13章
2015年9月11日8時30分頃、正平は中里海岸のバス停にいた。先月、苦しめられた有料道路の脇道をとりあえずは北上していったけど、川を渡る当たりで脇道はなくなってしまったので九十九里ビーチラインと名付けられた県道30号線を軸に北上していった。歩道はしっかりと整備されていたけど、右には砂防林が海への視界を遮り、左には住宅が立ち並ぶという感じで、そんなに面白い旅にはならない予感が漂うスタートだった。
しばらく歩いても特に変化がなく飽きてきたところで先月のように砂浜でも歩いてみようとして見たけど、いたるところが護岸工事中で海岸沿いは進むことはできない状態になっていたので国道30号線に戻って次の川を渡ったあたりでもう一つ海寄りを行けそうだったので道を移したけど、そこは右も左も住宅地で海岸に行く道はあるにはあったけど厳重に締め切られていた。海が近くにあるはずなのに、そしてそれを肌や耳で感じてはいるのに、海が見えるところは歩いて行けないというもどかしさで歯がゆいばかりの道のりだった。
やがて川を渡るために県道30号線に戻らなくてはならなくなった。川を渡るとじきに蓮沼海浜公園が右手に現れた。先月は盛況だったのかなと思えるようなウォータースライダーまでも備えたプールが中心の公園だったけど、今はお客が一人も居なくて従業員が掃除をしているだけという寂しい状況であった。基本的には公園なので中を通って海まで行くことはできそうだったけど、先ほどと同じように砂浜の近くは護岸工事中で海までは行けなかった。正平は、ここが被災地であることを目の前に突きつけられた思いがして、福島・宮城・岩手の三県だけが被災地だと思っていた自分の頭に現実の矢が突き刺さったようなショックを受けた瞬間だった。
調子が悪ければこのあたりで路線バスに乗って横芝駅に行く計画だったけど、日帰りの割には好調だったので隣の市まで進んでコミュニティバスで近くの駅に向かうというもう一つの計画を選択した。このあたりは鉄道と海岸が離れているから、来月のスタートのことも視野に入れながら計画を練ったつもりだったけど、思いっきりコミュニティバスがなかった。いや、正確にはあることはあるけど、朝夕に二本ずつとお昼に一本ぐらいしかなく、次のバスまでは3時間近くあった。それならば近くの駅まで7~8キロだから1時間半ぐらいを歩くほうが早くて楽な気がしたので、正平は最寄りの飯倉駅まで歩くことにした。
動揺を引きずるというのは、こんなにも足が重くなるものなのだろうか? この旅で初めての経験に、正平は少し戸惑っていた。コミュニティバスを調べていただけの時は、路線図を見る限りは横芝駅でも飯倉駅でも乗り場を選べば行くことができると思い込んでいた。でも、そこに原因があるわけではない。目標としていたバス停にあった時刻表にも、横芝駅や飯倉駅まで行くバスは確かに出ていた。おそらく、駅まで行くコミュニティバスのルートばかりを中心に調べたから、一便のだけの詳細な時刻表を見てして判断したことが原因のような気がする。そして、それは出発が8時台のバスであったことをうっすらと記憶している。そこにあった数字……8便だか8番車だったかNo.8だったかは忘れたけど、朝の8時で8車両もでるのだから1時間に1本ぐらいはあると思い込んでしまったのが失敗だったようだ。バス停の時刻表を見ると市のコミュニティバス全体での通し番号だったようで、正平は完全なる敗北を認めざるを得なかった。それは、自分自身に責任があることは百も承知しながらも、もう少しわかりやすくしてほしいという八つ当たりをしながら、飯倉駅に向かった。
飯倉駅に向かう途中で下校中の小学生の集団に出会った。先頭は6年生だろうか、彼が「こんにちは!」と大きな声で挨拶すると、年齢順に列をなしている感じの一行が次々に正平に挨拶していった。正平も、一人ひとり丁寧に挨拶を返した。やがて1年生だろうか、黄色い帽子の男の子と女の子が遊びに夢中で素通りしていった。すると、少し前の女の子が「ちゃんと挨拶しなさい!」と注意したので、二人も正平に挨拶した。東京あたりだと子供が警戒して挨拶をすることもないし、子供と挨拶をしているだけでも変質者として通報されかねないし、実際にそういった事件も多いのでどちらが正しいとはか軽々に言えないような時代的な問題でもあるけど、こちらの方が今の正平には嬉しかった。実際に、彼らと会った後は足が軽くなった気がした。そんなこんなで、なんとか飯倉駅に着いた。
すでに夕暮れ時だった。駅の時刻表を見ると、日が暮れてからの発車になりそうだったので、駅の近くでコンビニを探しておにぎりとお茶を買って食べながら列車を待った。駅の近くにコンビニがあったことはよかったけど、それを喜ぶことも食事を楽しむこともできないぐらいに正平はぐったりとしていた。今にも眠りそうな疲れの中で、総武本線に乗り、千葉駅で総武線に乗り換えて、品川駅から山手線に移るという家路はつらかったけど、来月のスタートもこの道のりを行かなければならないのだと思うと気が重苦しくなるばかりだった。
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