第二十二話 闘技祭:その二
バスターならば、戦うときはだれしもが〈
「息が上がってきてるぞぉ! リトヘンデぇ!」
レックスは楽しくてたまらない、といった風にオズを
しかし、オズは無言でレックスを見据えた。オズは防戦一方だが、レックスの方も決め手にかける。小細工をしてこれなのだから、二人の実力差が
「いい加減にぃ……さっさと、倒れろよッ!」
今度はオズが笑みを浮かべる番だった。レックスを挑発するように、オズはニヤッと笑った。
「――な、なぜだ! 貴様、なぜ動ける!?」
「さあな。なんだか、おまえごときには負ける気がしないな」
「……ぼ、僕を馬鹿にするなぁァァ!!」
レックスの剣筋がさらに大振りになる。それは、スキを相手に
「《ドウン・ヴラウト! 岩の
「――!?」
横合いから
「《サラド・イグナ! 火の弾!》」
「《メガド・ライガ! 雷撃!》」
周囲から次々と
「先生! これは闘技祭のルールに反しているのではないですか!? 彼らに止めるよう言ってください!」
「……さて、何のことだ?」
ズエンは表情を変えずにオズを見返した。
――見て見ぬフリをするつもりか。
オズは悟った。なんという茶番だ。元から自分が勝つなど、彼らの中ではありえなかったのだ。
「ははは、いいぞお前たち! もっとやれ!」
地面を転がりながら、オズは
「ぐあぁっ!」
それを皮切りに、次々とオズに
「く……」
「お前たち、トドメは僕がやる!」
レックスが手を上げると
「いい気味だなリトヘンデ。僕に逆らったらどうなるのか、身をもって知るがいい」
「ぐっ……」
「ハハハ、貴様の次はあの落ちこぼれ――ユーリ・デイもだ! いつもいいところで貴様に邪魔をされたからな! だがそれも今日で終わりだ!」
ブチッ。暗闇の中で音がした。オズはゆらりと立ち上がった。模擬剣をすっと構え、血だらけの顔でレックスを見る。
「――ッ、なんだその目は! まだ歯向かうつもりか! そんな体で何ができるっていうんだ! さっさとくたばれっ!!」
「ユーリが落ちこぼれだと!? 寝言は寝てから言えッ!!」
オズの踏み込みはだれの目にも追えなかった。残像さえも残さないそのスピードを追えたのは、教官であるズエンだけだっただろう。
――ドゴオォン!
レックスはオズの一撃で吹き飛んでいた。演習場の壁に激突し、ズルズルと地面に崩れ落ちる。そしてピクリとも動かなかった。
周囲を取り囲む生徒たちは、だれひとりとして身動きが取れなかった。オズが放つ異様な覇気。背後からゆらゆらと湯気が噴き出しているかのよう。
オズは
「落ちこぼれは、おまえらの方だと思い知らせてやる! 全員かかってこいッ!!」
――オズは、キレた。
第十一演習場は静寂に包まれていた。数十人もの学生が地面に横たわり、そのすべてが気絶している。血濡れた体をふらつかせながら、演習場の中心に立っているのは茶髪に紫眼の少年――オズ・リトヘンデだった。
「このブロックは、俺が一位で文句ないですよね?」
紫眼が
「……ちっ、認めよう。このブロックの通過者は、リトヘンデ――貴様だ」
* * *
「まさか、四人とも残るとは思わなかったぜ」
「もしかして……ボクたちって、けっこう強い?」
「ルークさん、油断は禁物ですよ」
「オズも災難だったよね。このあと試合やって大丈夫なのかい?」
「ああ。第十一演習場に駆けつけたミオさんが、すぐに医務室から校医さんを呼んできてくれたおかげだ。《治癒の
ほら、このとおり、とオズは三人へ力こぶをつくった。
「でも、初戦だぜ? 疲労とか大丈夫なのかよ?」
「ああ。どっちかっていうと、予選の興奮が抜けてないくらいだから、ちょうどいいかな」
アルスがめずらしく心配そうにしている。――そう、オズは闘技祭の初戦を飾ることになってしまったのだ。その相手とは――
「第一回戦出場者――オズ・リトヘンデ君とハイン・クレディオ君! 時間ですので
呼ばれてオズとともに立ち上がったのは、皇国のバスター――ハイン・クレディオ。二人はちらと目を合わせ、闘志をぶつけ合った。
「じゃあ、行ってくる」
三人から激励の言葉をかけられながら、オズは控え室を出た。
対戦者はそれぞれ別の入り口から
「オズくん、がんばってくださいね。勝ったらデートしてあげます!」
係員はミオだった。彼女のウサミミを見て、オズの緊張はいくらか
「はは、約束ですよ。絶対勝ってきます!」
いつもはどぎまぎするオズだったが、不敵にニヤリと笑ってみせた。
『――さあ、いよいよ第一回戦がはじまります! 登場しますのはぁ~~、オズ・リトヘンデ君! なんと彼は、半年前にボストの街を襲った〈災害指定級〉
アナウンスを背にオズは入場する。観客席から響く地鳴りのような歓声に、オズは緊張しつつ進んでいく。
『そして対するはぁ~~、ハイン・クレディオ君! 彼に関してはとくに説明はいらないでしょう! わずか十三歳で〈白騎士〉の称号を手にした、ブリュンヒルデ皇国が誇る天才騎士! 彼はあのエリカ姫を護る
悠然と姿を現すハイン。彼が登場した途端、歓声がどっとあがった。ハインは大陸中に名がしられているほどの騎士だ。名前が知られてまだ浅いオズより期待度が高いのはどうしようもないことだった。実際、ハインを見るためにはるばる学園都市フロンティアへ足を運んだ客もいるのだ。
彼を見て、オズはその高貴とも言える
「フン、初戦で貴様に当たるとはな」
向かい合ったハインが、オズを
「べつに、順番なんかどうでもいいだろ。俺が勝つんだから」
「言うではないか。……貴様、レベルは今いくつだ?」
「……18だけど?」
「フ……私はこの学園に来てから、レベル30にまで上がったのだ。貴様では私に勝てん」
「はあ、レベルで強さが決まると思っているのか?」
「そうは思っていない。貴様がそれなりにやるのは認めよう。だが、ここは貴様が力を発揮できる場ではない」
「…………」
図星だった。オズが存分に力を振るえるのは、ガイストーンを手にしたときだ。そして今、オズはそのガイストーンを持っていない。ハインはオズの能力を冷静に分析していた。
「棄権しろ。そうすれば、無様な戦いを
「無理な相談だ。――俺、負けず嫌いなんだよ」
オズは即答した。死んでも目の前のいけ好かない男から逃げたくなかった。
返答を聞き、ハインは顔を歪めた。
「後悔してもしらんぞ!」
「それはこっちのセリフだ!」
『さあ、両者とも気合は十分といったところ! ――それでは、第一回戦をはじめます! この戦いが、闘技祭はじまって以来の激戦になることは疑いようもありません! 両者、Gブレードを構えて下さい! それではぁーー、第一回戦! レディィィィィィーファイッ!!』
歓声が爆発する。それを背に、オズは地を蹴った。
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