人とは問題ないのですか?」


「問題ないでしょう。ダークエルフはあなたの下へつけます。それは認めてもらえますか?」


「はい。それは問題ありません」


 何だ! 突然派遣してくれると言ってきた。ラッキーだけど何でだろう。欲を出さずに引いたのが功を奏したのか? 「農耕」知識は得ることが出来ないけど、願ったり叶ったりの結果に上手く行き過ぎて恐ろしくなってきた......


「あなたの元ならば、ダークエルフはあなたのために必死で働くでしょう」


「え。どうしてそう思われるんです。グランデルさんと私は先ほどお会いしたばかりですし」


「ああ。あなたは自分がどれほどエルフを引き付けるのか知らないんでしたね。エリスから自覚も無く、教えていないと聞いてます」


 え? 何? 話についていけない。俺はエルフフェロモンとか持ってんの? エルフの美女が俺に寄って来る? うほー。俺の時代が来るのか?


「理由を教えてもらってもいいですか?」


「そうですね。知っておくほうが良いでしょう」


※ピウスさんにチート能力がああああ。無いよりはマシですよね。はい。

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