ハロウィン

ハロウィン2017―招待状


 私は仕事で疲れているのだろうか。目の前には小さな少女が立っていた。しかし、こんなところに少女がいるわけがない。

 ――なぜならここは、私の家なのだから。


「あなたのおなまえは?」


 少女は私に問いかける。


「……ミチコよ」


 突然の出来事に思わず答えてしまった。

 私は東京で1人暮らしをしている。歳の離れた兄妹は居ない。そんなわけで、小さな少女が勝手に家に上がり込んでいる状況など、あり得ないのだ。


「ミチコさん、あなたを、かそーぱーてぃーにしょーたいします」

「仮装パーティー?」

「はい」


たしか、今日はハロウィンだった。この少女は私をパーティーの招待に来たのだろう。だが家の鍵が閉まっていたことは考えないでおこう。きっと私が疲れているだけだ。元々家の鍵が開いていたのだろう。



 私は少女の言うことを聞いて、後について歩いていた途中から大通りを避け、細い脇道に入った。少女は立ち止まることなく、右へ左へ曲がっていく。

 しばらくすると大きなお屋敷の前で立ち止まった。

 築50年は経っているだろうかという具合で、壁の一部が剥がれているところがある。


「ここが、かいじょうです」


 少女はお屋敷の玄関を開ける。ギィィという木製特有の軋みが鳴る。お化け屋敷ではなかろうかと思ってきた。

 中に入ると、少し焦げた匂いがした。


「この匂いは?」

「ご主人が焦がしてしまったんでしょう」

「その人が私にパーティーの招待をくれたの?」

「はい。ご主人は元気がない人を元気づけようと、ぱーてぃーを始めたのです」


 部屋に通されると、少女はどこかへ行ってしまった。途中で少女以外の人にすれ違うことは無かった。急に不安が全身を駆け巡る。このパーティーの存在を疑ってしまう。

 しかし、その疑いはすぐに消え去ってしまった。

 部屋の中は隅から隅まで掃除が行き届いて綺麗だった。こんな綺麗好きが誘拐犯の訳がない。それに部屋の中央にある白いメモ用紙の存在が一番大きかった。


『御着替えください』


 メモにはそう書かれていた。

 仮装パーティーなのだから、着替えるのは当然かと一人で自己完結する。クローゼットを開くと中には白い衣装が入っていた。死に装束だ。衣装を用意されて気分は高揚した。

 しかし、ハロウィンなのだからゾンビの仮装をするのかと思っていたので少し残念だ。



 部屋を出ると再び少女が立っていた。


「こちらへ」


 少女に促され、後ろを追いかける。


「ここに寝てください」


 再びどこかの部屋に案内されると、横になるように指示された。横になったのは冷たい石の上だった。

 少女は私が横になったのを確認すると、小さな声で呟いた。


「それでは、今から、かそうしますね」

「……えっ?」


 カタカタと言って、石が突然動き始めた。

 どうなっているのか分からぬまま、石は足元の方向へ勝手に動いている。下りようとするも、体が動かない。手足に目を遣ると、いつの間にか手錠と足かせがはめられていた。


「ねえ!どうなってるの!手錠を取ってよ!」


 叫び声を上げて少女に訴えるが、反応はない。すると、ボォォという嫌な音が聞こえた。足元を見ると、すぐ先で炎が燃え上がっていた。

 私はすべてを察した。

 言葉を口にする前に、少女が耳元で囁く。


「火葬パーティーへ、ようこそ」

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