23章の1
2016年8月8日、11時30分頃、いわき駅に向かう高速バスに正平は乗っていた。予約していたホテルのチェックインは16時からになっていたのでもう少し遅い時間のバスに乗りたかったけど、どういうわけだか高速バスの予約サイトではこの時間しか予約ができなくなっていたので仕方なくこの便に乗りながら、向こうでどうやって時間を潰そうかということばかりをバスの中で考えていた。今年から8月11日が「山の日」という祝日になったのでお盆休みが早く始まり遅く終わる可能性を考えて早めの夏休みをもらって旅の予定を組んでみたけど、すでに夏休みのはしりなのだろうか、「いわき号」は満員に近かった。首都高も混んでいて浜崎橋から八潮南ぐらいまでの渋滞を抜けるのにかなりの時間がかかっていたけど、向こうで潰す時間をバスの中で潰しているだけだと思っている正平にはまったく気にならない渋滞ではあった。
やがて、このところお世話になり続けているいわき駅が近づいてきた。「いわき号」はいつもなら駅前の目抜き通りを曲がって行くはずだけど、今日は警察と消防団が通りを封鎖していた。お祭りがあって車両は通行できなくなっているらしい。このところの旅をいわき駅を拠点にして進めていた正平には、その規制の様子からしてかなり大きいお祭りらしいことは容易に察することができた。そして東京駅~いわき駅間で「いわき号」を探していたから予約できなかったのではないかということにようやく気がついた。手前の停留所を選択していたら適当な時間のバスがあったかもしれない。そう考えると少し悔しい気持ちもあったけど、そんなに気にすることもないことなのですぐに忘れることにした。運転手さんの説明では「いわき号」は、いつもの目抜き通りを通り越してから左折するという別のルートで駅前に向かうみたいだったけど、そこも渋滞していた。先月のように列車との乗り換えがある移動ならば相当に焦ったのだろうけど、今日はいわき駅近くのビジネスホテルに泊まるだけの予定だった正平はまったく焦ることもなく、ぼんやりと祭りで盛り上がりつつある町並みを見ていた。
砂利が敷き詰められた駐車場には介護施設の送迎だろうか、リフト付きのワンボックスカーが車いすの利用者を降ろしていた。彼らを見ていると、普段とは異なった特別の場所での作業のような緊張感があったけど、今日ばかりは仕方がないことだと受け入れながら作業している雰囲気も漂っているあたりに、この祭りが地域に根差した大切なものであることを漠然と感じながら外を見ていた正平の目が一瞬だけど千夏の姿をとらえた。正平は「へっ?」という声を思わず発しながらも、そんな気がしただけかもしれないと思い十分に確認しようとしたら、これまで渋滞で止まっていたバスが一気に進んでしまった。もう少ししっかりと確認したかったところだけど、世の中はそんなものだろう残念な気持ちに包まれながら、もしかしたら本当に彼女だったのではないかと思う気持ちと、明日で旅が終わるから錯覚を見ただけかもしれないと思う気持ちと、お祭りに行けば会えるかもしれないという淡い期待を抱いたりそれを否定したりする気持ちと、もし会えたらどんな顔をして会えばいいのだろうかという気持ちと、5年と5か月前の揺れたときの気持ちと2年前の旅を始めたときの気持ち、そんなさまざまな気持ちが心の中に湧きに湧き続けて整理がつけられないうちに「いわき号」は駅に着いていた。
予定時刻からは遅れに遅れた到着だったけど、それでもチェックインまでは30分以上の時間があったので正平はいわきの町をぶらつくことにした。駅前の歩道橋と広場を兼ねたスペースでは警察官が立ち止まらないように警備をしていて、車両を通行止めにした目抜き通りでは音楽やら照明やらのチェックが入念になされていた。あたり一帯には笹と願い事が書かれた短冊の飾りがあって、裏通りにまで多くの露店が出店していたり評判の店なのだろうか祭りの人出に追いつかなくて行列ができていたりする常設店舗もいくつかあったりした。祭りに向かって人々の熱気が徐々に帯び始めている町の雰囲気を、ぶらつきながら満喫した。おそろいの法被やTシャツを着た人たちが沢山いたので、集団でなにかをするお祭りであることだけは理解できたけどそれがどんな祭りなのか、あとで食事がてらに見に来ようと思いながらチェックインして、お風呂に入って少しのんびりしてから正平は再び町に出た。
