第187話 レイとの初夜


 その後色々話をして、セバスチャンは領地が出来上がった後に合流する事となった。

 仕事の引き継ぎとか、色々あるみたいだ。

 さらに貴族科での授業は明後日から始まるようだ。明日には俺達四人分の制服を用意して送ってくれるとの事。

 そろそろ親父も次の仕事が待っているので、帰宅する事になった。

 行きも徒歩で来たのでそのまま帰ろうとすると、親父に引き留められた。


「ハル殿、君は上級貴族である自覚をしっかり持った方がいい」


「えっ? どういう事?」


「歩きで城に来ただろう? 貴族社会ではそれはやってはいけない事だぞ?」


「歩きが!? 何で? 健康にいいじゃん!」


「貴族社会は見栄すら力の象徴となる。ならば、馬車が必要になるのだよ」


「馬車ねぇ。そんな距離でもねぇのに?」


「そうだ。後でカロルに頼んで、馬車を用意してもらうといい。専属の商人なんだろう?」


「そうだけど……。つくづく貴族って面倒だな」


「だが、君は自ら望んでこの世界に来たんだ。業に入れば業に従うべきだ」


「……了解」


 本当、見栄がそのまま力に直結とはねぇ。

 でも親父が言った通り、俺から望んでこの世界に飛び込んだんだよな。

 ならば意識を切り替えて、貴族としてやっていかないと。

 だけどやっぱり面倒くせぇ!


 俺達は城を出た。

 そして王都の大通りを嫁達と雑談しながら歩いていく。

 明後日の学校が楽しみという話が主な話題だったが、これから自分達の領地をどのようにしていこうか等も話していた。

 どうやらそれぞれ領地が出来たらやりたい事があるらしい。

 レイは、俺が抱え込む私兵を屈強にする為の教官。後は俺がいない場合の領主代行。

 リリルはSランクの魔力をフルに活かして、治療院を運営したいのだそうだ。後は特技兼趣味となったお菓子作りも極めたいらしい。

 アーリアは俺のバンドを支える為に、《虹色の魔眼》を活かした魔道具の製作にさらに力を入れたいみたいだ。

 実はミュージックディスクとミュージックプレイヤーを開発したのはアーリアで、生産はオーグの工場に依頼をしている。

 さらに収録する機器も全て魔道具として製作してしまったんだ。

 アーリアの希望で、屋敷内に魔道具研究室を作る予定なんだよなぁ。


(アーリアがここまで魔道具製作にハマるとは、思わなかったなぁ)


 領地の準備はまだまだ時間が掛かるし、とりあえず学校で貴族とは何たるかを学ばせて貰おう。

 でも俺の頭は音楽に特化はしているが、舌戦とか内政方面の知識は全く無い。

 前世ではとある国で最年少大統領になった奴がいたけど、内政の部分とかは一切話さなかったから知識も仕入れていない。

 となったら、貴族科である程度学ぶしかないか。

 不安だらけだが、これも本気でやろう。


 この三人の笑顔を、生涯見続けられるように。


 俺はレイ、リリル、アーリアが楽しそうに笑っている姿を見て、静かに決意した。


















 そして、夜になりました。

 ついにレイとの初夜で御座います!

 もう最後が誰かわかっているから、リリルとアーリアはリビングにいた。


「ハル君、しっかりとリードしてあげてね?」


「いってらっしゃいませ、ハル様」


「お、おう」


 何か、見送られるのも変な感じだな……。

 俺は自分の寝室に向かう。

 俺はもう、童貞、童貞! ではないのだ!

 だから俺は、初めてのレイをしっかりとリード出来るのだ!

 いちいち裸を見て我を忘れるなんて事は起こさないのだ! 多分。


 でもさ、三人の嫁の中で一番大人びているレイの全てを、今夜全て見る事になる。

 何だかんだで心拍数が跳ね上がっているのがよく分かる。

 緊張はしていないんだけど、レイの裸を想像してしまっていて、妙に興奮している!


 そんな興奮状態になりながら歩いていると、あっという間に俺の部屋の前まで来てしまった。

 もう部屋でレイがスタンバイしているんだよなぁ。

 ではもう辛抱堪らんので、オープン・ザ・ドア!!


