18話 溢れる涙、こぼれる本音─透

「あ!君大丈夫!?」


 透が目を覚ますと、心配そうにしている彼女がいた。その目には少しばかりだが涙があった。

 こんなにも心配してくれて嬉しかった。


「うん、大丈夫だよ。心配させてごめんね」

「ほんと心配したんだから。急に倒れないでよ。心臓に悪いんだから」

「ごめん」


 彼女は本当に心配をしてくれていた。それは透のことを白明病だと知っていない、からかもしれない。どうせ知ったら、今までの人のようにいなくなるのだ。

 ただ彼女は優しい。もしかしたら、知っても心配してくれるかもしれない。

 ただ、怖かった。

 彼女がいなくなった時のことを考えると怖かった。また、一人っきりの世界に取り残されると思ったからだ。

 けれど、彼女は自分の傷を話してくれた。それは今の透のように怖かっただろう。

 そして、昨日と今日を彼女は一緒にいてくれた。だから、透は話すことにした。それが一番正しいと考えたからだ。


「そういえば、ここどこなの?建物にしては天井低すぎるよね」

「ここはもう使われてないバスだよ。ちょうど、君が倒れた近くにあったから入ったの。私も疲れたしね」

「そうなんだ。………あのさ一つ、ぶっちゃけていい?」

「いいよ」

「あの、僕って……実は、白明病なんだよ」

「………ほんとにぶっちゃけたね」

「うん…ってそれだけ?」


 思わずそう言ってしまった。

 もっと驚くと思っていたが、彼女にはそんな様子一つもなかった。透を優しく見ていて、怖がっている様子なんてどこにもなかった。


「こうゆうのって、なんも言わない方が良いのかなって思ってたから。それとも、なんか言った方がよかったの?」

「いや、確かにそうだけど。だって、普通白明病って知ったら怖がったりするでしょ。感染うつるかもしれないんだよ。しかも不治の病なんだよ。死ぬんだよ」

「そんなこと私でも知ってるよ。よくニュースとかでもやってるからね。けど……私は別に怖くないよ。君といると楽しいしね。それに感染うつるんだったら、もう感染うつってるよ」


 彼女は笑いながらそう言った。

 今まで生きてきて初めての人だった。白明病だと伝えても怖がらないのは。やはり彼女はこれまで会ってきた人の中で特別だ。


「あれ?どうしたの泣いたりして」


 彼女にそう言われて泣いていることに気づいた。大粒の涙が

 人前で泣いたのは、いついらいだろう。透はすっかりと忘れていた。それほど泣いていなかったのだ。それは泣くのを忘れていたようだった。


「ちょっと、嬉しくて。今まで白明病だと伝えたら、皆…いなくなったのに。君はいなくならなかったから、嬉しくて。……いつの間にか泣いてたよ」

「…………私はどこにも行かないよ。ずっと君の傍にいるよ。ずっと傍に」


 彼女はそう言いながら、優しく透を抱き寄せた。彼女の暖かさが伝わってきた。

 さらに涙が溢れてくる。

 そして、涙と一緒に本音も溢れていく。

 ずっと我慢していたこと。

 心の奥にしまい込んでいたモノ。

 それが溢れていく。


「僕、こんな病気で死にたくないよ。もっともっと、生きてたいよ。一回くらい普通に暮らしたかったよ。……………ずっと君と、旅をしたいよ」


 彼女は黙って聞いてくれた。背中をポンポンとしながら聞いてくれた。

 透は彼女優しさを改めて実感していたのであった。


「とりあえず今日はもう休もう」

「うん」


 彼女の言葉に頷いて透は眼を瞑った。そして眠りについた。

 おそらく明日が最後。透にはそれが分かっていた。けれど、彼女には言わなかった。

 心配をかけたくなかったからだ。なぜこんなことを想うのだろうか。いつか分かる時はくるのだろうか。

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