僕と双子の姉

1ページ目 生体日記

 僕には双子の姉がいる。これはもうどうしようもない事実だ。

 ここで注意してほしいのは、僕に対しての双子ではなく、僕の姉が双子であるということだ。

 長女、笹野 零は表面上才色兼備を売りとしているが、実態は何事もいっぱいいっぱいの人間である。中学入学と同時に教師との二者面談で「笹野は人の五倍努力せにゃならんなぁ」と言われてから、自身の学習能力の低さに気が付き、毎日予習復習を行って学年トップを維持し続けた。その結果、見事地元でも名高い高校にトップの成績で入学した。一方その双子の妹、玲奈は勉学よりもおおよその学生と同じように遊びに精を出し、毎日を楽しそうに過ごしていた。しかし、ここで気になるのは玲奈はそうやって遊びほうけていたにも関わらず、姉の零と同じ高校に合格したところだ。

 たまたま、と言って本人は笑っていたが、玲奈の基礎の能力はところどころで発揮されていた。

 これはそんな双子の生体日記……


 「ちょっと、何書いてるのよ」

「あ、ちょっとやめてよ」

「なになに? 双子の生体日記? ちょっとレイちゃーん、見てよこれ」

 

僕の生体日記は奇しくも玲奈に奪われてしまった。あんなもの見られてしまってすごく死にたい気分であるのですが……

 呼ばれた零もやってきて、僕の生体日記は姉二人に蹂躙されていく。ああ、なんて不幸な。


「私の性格のところ、なにこれ。ずぼらな暴力女って。わたし、そんな暴力振るってないよね? ね?」

 

玲奈は僕の肩をギリギリと掴んでくる。これを暴力と呼ばず、何と呼ぶ。


「私のところは、無駄な努力が空回りって書いてある。せつない」

「ちょっと、そんなに落ち込まないでよ!」


 部屋の隅っこで丸くなり始めた零に話しかけるが、ブツブツと何かを唱えている彼女にはもう聞こえないだろう。


「私がこれ続き書いてあげるから」

「は?」


 玲奈はノートの新しいページを開いた。そして、真っ白なページに丸っこい文字を書いていく。


『次女玲奈:とても美人で優しいお姉さま。僕はいつも彼女の命令を喜んで聞いている』


 なんてことを書き込む姉だろう。

 たしかに玲奈のわがままを聞くのは僕の役割。それでも喜んで彼女のわがままを聞いたことなんて一度もない。神に誓ってもいい。蹴られても、殴られても、それを嬉しいと思ったことなんて生涯に一度もない。


「私がその続きを書こう」


 いつの間にか復活してきた零もノートを覗き込んでいる。このままでは、零にも好き勝手書かれてしまう。


「いい加減返せよ!」


 無理やりノートを奪おうとするも、それは宙を舞い玲奈から零へと渡る。こうなってしまってはノートを取り返すのは難しい。


「こんなことしてる暇あったら受験勉強すればー?」


 誰のせいで勉強時間削ってると思ってる、そう思う心をぐっとしまった僕は玲奈に言い返す。


「誰のせいで勉強時間……」


 全然封じ込めてなかった。楽しそうにノートせキャッチボールをする彼女ら。どうやら双子はノートを返す気がないらしい。


「よーし、じゃぁじゃんけんしよう。じゃんけんで勝った人がこのノートの続き書くってことにしよう」


 玲奈は勝手にをんなことを言うと、手を振り上げた。

 おっとこれは殴る体勢か、と思ったが、その直後じゃんけんの掛け声がかかった。


「最初はグー!!」


 とりあえず勝つしかない。そう思った僕も戦闘準備に入った。


「じゃん、けん……」


 かつてこんなに真剣にじゃんけんしたことがあっただろうか、いや、あったわ。紗代ちゃんと同じ委員会に入るためにじゃんけんで役職を奪い合ったことが――


「「「ぽん!」」」


 それぞれが思い思いに手を出した。勝負は一発で決まった。



 僕には双子の姉がいる。これはもうどうしようもない事実だ。

 ここで注意してほしいのは、僕に対しての双子ではなく、僕の姉が双子であるということだ。 

 これは双子の姉と一人の弟が出てくるただの日常の物語。そんな彼らの生体日記。

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