第189話 《武力派》のその後
――???視点――
「このような結果となりました。いかがでしょうか?」
水晶を通して壁に映像が表示されている。
椅子に座っている”彼等”は、立派な顎髭を撫でながら、何度も頷いていた。
「これはなかなか素晴らしいものではないか。あのハル・ウィードにここまで迫る事が出来るのだからな」
「いや、もしかしたらあの実験体が剣技が凄まじかっただけかもしれぬな」
「そうでもないようだ。薬を服用する前に、手足が出ない位に打ち負かされたらしい」
「成る程、そんな実験体でもあれ程の強さになるのか」
私の思惑通り、《
この薬は、身体が肥大してしまう程内包する魔力を増量させる。つまり、魔力量が一時的にSランク相当になるのだ。
やろうと思えば、定期的に服用するだけで相当の強さを得られるこの薬は、内戦が続いている”彼等”にとっては非常に魅力的に見えるだろう。
「決めた! 《天使の息吹》を十箱購入しよう!!」
「では私は六箱ですね」
「私は五箱用意して貰いたい」
今この場にいる”彼等”は、五十年も内戦が続いている《アールスハイド合衆国》の知事達だ。
アールスハイドは七つの州があり、領土の中央に大統領府が存在している、世界で唯一王政ではない国だ。
今回いる三人の知事は、内戦が一番激しい地域である。故に、この薬を提案したのだ。
狙い通り、お買い上げとなったが。
私は内心ほくそ笑んだが、営業スマイルは崩さない。
この知事には、今後とも《武力派》のお得意様でいて貰わなくてはいけないからな。
「有難うございます。納品致します箱に、用法を記載した紙を同封致しますので、しっかりと守っていただけますよう……」
「わかっている。こういう薬は使用を間違えるとただの劇物だからな」
「ご理解が早くて、非常に助かります」
こうして商談は進んでいった。
確かに我々はハル・ウィードに色々邪魔をされたが、良い方向転換の機会を与えてくれた。
今こそ《武力派》は、レミアリアだけに拘らず、世界中で活動すればいい。
そうすれば世の中は、更に武力を求める事になるだろう。
人間の本質は武力による生存競争だ。軍人もそうだ、己の強さを誇示して金を貰う。
それが本来の人間の姿だ。
今回の納品だけで、一千万ジルは固いだろう。
この金を使って、《武力派》の更なる発展を目指そうではないか。
これからも《天使の息吹》は金を生産できる主力商品となるだろう。
後はこれをあちこちにばら蒔けば、勝手に戦火が各地で巻き起こるだろう。
それこそが理想郷なのだ。
芸術なんて下らない。
文明なんて下らない。
男は戦い、女は男を支えればいい。
それが真実の姿なのだ。
私は、理想郷の姿を夢想した。
ああ素晴らしい。
各地に巻き起こる怒号、爆発音、断末魔。
勝者は勝鬨を上げ、敗者は絶望する。
そして私達は理想郷を見守る監視者として君臨し、等しく武器を与えていく。
何とか私が生きている内に、そんな理想の世界を作り出さなくては。
私はこの眼で、理想郷を見てみたいのだから。
――《世界犯罪集団プロファイル 『武力派』》――
ハル・ウィードが亡くなって三百年経つ今でも、《武力派》は世界最大の犯罪組織として有名である。
彼等は《天使の息吹》によってもたらされた金で、ちょうどヨールデン帝国(現在は農業小国ヨールデンと名乗っている)が国家間領土売却をレミアリアと交わしていた時期で、その時に戦闘用魔道具の技術も売買に掛けられたのだが、これを購入。
得た技術を独自で生産をして、《天使の息吹》と共に《アールスハイド合衆国》の政府側に密売する。
ずっと内戦続きだった政府側は、《武力派》から得た魔道具や《天使の息吹》によって優勢に立つ。
しかし《武力派》は、今度は反政府側にも同様の物を密売した。これにより、また実力は拮抗してしまい内戦は混沌を極めた。
政府側は反政府側が同様の物を使用している件を問い詰めたが、ひょうひょうと受け流して、次は傭兵を派遣する事を提案。これは政府側のみの商売とすると告げ、無事に契約を果たす。
消費されていく兵士や傭兵、疲弊する国。
そんな彼等とは反比例しているかのように、《武力派》は莫大な資金を得る事となった。
彼等は現在でも主に《天使の息吹》の販売、戦闘用決戦魔道具の販売、訓練済みの傭兵を戦地へ派遣するという商売で資金を得ている。
《武力派》は何度か苦汁を舐めさせられたハル・ウィードに対して、関わない意思を示していたという。
しかし、彼等が暗躍しているところに偶然居合わせたハル・ウィードによって計画を妨害される事も度々あったという記録も残っている。
現在でも残っている名門貴族である《ウィード家》によって、何度か計画を妨害されているものの、《武力派》は徹底的にウィード家に関わらないようにしているのだそうだ。
戦いに溢れた世界を理想郷と掲げる《武力派》。
完全撲滅を目指して世界中の国が動いているものの、未だに達成できずにいる。
《武力派》を完全撲滅出来るのは、まだまだ先の未来の話だろう。
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