第214話 悪魔の支援
開門の挨拶が終わった俺達は、ゲストと一緒にウィード家の屋敷へ案内した。
俺の街であるウェンブリーの丘のてっぺんに建てられた大きな屋敷こそが、俺達家族の新しい家なんだ。
この丘から街が見下ろせる、絶好の物件だ。
正直言おう、俺が苦労して一から作った街だ、それを一望出来るんだからニヤニヤが止まらない!
今回招待したゲストは、貴族科の卒業試験で縁を結べたオーランド公爵、リリアーナ公爵、ログナイト公爵、バルディアス公爵、ララ公爵。
そして仲がいいライジェル夫婦に《
ヨールデンとの戦争でお世話になったニトスさんにも声を掛けたが、都合が合わなくてお祝いの手紙が届いた。まぁタイミングが悪かったんだろうな。
屋敷は三階建てで、今俺達は三階にある応接室にいる。
窓からは街を見下ろせて、天気がよければうっすらと王都のお城が見えるんだ。
ちなみにウェンブリーは王都から馬車で約一時間弱の距離で、そんなに王都から離れていないから巨大建造物であるレミアリア城も見れる。
招待した面々は、窓際にべったりとくっついて俺の街に熱い視線を送ってくれている。
俺が――いや、俺達が作った街に釘付けになってくれるのは、本当に嬉しいんだよなぁ。
「流石我が友だ。素晴らしい街を作ったものだ」
オーグがまるで自分の事のように誇っている。
こいつは友達と認めると、とことん甘くなるなぁ。嬉しいけどさ。
「ああ。皆俺の構想に全力で当たってくれて、実現してくれた。俺一人じゃ絶対無理だったさ」
「それでも、お前の構想だろう? 構想は時に夢想で終わる。だが最後までやり遂げたんだ、誇っていいと私は思うぞ」
「……オーグ」
さらりと俺を誉めてくれている。何か照れ臭くて仕方ない……。
「さて、新米貴族の我が友よ。貴族としての目標を聞かせてもらえないか?」
「どうしたオーグ、急に」
「ふっ。ちょっと先輩ぶりたかっただけだ」
「まぁ確かにお前は貴族の先輩だわな」
二人して小さく笑う。
「そうだなぁ……。とりあえず、音楽といったらウェンブリー! って言われる位の街にはしたいかな」
「漠然としているな」
「そりゃそうさ! だって、まだ貴族になったばかりだから、どんな事が起こるか皆目検討もつかねぇし」
「確かに。貴族は色々と面倒な事が多い。しかし、その分やりがいもあるのだ」
「やりがい?」
「そうだ。良い政策を行えば、領民から笑顔が帰ってくる。逆に悪い政策であれば反発が来るがな。その一瞬一瞬が刹那的で、私はとてもやりがいと共に誇りを感じられる立場だと思っている。まぁ私はまだ領地を持っていないがな」
それでもこいつはこいつの親父が領地で頑張っている姿を、小さい頃から見ている。
だから貴族という立場に誇りを感じているんだろう。
そうそう、将来は親父さんの跡を継いで、領地をそのまま譲り受ける事が確定しているらしい。
王都にある楽器の生産工場はそのままにして、領主と工場経営者、そして俺のバンドメンバーの三足のわらじで頑張っていくようだ。
最初は反対していたバンド活動だが、すっかり俺達の大ファンになってくれたようで、親父さんは隠居せずにそのまま領主代行として働いてくれるのだそうだ。
「ま、俺は俺なりに頑張るさ」
「ああ。何か手助けが出来る事があったら、いつでも頼ってくれ」
「勿論さ!」
街を見下ろし、賑わっている様を見ながら俺とオーグは拳を軽くぶつけた。
「さて、少し貴族の話をしようぞ」
五人の公爵が俺と向かい合って座り、ログナイト卿が話を切り出した。
ちなみに俺側のソファーに座っているのは、レイ、リリル、アーリア、そして《
俺の嫁達とオーグ以外は一般人で、この面子で緊張しまくっていた。
「ね、ねぇハルっち、私達一般人がいてもいいの、かな?」
「そ、そうだよハル。お、俺達は一旦席を外そうか?」
「流石のオレも、結構緊張するんだけど……」
ミリアとレイスは仲良く腕を組んで固まっていて、レオンは冷や汗を垂らしている。
「よいぞ、何せお主達のバンドとやらも少し関係しているからの」
「えっ、俺達もですか?」
「左様じゃ。では話に入るぞ」
ログナイト卿がひとつ溜め息を付いて、神妙な面持ちで話し始めた。
「とある馬鹿な貴族が、大々的に動き出しておる。しかも相当な勢いを付けておってな、近々貴族同士での大きな戦が始まるやもしれん」
「……は?」
俺はログナイト卿の言葉に、変な声で返事をしてしまった。
だってそうだろう?