台風5号が今夜から明日の未明にかけて東日本の太平洋上を足早に北上していく予報だからだろうか、しっかりと強風域の円に入っていたいわき駅前には時折かなり強めの風が吹いていて、たまに強風に運ばれたように激しい雨も降っていた。ただ中止になるかもしれないと思わせるような天候ではなく、やがて熱気を帯びた人々が次第に集まりながら祭りは始まっていった。中高音を行き来しながらビブラートを効かせた伸びのある尺八の音が、少しだけ緊張感に包まれた参加者の気持ちを徐々に解放しながら興奮のテンションを上げていった。そこに小さな音で太鼓が重なってきてリズムが取りやすくなったと思ったら、尺八から太鼓に主役が変わっていった。そうなると参加者も各々に手拍子なり団扇拍子なりでリズムを取り出して、いよいよ始まるという雰囲気がいたるところから立ち昇った。そして民謡独特の節回しを効かせた男性の中高音で伸びのある歌声が聞こえると、通りを埋め尽くした集団が一斉に動き出した。右に1歩2歩3歩とステップして4歩目で大きくジャンプして、次は左に1歩2歩3歩とステップして4歩目で大きくジャンプする、そんな単純な歩みを全体で繰り返しながら練り歩く、そんな踊りがメインの祭りのようだった。
男性一人と女性二人が交代で歌うので長丁場の祭りのようだったけど、特にコンテストがあるような感じはしなかった。あったとしても参加者の大半は興味がないのだろうと思うぐらいに、グループの隊列はバラバラで思い思いにステップを踏んで練り踊っていた。ゆっくりと進むグループもあれば早く進んでしまうグループもあって、距離感を保つのに苦労しているところもあったりしながら、取れない統率をなんとか保って参加者全体で楽しんでいる雰囲気は、港町から農村、リゾートから工業地域、歴史的には炭鉱など国のエネルギー政策に翻弄されたり、そんな多様性受け入れてきた町だからこそ誰もが参加できて楽しめる祭りになっているのではないかと、そんなことを感じさせるような祭りで見ていて楽しかった。
東日本大震災で受けた傷だろうか、それとも日々の人間関係のストレスだろうか、そんな感じの重く苦しいマイナスの空気を左に3拍分ステップしながら貯めていき4拍目でジャンプしながら空高くに放り投げていく。それが空で一気に浄化されて明日へのエネルギー変わっていって、そのプラスに変わったエネルギーを右に3拍分ステップしながら勢いをつけて4拍目で大きくジャンプしながら体に取り込んで元気になって、さらに重いマイナスの空気を空に投げてプラスのエネルギーに大きく変えて受け取るということを繰り返しながら、どんどんと大きく華やかな動きになっていくようなさまは、この町が持っている歴史と今と未来と生きている人々の経験と情熱と夢が交錯しながら大きなエネルギーに変わっているような、単純な踊りの中に言葉にすることができないような奥深い魅力を感じて思わず飛び込みで参加したいぐらいの思いにかられながら、基本は老若男女が混ざったグループだけど男性だけとか女性だけとか若い人だけとか年配の人だけとかのグループもあるいろいろな隊列に見入っていた。
