8-4.心配症な双子
リコリーは魔法陣を張り終えると、若干顔色の悪いまま、上司の元に戻った。
「大丈夫だったか?」
「結構キツいです」
「法務部の仕事ではないからな、本来。下に行って休んでいてもいいぞ」
「でも」
父親がいる部屋を振り返って、リコリーは言い淀む。
平素から何が起きても平然としている父親であるが、それでも殺人事件に巻き込まれたら、冷静ではいられないだろうとリコリーは考えていた。
「あの」
何か言い訳を考えようとして視線を戻した時、リコリーは相手の背中側にある階段で手招く人影を捉えた。
「……ちょっと休んできます」
「そうしたほうがいい。刑務部が来たら引き揚げよう」
「はい」
相手の傍らをすり抜けて、リコリーは階段に向かう。
その人影は既にそこになかったが、二階に降りたすぐ傍に立って待ち構えていた。
「なんでお前がいるんだよ」
「マスターに頼まれて、新しい調理器具見に来てた」
青い髪をポニーテールにして黒いリボンで縛った少女は、そう答えた。
「知ってる? 最近、火を使わなくても勝手に熱くなるフライパンがあるの」
「へぇ。それは便利そうだけど……。いや、それどころじゃないんだよ。上で何が起きているか知らないの?」
「殺人事件でしょ。軍の人たちが一階の出入り口を封鎖した時点で予測は可能。それに商人の噂話は非常に早い」
リコリーの双子の妹であるアリトラ・セルバドスは何でもないような調子で言った。
二階は新製品の展示発売が行われていて、テーブル一つと小さなスペースを与えられた商人達が、そこに持参した商品を並べている。小さい物では新式の工具から、大きい物では冷蔵装置まで、その内容は様々である。
展示会に訪れた客は招待状を持っている自営業に限られていて、アリトラも右手に招待状を持っていた。
「父ちゃんが疑われてるらしいね」
「まぁ被害者と口論してたらしいけど……。気の弱い父ちゃんが人を殺せるわけないよ」
「父ちゃんってそんなに気は弱くないよ。優しいだけで」
リコリーよりは人物像を的確に捉えているアリトラはそう返した。
「気が弱くて商売人が務まるわけがない」
「そりゃそうかもしれないけど……」
「でも父ちゃんが人を殺すわけがないというのは同意。となると犯人を探せば、父ちゃんは釈放される」
「探す?」
「だって心配でしょ?」
当然のように言ってのけた妹に、リコリーは溜息をついた。
「また誰かに怒られそう」
「その時はその時。一緒に怒られよう」
「僕怒られたくない……」
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