3-10
「それを防ぐのが、私たちの仕事じゃ……」ゆきのがなんとか口を開いた。
「何を馬鹿なことを」サンフラワーは切って捨てた。「いいですか、地球はもうすぐ滅びます、滅びたら地球はすぐに資源惑星として我々が採掘します。クリスタルはそのフライングをやっていて、それが法律違反だから取り締まります。何かおかしいところがありますか?」
サンフラワーの説明をよく思い返せば、確かにそういうことになる。地球は彼らにとって資源惑星だ。でも、地球に人類がいるから、彼らは採掘せず保護をしている。つまり彼らは、───地球人類の滅亡を待っているのだ。おそらくは宇宙的なゆったりとした時間感覚の中で、鮎の解禁を待つ釣り人のように、その日が来るのを待っているのだ。それまでの期間が、五〇年。
もし地球人が宇宙に出て、彼ら精神体と交歓する能力や技術を身につけることができるならば、───ヌガーのような異星人のひとりとして、他の星の資源を採掘する船団に加わる可能性もあったろう。
しかし、地球の文明はそれに至るほど発展しない。なぜなら、その前に人類が滅亡するから。そう判断して、彼らは地球を資源惑星と定めた。そういうことだ。
「なぜ、地球が滅びるんですか……?」
ゆきのが青ざめて尋ねた。
「理由の説明が必要ですか?」
信じがたい、という口調でサンフラワーは言った。彼は当然のことと思っている様子だ。
「地球を占有する知的生命体、すなわち人類の個体数は現在約六十億。天敵を持たない大型知的生物の個体数がわずか二世代で倍になりました」
あたしたちはただただ聞くしかなかった。
「理由はいくらでも挙げられますよ、いくらでも挙げられますとも! でもこれだけで必要十分でしょう。他の星の知的生命体が聞いたら驚いてひっくり返って気絶する数字です。それは知的生物ではないと、ほとんどの者が断言します。人類という種には、人口と世代バランスの安定を認識する能力が決定的に欠落していて、個体数を減らす本能も、コントロールする理性も、恐ろしいことに、この状況が種の存続にとって危険だと感じ取る能力すら、持ち合わせません。滅びない方がおかしい」
「そんな……」ゆきのがどうにか言葉を絞り出す。
「勘違いをしてほしくないので言っておきますが、これはあなた方個人の問題でも、現在の社会の問題でもありません。生物学的に、繁殖能力と進化や発展の速度とが噛み合わなかっただけです。
もし人類が滅びた後に新たな知的生命体が進化するとしても、自然環境が同一である以上同じ進化の道をたどるでしょう。この星が全宇宙に発展する生命を生み出すことは永遠にないのです。我々はすでにそうしたアセスメントを終え、この星が保護に値しないと断定、資源惑星としての登録を済ませているんです。
悲観することじゃないんですよ? 進化が速く、そして滅亡もまた速く訪れることはすなわち、地球が稀にみる多様性を内在したすばらしい星であることの証明なのです。それだけ、貴重な資源が山ほど眠っている可能性の証明なのです。このような星が、広大な宇宙の中で発見できたことはたいへん珍しいことなんです。私たちはみんな、人類の滅亡をとても楽しみに待っています。
……ていうか、この星の五〇年っていうのは、他の星の知性体からみればかなり短い時間ですから。ほら、どこかの鉄道路線が廃止になるとその日だけマニアがどっと押し寄せるでしょう、あれと同じです。いつ滅びるかどういうふうに滅びるか、みんなわくわくしながら待ってるんですから、いっちょハデに滅びてほしいなぁっていうのが、偽らざる本音です」
絶句きわまった。その言葉に何を思えばいいのか。サンフラワーがごく身近なものとして語る滅亡という単語を、あたしは、フィクションの中でさえ恐怖と絶望に包まれるものとしてしか知らない。埋めがたい距離を埋めることから始めなくてはならなかった。それはとても時間がかかる作業だった。めぐみも、さおりも、どう理解していいのかわからずにただ口をぽかりと開けていた。
そしてやはり、すばやい血の巡りでその距離を真っ先に埋めてしまったのは、かわいそうに、ゆきのだった。
「……本気ですか」ゆきのが、怒りに満ちた声を絞り出した。「ヒマさんは、私たちをそんな、面白がって見ているって言うんですか?!」
サンフラワーは意に介さない。声を潜めて厳しい声で言った。
「この点だけははっきりさせておきましょうね。
『ロウシールドは異星人の侵略から地球を守るためにある』、そんな都合のいいものではありません。
我々は宇宙法によって地球文明への干渉を禁じています。ロウシールドある限り、そして我々がいる限り、地球の滅亡は地球自身の問題です。いかなる異星人の介入もありえない。地球が滅亡するならば、その責任は地球生命自身にあることを明確にする、それが我々の最大の責任であり使命なんです」
「そんな……じゃあ、地球が滅びるのを、私たちはただ座して待っていなければならないんですか?」
「当然です。ロウシールドはそれ以外のことを許しません」
議論はばっさりと断たれた。ゆきのは放心してサンフラワーを見つめた。
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