正と負のエネルギーのやりとりで何倍にも膨れていく熱気を、しっかりと発しながら楽しそうに踊っている一人一人を見ているのは本当に楽しい時間でもあった。楽しい時間とは裏腹に、重いしこりのようなものも正平の心の中に芽生え始めていた。この旅を始めるまでは、そしてこの旅を始めてからしばらくしてからも、被害状況は死者何万何千人、行方不明者何万何千人という感じで数字でしか把握していなかった。でも旅で会った人びとやこの祭りで踊る人々を見ていると、被害を統計という形式で単純に測るだけではわからないことが多いように正平は感じていた。そんなことを感じながら一人一人の笑顔を見ているうちに、いつの間にか正平は千夏を探し始めていた。根拠はない。いやあるけど、はっきりとはわからない。自分でもわからず他人に説明もできない根拠だけど、この町に千夏はいる。さっき見たのは間違いなく千夏だという確信を持って、多くの人が踊り歩くなかで彼女の姿を探し続けていた。祭りを盛り上げるためだろうか、低く設置されたサーチライトが時折眩しく視界を遮るのに少しだけイライラしながらも、介護施設か病院かのグループに居るはずだとして、プラカードがそれらしい施設だと特に入念に、でも仕事仲間で参加するとも限らないので通り過ぎるすべての集団の一人一人に意識を集中させながら正平は祭りを見ていた。
千夏を探しながら、ふと正平の脳裏に昔のことがよぎった。以前の会社を辞めたときも「根拠」がキーワードだったことを思い出しながら、視線では千夏を探し続けた。正平が大学を卒業して社会人になったころは、ようやくWindowsが出回り始めたころだから、今よりも圧倒的に書類を手で書いていた時代だった。だから営業先の人がペンだこの痛みに耐えながらも必死に伝票を書いている姿を、いつも見ていた。経理を担当している同僚がペンだこの痛みに耐えながら正平の持ってきた領収書を帳簿に書き写しているのを、いつも見ていた。正平自身も報告書を何枚も書かされながら何度も書き直しを要求されることが多く、中指の痛みが増してくるとともに腹立たしくなったことも何回もあった。フッとボールペンに溝なりゴムなりラバーなりをつけて滑り止めにしたらみんなが楽になるのではないかと思い、居酒屋で上司や同僚に相談してみた。その瞬間から商品化に向けた動きが一気に始まって、あっという間に試作品ができ、評判も上々、社の同僚や取引先でのテストを重ねていくうちに、関わった人の多くがこれは売れると感覚的に確信していた。
案の定、数値化したアンケートの評価も悪くなかった。むしろ正平が入社してて以来にないぐらいに最高の数値だった。普段は書かれることが少なく書かれていても否定的なことが多いアンケートのコメント欄も、ほとんどの人が書いてくれていて悪い評判は皆無だった。「疲れないし痛くならないし書きやすいので、つい書いてしまいました」という嬉しいコメントも一つや二つではなかった。現場の人間の誰しもがヒット商品になることを確信していたのに、企画開発担当の部長が「売れるという根拠をデータ化してもらわないと商品会議には出さない」と返してきて、いきなり暗礁に乗り上げてしまった。数値化したアンケートやテスターの声以外に売れるというデータ化した根拠を作る、その難題を解決できないうちにライバル他社にあっさりと抜かれた。それだけでも悔しかったのに、ストップをかけた本人が他社に先を越されたことを部下の無能の一言でまとめて言いふらしているのは本当に腹立たしい限りだった。彼が創業者の親族で自動的に出世してしまうこともあり、会社への希望を一気に失ってそのまま思考停止になり辞表を出して今に至ることを正平は思い出しながらも、今の確信があの時と同じ確信であるということに若かりし頃の自分への懐かしさを感じながら、視線だけは彼女の姿を探した。自分でも狂気の域に近づいていることを感じながら、それでも千夏の姿を探していた。
それにしても一人一人が輝いている姿は、本当にキラキラとしていて本当に素敵だった。人間ってこれだけ輝けるものなのかと驚きながら魅入っていると、
「お久しぶりです」
と、いきなり後ろから肩をたたかれながら声をかけられた。正平はその声を聞いた瞬間に、会いたかった人に会えたような感じと会ってはいけない人に会ったような感じ、そんな二つの動揺を重ね合わせたようなバクンという心臓の音を体全体で聴きながら反射的に振り返った。その目の前は思った通りに、千夏がいた。
