マギコの意志

その後―フレンシップは駆け付けた〈組合〉の魔法少女達に連行されて行った。

逃亡を図られないよう、左右を魔法少女―私よりずっと強そうな―に挟まれる

形で連れていかれたが、本人はそんな素振りは見せず、ただ・・・・・・地面を

見つめていたばかりだった。

「あの・・・・・・お姉様・・・・・・」

私は空き地の真ん中に立つエディお姉様に声を掛けた。他の目的で下界に

来たとは言え、こうしてお姉様に会うのは、久しぶりだった、から。

するとお姉様は此方に振り返りヒールをカツカツ鳴らしながら向かって来て、

「あう‼」

私の頭にげんこつを思い切り押し当てた。

「なっ、なにっ・・・・・!」

「全く君は本当に私の迷惑ばかりかけてくれるなぁ!」

グリグリ拳を押し込んでお姉様が呟いた。

「あう、あうあうあう・・・・・・‼」

「はぁ・・・・・で、お前は此処で何をしているんだ?」

お姉様は私に食らわせた拳を腰に据え、立ち上がって言った。

「・・・・・えっと・・・・・そのぉ・・・・・・」

〈奉仕〉をしています!―そうきっぱり言えば良いのに、私は言い訳を必死に

捻り出そうとする子供の様に口をもごもごさせた。すると、お姉様は呆れた様子

でため息を一つして、

「アリカ姉様から〈奉仕〉をしろと言われて来た・・・・・・はっきりそう言えば済む話ではないのか?」

「な、なぜそれを・・・・・!」

「君が本部に呼び出された日、〈組合〉の者から君が〈奉仕〉をする事に

なったという話を耳にしてな。ところが彼らの様子が今一つ妙で、

私が問いただしてみると・・・・・済まない、今の話は少し語弊がある。

私はアリカ姉様から君の〈奉仕〉の詳細を訊いたのだ。

しかし、その内容は余りに馬鹿げていて・・・・・・・マギコ、

今からでも遅くはない。私と共に戻ろう」

「えっ・・・・・・・?」

いきなりお姉様がそんな話を―そんな提案をしてくるとは夢にも思わず、

私は間の抜けた声を発した。

「アリカ姉様が何を考えているのか私には解らない。だがこの〈奉仕〉は

明らかに違法だ。そんな形で君に魔法少女としての称号を勝ち取らせたくは

・・・・・・私はない。再び戻り、もう一度やり直すという選択肢の方が、

ずっとまともだ。さあ、私と共に帰ろう、マギコ!」

お姉様はそう言って、私に手を差し伸べて来る。

私はそれを・・・・・・取らない。

「何を迷っているんだ、このままでは、君は・・・・・」

「お姉様・・・・・・・私は・・・・・・帰りません・・・・」

「っ・・・・・‼」

お姉様が驚きの表情を浮かべる。私は今まで、お姉様のこれ程驚かれる

姿を見るのは・・・・・・初めてだった。

「何故だ! 何故君はそんなっ・・・・解っているのか、その決断は、

自分を陥れる行為そのものであるという事がっ・・・・・‼」

「お姉様がそう言ってくれて・・・・マギコは嬉しい、です」

「だったら何故・・・・・・」

「私は・・マギコは・・・ここで逃げ出したくありません。自分に

与えられた役目を放棄することも、目の前の誰かに背を向けて帰りたく

ありません! 私にもう魔法はない―それは覆ようのない真実です。

ですが・・・・・やっぱり私は役に立ちたい! 目の前の・・・・・・

雨の役に立ちたいです‼」

「・・・・・・・・それが君の、マギコの出した言葉か」

「はい‼」

「そうか・・・・・・なら―しっかりと役目を果たせ」

「えっ・・・・・・!」

「なんだその顔、私が君の意見を呑むのがそんなに不自然か?」

「いやっ・・・・決してそういう訳では・・・・・」

慌てる私の頭を、お姉様は優しく撫でて、

「君が羨ましいよ・・・・・マギコ。私もこうして、自分の心を

素直にさらけ出せる強い魔法少女なら、な」

と、微笑して言った。その顔は何処か悲しげで・・・・・・・

やがてお姉様は踵を返すと、空き地を去って行った。

「あのっ、エディお姉様は・・・・・私の尊敬する魔法少女で、その・・・・・・

・・・・・大好きなお姉様です!」

「・・・・・・・・」

お姉様は何も言って下さらなかったけど、私はお姉様が・・・・・・

・・・・笑っている様に想えた。

「マギコ」

後ろから雨が声を掛けて来る。

「はい」

「今の、マギコが言ってた、マギコのお姉ちゃん?」

「・・・・・・はい」

「なんだか、優しそうな人だったね」

「はい。私の、自慢のお姉様です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る