 勢いよく扉を開けると、視界に入ってきたのは花嫁だった。

 レイは結婚式の時に来ていたウェディングドレスを身に纏い、部屋の窓を開けて縁に腰掛けて夜風に当たっている。

 緩やかな夜風が、レイの茶髪をなびかせる。月光に照らされていて、髪の毛一本一本が輝いている。

 

「やぁ、ハル。待ってたよ」


 俺の気配に気付いたのか、柔らかい笑顔を俺に向けてくる。

 大人びた表情に、俺の心臓が一瞬ドクンと鼓動を打った。


「お、まえ、その格好は?」


「ああ、僕の初めてを捧げる時、結婚した気分で抱かれたいなって思ってね」


 少し恥ずかしそうに頬を指で掻くレイ。

 ああ、本当にこいつは、冗談抜きで綺麗だ。


「ハル、残虐貴族との事を覚えているかい?」


「まぁ、鮮明に覚えているけど?」


「僕ね、ハルが助けてくれる前にハルに対しての気持ちに気付いて、君と結婚出来ないんだなって思ったらすごく悲しかったんだ」


「俺もあんな奴等にレイをくれてやるなんて、認めたくなかった」


「ははっ、一緒の気持ちだったんだね。でも助けてくれて、今僕はこうやって結婚できた。それが本当に嬉しくて嬉しくて、今でも夢を見ているようなんだ」


 夢、か。

 確かに今、レイは遠い目をして夜空を見上げている。

 あんまり現実感ないのか?

 確かに、結婚しても接し方は全然変わっていないからなぁ。

 

 なら、現実だという事をわからせてやるか。


 俺はレイに近付き、彼女の手首を掴んで引き寄せた。


「うわっ!?」


 急に引っ張られたレイは驚きながら、前傾姿勢になって転びそうになる。

 だけど、俺がしっかりと彼女を抱き止めた。


「……ハル」


「現実だよ。俺がレイを貰った。これは紛れもない事実だ」


「うん、そうだね」


「もしまだ実感が沸かないのであれば、今から現実だって事を教える」


「……宜しく、お願い、するよ」


 そのままレイをベッドに連れていき、そして、ついに一つになった。


 だけど――――


「いったたたたっ! 痛い痛い痛い!!」


 俺の下で痛がるレイ!

 俺の腕を爪を立てて掴み、痛みに耐えているようだが、目から涙が溢れている。

 俺も痛い痛い痛い! 結構深く食い込んでるって!!

 まぁ我慢したけれども!


 あまりにも痛がるから中断し、レイが泣き止むまで抱き締めながら彼女の頭を撫でた。

 リリルとアーリアはそこまで痛がらなかったけど、レイは体質的な問題があったのかも。

 結構長い時間が流れて、ようやく落ち着いたレイは、俺の唇に軽くキスをした。


「ごめんね、痛がっちゃって。上手く出来なくてごめん……」


「別に謝る事じゃないだろ? それより、痛みは大丈夫か?」


「……何とか落ち着いたよ。ハルだって、最後までしたかったよね?」


「ん~、したかったっちゃしたかったさ。でも、それ以上に良い事があった」


「えっ?」


「レイの綺麗な体を見れた!」


「なっ!! ハルのスケベ!!」


 レイが軽く俺の頭を叩いてきた。

 スナップが効いていてちょっと痛いんですけど……。


「でもさ、俺と結婚できた事実は実感できただろ?」


「うん。痛みでだけどね」


「俺が下手だったのかもな。ごめんな、レイ」


「いやいや、謝らないでよ! ハルが上手いか下手かなんて比べられる材料がそもそもないんだから!」


「そうだけどさ、リリルとアーリアが痛がらなかったから、俺は上手いのかもしれないって天狗になってたかもしれねぇ」


「……大丈夫だよ。もしハルが下手だったとしても、まだまだ時間はたっぷりある。一緒に上手くなっていこうよ。僕も痛がらないように頑張るから!」


「……レイ」


 俺は本当、良い嫁さんばかりを貰ったなぁ。

 レイの額にキスをして、耳元で「ありがとう」と囁いた。

 お互い抱き合いながら、そのまま眠りに付いた。






 朝は二人同時で目が覚める。


「おはよう、ハル」


「おはよ、レイ」


 朝の挨拶みたいに互いの唇を重ね合わせた。


「痛みは大丈夫か?」


「まだ少しあるなぁ」


「そっか。今日はゆっくり休んでいいぜ? 辛いだろ?」


「今はそんなに辛くないんだ。だからさ……」


 おっと、レイが俺の愚息を包み込むように握ってきたぞ!

 ビックリなんですけど……。


「その、昨日ハル、最後まで出来なかったから、辛そうじゃないかな、って……」


 おうおう、自分から大胆な事やっといて、顔が真っ赤じゃないですか!

 もう全く、めっちゃくちゃ可愛い奴よのぅ!

 

 俺は辛抱堪らなくなり、レイを朝っぱらから愛し始める。

 何か最近、恒例行事になってないか?

 結果としては、やっぱり痛がったけど夜程じゃなく、今度は最後まで無事出来ましたとさ。

 レイは涙を流していたけど「やっと、ハルをいかせられて嬉しいよ」と、弱々しい笑顔を見せた。

 ありがとう、レイ。

 この愛しい彼女を抱き締め、自分の肌にレイの肌の感触をしっかりと刻み込んだ。


 そして、より一層貴族社会で生き抜く決意をさらに固めたんだ。

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