「久しぶり」
そう返すだけで精いっぱいの正平に、
「どうしたんですか? なんでここにいるんですか?」
と千夏は畳みかけて聞いた。なぜ、自分がここにいるのかを正平が説明するにはある程度の時間が必要だった。でもそれは、正平にとって面倒くさいことでもあったし、多くの人に理解されないだろうことでもあったので、
「なんとなく……たまたま……」
という曖昧な返答を正平はするしかなかった。そんな正平に質問の続きでもするかのように、
「一般的には7月7日だけど、こっちは8月8日が七夕まつりだから、もしかしたら私たちって彦星と織姫なのかもね」
と千夏は続けた。正平は、手をバタバタさせながら話す千夏の左手にある指輪に気がついていたので、本物の彦星になんだか悪い気がして、
「そうだね……彦星の牛と織姫の機織り機みたいだね」
と、少しだけとぼけて答えた。そんな正平の答えが5年前と変わらない雰囲気を感じさせてくれるあたりに、なにかホッととしたものを千夏は感じていた。
千夏はデイサービスの送迎中に普段は通らないはずの「いわき号」に気を取られて視線を移したら、その中に正平がいることを見て驚いた。僅かな不注意が重大事故につながる仕事だからと切り替えて仕事に集中しながらも、落ち着ける時間は突っ走ってきた5年の月日のことを思い出していた。そして来る予定はなかったいわき祭りに足を向けながら、これまで突っ走ってきた月日の取り留めのない思い出が頭の中を駆け巡って、涙がこぼれ落ちそうだった。もしかしたら見間違いなのかもと思いながら、それにある程度の期待もしながら来てみたら、いわきおどりを食い入るように見ている正平をあっさりと見つけて、今にも溢れ出しそうな涙をこらえながら迷いに迷って正平に声をかけて以前と変わらない彼の姿を見て少しだけ堰を切った涙を隠すためには、正平らしい少しずれた答えはちょうどいい機会だった。思いっきり笑って、笑いながら涙をあふれさせてしまおうと、意識的に思いっきり千夏は笑った。正平は、千夏の目に光るものがあるのをみて彼女の5年の年月の重さを察しながらも、あまりに笑う彼女に姿に、
「そんなにおかしいこと言ったつもりはないんだけど……」
とすねたような素振りで反論をしてみせた。その言葉に、千夏は両手の人差し指で涙をぬぐいながら、それでも笑いながら、
「ごめん……なさい……」
と繰り返しながら、ゆっくりと笑いを納めていった。
それにしても東京にいた時から、ふにゃほわとしていて捉えどころのない人という印象しかなかった正平がなにかズンと芯を通した感じになっていて、それでいてふにゃほわ感を増しながらここにいることを、千夏はどうしても確認しないままでいるわけにはいかなかった。それは、
「なんで、ここにいるの?」
という自分でも失礼だったかなと思うぐらいの口調で再び質問したあたりに現れていた気はした。すると、
「君に謝りに来た」
と、まったく予想もしていなかった正平の答えが返って来て、千夏は戸惑った。そんな千夏に正平が 、
「あの時、震災の時、自分だけ先に逃げて、本当にごめんなさい」
と追い打ちをかけたので、さらに千夏は戸惑った。戸惑いながらも、正平を見かけてから5年間の記憶の旅をしてきた千夏は、もう少しだけ記憶を掘り下げてみることにした。あの日、大きく揺れている中で、いきなり逃げ出した正平を腹立たしく思った記憶は微かにあるけれど、帰りに荷物を取りに行った時にお局様の仕込んだ書類爆弾の直撃を受けていた自分の椅子と机を見て、連れ出してくれた正平への感謝をしていた。それが、いつしか感謝だけに記憶が変わっていたのかもしれない。千夏の記憶では、正平は救ってくれた神さま仏さまだった。千夏は自分の記憶と正平の記憶とのズレを感じながらも、途中の説明を抜きにして、
「あの時は、ありがとうございました」