貴族間での戦が始まるって言われたんだからさ。
「今その馬鹿な貴族は、よくわからぬ手を使って勢力を拡大しておってな」
「よくわからない手?」
「うむ。どういう訳か戦で取り込んどる訳ではなく、支援をして恩を売り、そして相手自ら志願してそやつの勢力に加わっているんじゃ」
そういやぁ、そんな話を聞いたな。
しかしどんな手だろうか?
具体的な事を聞き出してみるか。
「ログナイト卿、その馬鹿はどういう動きをしているんでしょうか?」
「それがな、食料等が行き渡らなくなっておって飢饉が起きてるんじゃ。そこにその馬鹿が支援をしておる」
「ただ、それだけ?」
「ではない。支援をしておるが大抵は大量の死亡者が出ておってな、税収が見込めずその馬鹿の傘下に加わったという形じゃ」
支援をしたのに大量の死亡者……?
支援って事は飯を与えてるんだよな。
それなのに死んでいる。
……あれ、何かそれ、どっかで聞いた事ある。
もう少し、もう少しわかれば明確に思い出せる気がする!
「ログナイト卿。その飢饉はどのようにして起こっているんですか?」
「詳しくは情報操作されておってな、わかっておらん」
「……どれ位飢饉が起きているんですか?」
「約二週間。ほとんど水しか飲めない状態じゃ。しかも畑は盗賊に根こそぎ荒らされていて、外部からの買い付けも出来ない状態じゃったそうだ」
二週間水のみ……。
それで、支援?
「その馬鹿がやった支援って、何でしょうか?」
「ふむ。大量の食事を領民に与えたそうじゃ」
「っ!!」
思い出した!
俺は席を立ち上がってしまった。
そりゃそうだ。これは悪質極まりない方法なんだからな!
回復魔法が発達しすぎて医学の知識が乏しいこの世界で、よくもまぁこんな残酷な手を閃いたもんだよ!
ああ、胸糞悪い前世の出来事を思い出しちまったじゃねぇか!
「ど、どうしたの、ハル君?」
俺の態度にリリルが心配そうに声を掛けてきた。
だが今の俺は、それに優しく返す事は出来なそうだ。
「ログナイト卿。その馬鹿はただの馬鹿じゃないです。相当な糞野郎ですよ」
「む? どういう事じゃ?」
「この支援、見た目は慈善的にやってますけど、支援を装った大量殺人ですよ」
「何!? じゃが、食料には一切毒などはないという情報が入っておるぞ」
「だったら尚更ですよ。恐らく意図的に飢饉の状況を作り上げ、領民を空腹状態にして食料を与えた。すると、人間の体はとある症状に陥ります」
「なんじゃと……」
ちっ、本当にその馬鹿はとんでもねぇ奴だ。
領民を殺して取り込んでしまうんだからな。
「恐らく、リフィーディング症候群」
部屋の空気が静寂に包まれる。
そして――
『何それ?』
あっ、そりゃ知らないよねぇ。
ドヤ顔で言った俺、恥ずかしいな……。
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