第192話 大学で一騒動
「「「「つかれた~……」」」」
俺達四人は、屋敷に入った瞬間に玄関で倒れてしまった。
やべぇよ、あの特別授業!
俺とレイは日頃訓練しているから楽勝だって思っていたんだけど、マーク先生は俺とレイの両腕両足に重りを付けたんだ。
これがただの重りだったらよかったんだが、実は魔道具で、マーク先生の掛け声で重さを自在に変えられて、且つ魔法を封印する魔道具だったんだ。
「貴様達二人なら、三段階目でいいだろう」
とは、マーク先生の言葉。
この三段階目っていうのはなかなかキツくて、体感的に十キロの重りに感じた。
流石の俺とレイも、この重さは非常にキツくて、体力面で得意ではないリリルとアーリア二人と一緒にぜーはーぜーはー言いながら走っていた。
ちなみに先生に突っかかった生徒は、最大重量の五段階を受けているようで、立つ事が出来ずに這っている状態だった。
今頃はまだ、マーク先生の監視下で校庭を這っているだろうなぁ。
この苛烈な特別授業を味わった生徒達の反応は、今後はしっかりと先生の言う事を聞こうと胸に刻んだみたいだ。
俺達は元々先生に何か不満がある訳じゃなかったから、別に胸に刻むものはないんだけどね。
「なぁ、皆。もう今日は疲れて動きたくないからさ、カロルさんに頼んで食事持ってきてもらわね?」
「「「さ、賛成……」」」
ウィード家の専属商人で、今後は俺が立ち上げる音楽レーベルや専門学校の運営で取締役になって貰うカロルさんは、何人も料理人を抱えている。
今は時間としては十七時。そろそろ領地運営の打ち合わせでうちに来るから、その時に頼もう。
だめ、もう今日は両腕両足がダルくて動かない。
俺達は何とか立ち上がるも、背筋を伸ばす事が出来ない。
四人とも老人のように腰を曲げてフラフラと歩く。アーリアなんて元王女なのにそんな威光は見る影もない。
リビングに辿り着いた俺達は、ソファにばたんと倒れ込んだ。
本当、こんなに疲れたの久々かもしれねぇ……。
「きょ、今日は本当に、辛かった……」
とは、リリルの言葉。
もう弱々しくて消え入りそうな声で呟いた。
仰向けに寝っ転がっている為、大きな胸が呼吸に合わせて上下に動いている。
疲れているけど、俺はそれを見逃さない!
レイはうつ伏せだけど、綺麗な脚が眩しい。それも見逃さない。
アーリアはサングラスを外して辛そうに寝ているが、その表情が堪らない。もちろん見逃さなかった!
「僕達は貴族だけど、しっかりと先生の言う事は聞こう……」
「そうですわね……。マーク先生は、本気で容赦がないですから」
うん、俺も激しく同意。略して禿同。
流石にこんなに疲れるのは勘弁だわぁ。
「何やってるんですか、皆さん」
ふと、リビングの入り口から声がしたから、起き上がって見てみた。
そこには呆れ顔のカロルさんが立っていた。
「侯爵なんですから、そんなにだらけてどうするんですか」
「いやいやカロルさん、結構キツかったんだぜ!?」
俺の言葉に嫁達三人がヘッドバンキングのように激しく頭を上下に動かす。
俺は大学で受けた特別授業の内容を話す。
すると、カロルさんは「あ~」と、何か知っているように頷いた。
「噂は聞いていますよ。貴族の身分も関係なく、身分を振りかざす事がなくなるまで徹底的にしごきあげる《鬼教官》のマーク先生ですよね」
「鬼教官……。まさにそんな感じ」
「彼のしごきについていけずに退学する者もいる程ですからね」
おいおい、それはあの学科が存在している意味を無意味にしてねぇか?
だがどうやら違ったようだ。
「退学した貴族の大半は性格や振るまいに問題がある者のみらしく、彼なりに厳選しているようですね」
「へぇ、問答無用にやってる訳じゃねぇのか」
「それやってたら、鬼教官はあの大学にいれませんよ」
確かに!