と答えていた。千夏の記憶の遡上を理解しているはずもない正平は、人生の中でも類を見ないレベルで戸惑いしばらく固まってしまった。そんな記憶のズレを修復するための二人の会話は、時間がわからなくなるぐらいに楽しく盛り上がった。
そんなに長くはない時間だった気もするけど、正平にとっても千夏にとっても久しぶりに楽しい時間だった。どれぐらい時間がたったのだろうか? 不意に正平が、
「デカ彦星さんとチビ彦星さんが君を呼んでいるみたいだよ」
と言った。向こう岸には肩車をされた息子が、こっちに向かって大きく手を振っていた。千夏はあれが私の子どもということを、なぜ正平がわかったのだろうか? ということについても気になるところだったけど、それよりなにより息子の置かれている危険な状況の方が気になった。なにを食べたのかは知らないけど割り箸を口にくわえて肩車に乗っている姿を見ると、なにをやっているのかとここからでも怒鳴りつけたくなるのは母親の性というものだろうか、千夏は自分でも驚くような大きな声で、
「あのバカが……」
とつぶやきながら、
「じゃあ、またね。」
と言って正平に手を振りながら、対岸を目指していた。正平が旦那だと思ったのは実は弟で、今夜は祭りに来る予定が全くなかったから帰省していた弟に息子の世話を頼んだだけなんだけど、そのことはわざわざ正平に説明しなくてもいいことだろうなぁとも思いつつ対岸の息子のもとへと急いだ。
チビ彦星さんの様子を見た瞬間から、正平の知っている千夏が母親としての千夏に変わっていたのはわかった。箸をくわえながら動くことが小さい子どもにとって大きなリスクであることは、結婚もしていなければ子どもがいない正平でも経験でわかっていた。だから千夏がなにかをつぶやきながら慌てて対岸へ渡ろうとしたときに、母親としての本能がそうさせるのだろうということも理解できたし、それが妙に微笑ましかった。千夏に「またね」と言われても連絡先も知らないし、わざわざ調べて連絡するのも少し違う気がするから、縁があればまた会えるのだろうと思いながら、真ん中で流れが真逆になる群衆の川を起用に渡る織姫さんの姿を見て、千夏がこの町にいると確信した根拠がわかった気がして、思わず笑ってしまった。この祭りのステップは、あの時に倉庫で正平の脇をすり抜けていったあの千夏のステップそのものだった。千夏が子どもの頃から慣れ親しんでいたステップを、あの揺れの中で瞬間的に応用させていたのだと思う。答えはわかってみれば笑えるぐらいあっけないものだった……。
対岸に渡って二人の彦星と対面した織姫が見せた鬼のような形相と幸せそうな笑顔を見届けてから、正平はホテルに戻った。千夏と会えたからか、いわき祭りの「ドンドコ、ドコドコ、ドウォッセ」というリズムが耳に残っているからだろうか、リオデジャネイロオリンピックが始まってその中継をぼんやりと見ているからだろうか、台風の影響で強風がホテルの窓をなでるからだろうか、明日で旅が終わるというこの数か月間抱き続けているドキドキのせいだろうか、なかなか寝付けないでいた。明日はフェーン現象で相当に暑くなることが予測できるだけに自分で自分が心配になるところもあるけど、こればかりはどうにもならなかった。興奮しやすい五輪中継ではなくて別のチャンネルの方が落ち着くのではないかと思い変えてみたら、百名山を歩いて踏破することに挑戦した人の番組の再放送、それも最初の回が放送されていた。最初に番組を見たときはバカな人がいるものだと思ったけどなんとなく見ていてその挑戦に惹かれるものがあったことも、この旅を始める一つのきっかけだった気がしている最近の正平は、旅の最終日の前夜、正確には当日の夜というか朝方というかそんな時間に、この旅のきっかけになった番組を見ていることに不思議な因縁を感じながら、寝ているのか寝ていないのか自分でもよくわからない時間を過ごしていた。
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