第170話 決闘開始!


『さぁさぁ始まりました、アーリア姫様を巡る決闘! 会場は大聖堂前広場、この戦いも中継させていただきます! 実況は喋らせたら眠くなるまで止まらないと評判の《アンドリュー・クリュゼ》、そして戦闘の解説を王国第三番中隊の隊長で兵士を育てる教官として活躍中の《ドーン・マクレイ》様にお願いしました!』


『よ、宜しくお願いします』


 隊長さんが解説になってる!

 確か招待したのは覚えているけど、来賓席にいたっけ?

 ちょっとあの三人の姿しか目に入ってなかったから、よくわからん。

 隊長さんはお城の兵士の中で一番仲が良い人で、よく俺の特訓とかにも付き合って貰っている人だ。

 遡ると、初めてライルに絡まれた時に声を掛けてくれた人だ。

 そういえば、隊長さんの名前、確かそんな感じだったな。

 しかし、慣れてないのか、隊長さんの顔がめっちゃくちゃ強ばってて面白い。


『さてドーン様、普段ハル・ウィード侯爵とお城で訓練をされているとか? 客観的に侯爵の実力を教えて頂けますか?』


『はい。我が部隊の兵士二十人対侯爵一人という集団戦を想定した模擬戦を行っているのですが、彼は自身のユニーク魔法を屈指して全員に勝ってしまう程の実力です』


『そ、それは、なかなか規格外ですね……』


『ええ、あの若さでこの強さ、まさしく化物ですね。ば・け・も・の』


 おいこら、何故二度言いやがったし!


『しかし、今回の相手は――』


『……確か、二十五人と聞いていたのですが、何か、人数増えてませんか?』


『……ざっと四十人位でしょうかね。ハル君、お前、恨み買ってたんじゃないか?』


 買ってねぇよ!

 ……とは完全に否定出来ないんだよなぁ。

 結構身に覚えが有りすぎて。

 最初貴族達二十五人って話だったけど、どう見ても一般人も紛れ込んでいた。

 何これ、どういう状況?


「ハル・ウィード侯爵! 我々は平民同盟だ! 我らが愛するアーリア姫様をよくも……よくも!!」


「可憐なアーリア姫様と、羨まし――けしからん! 一発殴らせろ!」


「アーリア姫様は、俺達が守る!!」


 どうやら平民の中にもアーリアに惚れている奴等がいたらしく、貴族達に混じって乱入したようだ。

 モテモテだねぇ、アーリア。

 そんなご本人は、めっちゃしかめっ面してるけどね。


『ハル・ウィード侯爵、一般人も乱入しちゃってますけど、合意と見て宜しいですか?』


 実況の人が俺に確認を取ってくる。

 俺は実況の人に向かって親指を立てる。


『わっかりました! 流石は若き英雄、ハル・ウィード! これはなかなか熱い展開だぁ!!』


『むしろハル君、この状況を楽しんでいるようですね。ちょっと笑ってますよ』


『ほ、本当だ! 圧倒的物量的不利な状況の中、口角を上げているぞ! これは余裕の表れか!?』


 あら、表情に出てたか。

 まぁ暴れるのも久々だし、楽しみっちゃ楽しみだな。

 ジャケットは脱いだけどまだ動きにくかったから、俺はベストを脱いでレイに手渡した。


「レイ、汚れると困るから、持っていてくれ」


「わかった。ハル、僕も参加していい? 戦いたい!」


「……今日は大人しくしててくれよ」


「ちぇっ、ハルだけずるいなぁ」


 ずるくないよ、これは俺の決闘なんだし。


「怪我したら、私が治すからね。思いっきり暴れてきてね」


「助かる。まぁ怪我しないように暴れてくるわ」


「うん、いってらっしゃい!」


 リリルは優しい笑みをくれた。

 うん、元気一億倍だぜ!


「ハル様、どうかご無事で……」


「心配するなって! この程度なら何とかなるからさ!」


「それでも、帰ってきてわたくしを妻として迎え入れてください」


 アーリアだけ邪魔が入り、正式な夫婦とはなっていない。

 だからちゃっちゃと片付けて、しっかりと嫁として迎え入れよう。

 

 俺は意を決して、前に出る。

 今回武器は一切持っていない、本当に手ぶらだ。


『おっと、侯爵は武器を持っていませんねぇ。どうされるのか!?』


『もしかしたら、彼は素手で挑むのではないかと』


『す、素手!? でも相手は、四十人以上ですよ!?』


『まぁ、彼なら何とかしちゃうでしょうね』


『何とかしちゃうんですか……』


 ええ、何とかしちゃいますとも。

 俺は四十人以上集まっている奴等から十歩程間が空いている距離で立ち止まり、口元にサウンドボールを吸着させる。

 出した指示は《拡声》だ。


『えぇっと、俺と決闘したい諸君。それが全員で間違いないかね?』


『おおおおっ!』


 雄叫びで返事が返ってきたよ……。

 まぁ随分とやる気に満ち溢れているね。


『うんじゃま、さっさと始めようか。諸君らは死なない武器を持ってくれて良いぜ? 俺は素手だ。どうよ、簡単だろう?』


 俺がそう言うと、おおう、濃度が高い闘気が膨れ上がった。

 馬鹿にされているように感じたんだろうな。

 でも、これも俺の作戦の内だ。

 怒ってもらって、正常な判断が出来ないようになってもらわないと、流石の俺も人数的にキツい。

 だが、すでにサウンドボールは空中に約三百個は配置した。

 これでどんな音も逃さず拾う事が出来る。


 相手は全員木剣やら太い枝やらを手に持って構えた。

 流石にこの人数が武器を持つと、変に緊張してしまう。

 まぁ、いつも通りにやればいいか!

 

 俺が構えを取ると、実況さんが大声を出す。


『改めてルールを説明します! 侯爵が全員を降参させたら侯爵の勝利でアーリア姫様は晴れて奥様に、侯爵が降参するとアーリア姫様の結婚は無効となります! 禁止事項は相手を殺害する事です。殺害した時点で負けと見なし、法の元裁きを受けて貰います!』


 実にシンプルだ。

 とりあえず相手に「参った」と言わせればいいんだな。

 分かりやすくていいルールだぜ。


『それでは決闘、始め!!』


 実況さんが開始を宣言する。

 すると大人数で俺の方に向かってくる!

 うわぁ、迫力あって怖いんですけど!

 だが俺は怯まずにその群れへと駆けていく。


『おおっと、ウィード侯爵が押し寄せる群衆に突っ込んでいった!? これはどういった意図があると思われますか、ドーン様?』


『……皆目検討が付きませんが、恐らく彼だから出来る事をやるんでしょうね』


『と、とにかく、見守りましょう!』


 おう、見守っていてくれや。

 目の前の群衆が雄叫びをあげて向かってくる。

 そして俺は、あっという間に人の波に飲まれてしまった。

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