第221話 俺の貴族活動の進捗報告1


 早いもので俺がウェンブリーの領主になって半年が過ぎた。

 ログナイトの糞ジジイとレイの模擬戦や、後は軍事演習を行った事で俺に対して喧嘩を売ってくるバカ貴族は少なかった。

 自分の娘を是非嫁にという手紙を送ってきてそれを断ったら「よくも断ったな! 叩き潰す!」と喧嘩を売ってきた奴は三回あった。

 しかしこちらには優秀な諜報部隊の《黒狼》がいるので、セバスチャンに命令して戦争になる前に沈めて貰った。

 勿論相手を誰一人殺してはいない。ちょっと脅しをかけただけだ。何て言って脅して沈めてくれたのかは頑なに教えてくれないけど。


 今俺は、アーバインの墓の前にいる。

 命日とかそういう訳じゃないけど、たまにここに来てアーバインと語らったりしている。

 当然アーバインと会話出来る訳じゃないけど、何故か見守られている気がして落ち着くんだ。

 

「よっ、アーバイン。今日もお前が好きだったワインを持ってきた。あの世で女神様と飲んでくれ」


 墓前に高級ワインをことりと置いた。

《音楽貴族》として慕われていたアーバインの墓は、とても豪勢で大きかった。

 さてさて、いつも通り定時報告でもしますか。


 あれから半年。俺の周囲は大きな変化があった。

 まずは軍事の部分。

 レイが専門で受け持っている兵士育成だけど、レイは近接専門部隊の《白牙びゃくが》だけでは満足せず、魔法専門部隊の《白撃はくげき》を設立した。

 突撃する《白牙》の道を、遠距離魔法爆撃で切り開く《白撃》といった配置を考えているようだ。

 レイの時間が空いたら自ら訓練を課しているから、兵一人一人の練度は相当高くなっている。

 だが正直この世界の戦争だと、どうしても兵士の消耗は避けられない。

 俺はまだ貴族に成り立てで軍事に大きく予算を回せる程余裕はない。もし私兵が戦死した時、遺族に対して金を支払わなくてはいけない。当然それも厳しい。だから俺は私兵が死なないように出来ないかを考えた。

 それをレイ、リリル、アーリアを含めた隊長職の私兵で会議を行ったところ、一つの案が浮かんだ。

 ヒントは俺が参加したヨールデンとの戦争の時だ。

 俺達は数的不利にあったので、地の利を活かして相手の兵を削っていった。

 つまり俺達も正面からぶつかるだけではなく、様々な戦術を使って相手の戦力と士気を削る戦争体系をやろうという事になった。

 基本は俺の音属性の魔法で通信が出来る状態にし、作戦本部とリアルタイムでやり取りが出来るようにする。

 作戦本部には作戦を組み立てる将軍職を新たに数枠設け、正確に指示を伝えられる文官を配置する。

 こうする事で臨機応変に作戦を指示出来るし、変則的な戦術も可能となる。

 勿論日頃から練習しないといざという時に機能しないので、週に一度は領地の空き地を利用して軍事訓練を行った。

 また《白牙》と《白撃》にはサバイバル訓練も課し、基礎体力訓練はさらに厳しく行った。

 しかし訓練がなかなかキツいので、休暇を週三日にしたところ私兵皆から喜ばれ、訓練や街の防衛業務により集中出来るようになった。

 他にもこいつらには仕込んでいる事はあるんだけど、長くなりそうだからまた今度って事で。


 次にリリルが担当している業務だ。

 リリルは治療院の院長をやっている。水属性魔法に適正がある魔術師を抱え込み、領民の病気や怪我の治療に対応出来るように人材育成を行った。

 結果その成果は出ていて、領民のみならず他領地から治療してもらう為に駆け込んでくる人もいる程優秀な魔術師に育った。おかげで他領地から来た人達も街で金を落としていってくれるから、さらに懐が温かくなってありがたい。

 治療院は入院病棟も用意していて、あまり高くない値段で入院出来るように設定している。当然治療代も良心的な値段だ。そのおかげか皆遠慮せずに利用をしてくれるから、常に治療院の待合室は満席だったりする。

 さらにリリルは自分が設立した治療部隊である《青光せいこう》の運営にも相当力を入れてくれている。

 兵の犠牲を少なくするのは治療の速さだと熱弁を振るい、私兵の中から水属性魔法に適正がある二十名をチョイス、育成を行う。

 これも良好で、怪我をしても速攻で治療にあたってくれるので私兵達からも喜ばれている。

 本当にリリルには感謝しているよ。

 しかし一つ気掛かりがある。

 リリルは治療院で率先して自ら治療にあたるので、彼女に一目惚れする男性患者が続出している。

 リリルは丁重に断ってくれているが「貴女の愛人でいいのです! どうかお側に!!」とぐいぐいアプローチをかけられていて、なかなかに困っているのだとか。

 まぁリリルは見た目気が弱そうな美少女さんだからなぁ。強引にでも押せば関係を結べると思っているようだった。

 流石に頭に来た俺は、なるべく時間を作って合間にリリルの元に行くようにしている。そしてイチャついているところを見せつけて恋慕しようとしている輩の心を折ってやっている。

 その程度で済んでるんだ、ありがたく思えよ?


 アーリアは俺の音楽活動を支える為に様々な魔道具を開発しているが、身体が鈍らないように銃の訓練は毎日欠かさず行っていた。

 その過程で生まれたのが遠距離射撃部隊の《虹弾こうだん》だ。

 今いる私兵にも、何かあった場合の射撃訓練をさせているんだけど、その中で特に射撃が上手かった十人をアーリアは捕まえた。

 そして《ドールズ商業連合国》から仕入れたスナイパーライフルを使って、狙撃の練習を開始。

 するとアーリアとその十人は、一キロメートル離れた相手に命中させる事が出来る位に上達したんだ。

 アーリアは魔眼の影響か視力が非常に良く、動き回る相手でも一キロメートルの距離なら余裕で当てられるようだ。

 他の十人は動き回る相手には厳しいらしく、要練習といったところだ。

 部隊の運用方法としては《白撃》のように爆撃ではなく、小隊の中に一名狙撃手として混ざり、後方から指揮官と思われる人物を狙撃したり旗手を撃ち殺すのが仕事となる。

 敵に近付かれた場合はハンドガンとか手持ちの剣で応戦出来るようにはしているようだ。

 しかし、アーリアのおかげで一つわかった事がある。

 ドールズから仕入れた銃器だけど、どれも前世の銃のデザインと酷似しているんだ。

 つまり、これを作った奴は俺と同じ前世の記憶を持っている可能性が出てきた。

 生憎剣と魔法が重要視されているこの世界において、銃は軽視されていて流行はしていない。

 広まる前にこれらを作った人物と接触をして、何とかしてこちら側に率いれたいと思っている。

 セバスチャン率いる《黒狼》には最優先事項として動いてもらっている。近々良い報告が出来るかもしれないとの事だから、非常に楽しみだ。

 

「とまぁ、こんな感じだよ、アーバイン。軍事部分はログナイトのじいさんとライジェルでやった軍事演習が効いているおかげで、無駄な争いは起きていないのが救いだ」


 語りかけているのはもう死人だ。返事はない。

 でも何でだろうな、微笑んで頷いてくれているような気がする。

 あいつは多分、女神様の元で転生しているかもしれないのにな。

 死人だからこそ、俺はこうやって気兼ねなく話せるんだけどさ。


「ごめん、もう少しお前と語らいたいんだ。付き合ってもらっていいか?」


 まぁ返事はないけど、悪いけど付き合ってもらうよ。

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