厳しいけど、やる事はしっかり仕事はしているって人なんだろうな。
「まあいいや。とりあえず俺ら疲れて動けないからさ、申し訳ないけど出前頼める?」
「そんな事だろうと思って、準備は出来ていますよ」
流石カロルさん!!
本当にこの人をうちの専属商人にしてよかったって思うわ!
その後、カロルさんが手配してくれた料理人達が作ってくれた料理を堪能した。
俺も含めて皆、あまりにも腹が減っていつもよりたくさん食べた。
少食気味のアーリアですら、普段の二倍は食ってた。
飯を食った後、レイとリリルにアーリアはそのまま自室に行って眠ってしまった。
俺も眠いけど仕事が待っている。
寝る前に三人の頬にキスをして見送ったので、まだ少しはやる気が残っている。
俺とカロルさんは、執務室でお互いの意見を出し合う。
「ここに私の商店を出したいのですが――」
「いやいやいや、ここは駄目だって! そこは俺の――」
「いやいや」
「いやいやいやいや」
意見というより、土地の取り合いだな。
いくらウィード家専属商人と言えど、利益を確実に上げていく為に、俺に対しても怖じ気づく事なくしっかりと物申してくる。
俺はそういう所を非常に気に入っているけど、俺にも譲れない部分がある。
今回の話し合いは、お互いのやりたい事を言い合い、その土地を取り合っている感じだ。
お互いの思惑がある訳だから、真剣に話し合っている。
ちなみに俺の町である《ウェンブリー》は、移民を優先的に俺の町に住まわせる予定となっている。
あぶれた移民は、各町村に送られる形になるが、移民達の希望もある程度は融通が利くとの事。
「俺はここに専門学校を建てたいんだって! 大通り沿いだから、入学希望者も多く来る筈なんだよ!」
「いや、そこは私の商店を建てるべきです。日用品や食品を売るので、収入も入るし、ハルさんにも税収が入るからいいじゃないですか」
「それはそれ、これはこれ!」
「税収は納める義務でしょう……。それは置いておいちゃ駄目でしょう。なのでここは我が商店を建てるで確定ですね」
「おおおおい、勝手に決めるな!」
結局口論では全く決まらず、最終的には必殺ジャンケンで決めた。
勝者は、カロルさんだった……。
何故だ、何故こんな大一番で俺はジャンケンに弱いんだ!
俺はしょんぼりしながら、無難な土地に専門学校を建てる事となった。
後はカロルさんがスケジュールを全て組み立ててくれて、一週間後から俺達が住む屋敷、住宅の建設を開始する。
俺の領地がついに動き始める。
最初は面倒臭いって思っていた領地運営だけど、楽しみになってきたんだ。
忙殺されるかもしれないけれど、経験した事がない、前世では絶対体験出来ないだろうという事をこれからやるんだ。
不安もあるけど、楽しみで仕方ない。
この日は夜遅くまでカロルさんと話し合った。
明日も大学で授業だ。
マーク先生が不安要素だし、どんな授業になるか全く読めないけど、俺が貴族でいる為に優先的に学ぶ必要がある。
気を引き締めて頑張ろうじゃないの。
俺はカロルさんを見送った後に、速攻で眠りに付いた。
大学に登校した俺達の目の前に飛び込んで来た光景は、校舎の入口を取り囲んでいる集団だった。
訳わからない集団のせいで、多くの生徒が教室に迎えず、人ゴミで非常に混み合っていた。
「何があったんだろう?」
リリルが首を傾げる。
俺にも何が何だかさっぱりだ。
すると、人ゴミの中心部分から怒号が聞こえた。
「マーク・ジョーンズを出せ!! 私は《ガウリア・ローゼリア》伯爵だ! 我が息子に狼藉を働いたそうだな、その報いを受けて貰う!!」
うっわ、ついにお父ちゃんが乗り込んできやがった。
しかも多分私兵を連れてきやがってるぞ。
ああ、貴族って本当に面倒な奴が多すぎね?
俺は絶対にそんな貴族にはならねぇぞ!
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