第154話 三者三様の愛情 ――リリルの場合――


「さぁ、次はリリルさんですわ! ちゃんとわたくしが一時間計っておりますので、ご安心ください!」


「……何でアーリアが仕切ってんのさ」


「少しでも早く、わたくしの出番が来て欲しいからですわ!」


「あっ、はい」


 俺は何故か進行役をやっているアーリアに手首を掴まれ、リリルの部屋まで案内を受けていた。

 そんなに急かさなくてもいいのに……。


「はい、着きました! ではハル様が扉をノックしてから一時間です、どうぞ!」


「……はい」


 何か、前世のテレビでこういう企画を見た事があるような気がするんだが。

 さっきのレイとの甘い時間が、アーリアのテンションでぶっ壊されたよ……。

 余韻に浸りたかったのになぁ。

 とりあえず、アーリアに急かされているから、軽く溜め息を付いてからドアをノックする。

 

「はい、入っていいよ」


 ドアの向こうからリリルの声が聞こえた。

 俺はドアノブを捻ってドアを開けた。

 

「いってらっしゃいませ、ハル様」


「……」


 何で俺、アーリアに見送られてるんだろう。

 とにかく俺は、あまり見送られる事にいたたまれなくなって、逃げるように部屋に入ってドアを閉めた。


「いらっしゃい、ハル君」


「おう、リリル…………」


 一瞬、呼吸を忘れた。

 普段、肌の露出を避けているリリルが、膝上の短い丈の白いワンピースを着ていたんだ。

 艶かしい曲線を描いている白い太腿に、視線が釘付けになる。

 そして圧倒的なボリュームの胸!

 生地が厚くないせいか、どれ程の大きさなのかがわかってしまう。

 そこには、間違いなく男の夢とロマンが詰まった宝島があった。

 ついつい掴みたくなる衝動に駆られるが、頑丈だけどレイの誘惑ですでにボロボロな俺の理性が、辛うじて持ちこたえてくれた。


「えっと、変じゃない、かな?」


「えっ、あ……。とっても素敵だ」


「……えへへ、ありがとう。ちょっと恥ずかしい、んだけど、ね」


 頬を染めながら、困ったような笑顔を見せるリリル。

 可愛らしい容姿のリリルにとっても似合っている仕草で、俺の心臓の鼓動が早まる。

 二年ぶりに会ったリリルは、幼さを残しつつも立派な女性となっていた。

 例えるなら、落ち着いているけど何処か抜けている女子高生って感じかな。


「よかったらベッドに腰掛けて?」


「おっ、おう」


 俺は言われるがままにベッドに腰掛ける。

 リリルは、テーブルに置いてあったティーポットを持って、二つのカップに紅茶を注いでくれた。


「ちょっと冷めちゃってるけど、はいっ」


「ああ、ありがとうな、リリル」


 お盆に乗せて紅茶が注がれているカップを俺に渡してくれた。

 軽く一口、紅茶を口に含んでみる。

 ……ああ、美味いな。


「これ、アーリアちゃんから貰った紅茶なの。美味しかったからお願いしたら、ただでくれたの」


「へぇ、どうりで俺が飲んだ事がない訳だ」


 俺は紅茶が好きだから、王都ではよく色んな種類の紅茶を買っては飲んでいた。

 でもこの味は俺がまだ一度も味わった事がないやつだ。

 きっと王族御用達の紅茶なんだろうな。


「よかった、ハル君が喜んでくれて。隣、いい?」


「ああ、いいよ」


 リリルが俺のすぐ隣に腰掛けて、カップに唇を付ける。

 よく見ると、うっすらと桜色の口紅を塗ってるのか?

 潤っていて、妙に艶かしくて吸い寄せられそうな魅力を持った唇だった。


「――ん、やっぱり美味しいね」


「あ、ああ。そうだな」


 やばい、唇に見とれちまってた。

 本当、色気が付いてきたよなぁ、リリル。


「ねぇ、ハル君」


「ん?」


「私達がいない二年間、ハル君がどう過ごしてきたのか、知りたいな」


「おう、いいぜ」


 俺はリリル達がいない間の話を、リリルに聞かせてやった。

 バンド練習に時間を費やしたり、ピアノの家庭教師は最初一年で全員卒業したはずだったのだが、俺に師事したいと土下座されて何だかんだもう一年追加してしまったとか。

 俺も振り返りながら話していると、本当にこの二年間は音楽漬けだった気がする。

 でも、たまに城で兵士さん相手に戦闘訓練もしていたから、剣の腕は十分に磨けたよなぁ。


「すごいね、ハル君。やっぱり私達の予想通りに凄い生活してたね」


「私達? レイとか?」


「うん。ずっとハル君はどうしているだろうねって話していたんだけど、きっと音楽漬けで一般人からかけ離れた生活をしているんだろうなって。やっぱり予想通りだった」


 リリルがクスクスと笑っている。

 本当、一つの動作がとても可愛らしく、視線が釘付けになっちまう。


「普通の人はお城に気軽に入れないんだよ? 王様ともそんなに仲良く出来ないし、貴族の方とも滅多にお話できないんだよ?」


「そんなもんか? まぁ、これも何かの縁だろうよ」


「縁だけで片付けられないと思うけど……」


「人はさ、全力で何かに対して動いていれば、必ず縁が生まれる。生まれなかったら自身が何か間違っているだけさ。これ、俺の経験論」


 前世込みで四十七年生きてるからな。

 まぁ普通の人なら聞き流すが、リリルはしっかりと受け止めて笑顔をくれた。


「そういうリリルは何の修行をしていたんだ?」


「うん、私は今の水属性魔法を勉強して、さらに使えるオリジナル魔法を作ったよ! あっ、回復系もあって、さらには攻撃系も増えちゃったんだ!」


 うえ、魔法の種類がまた増えた!

 この子は、レイとは違って一つの技を集中的に極めるタイプではなく、コツを掴んだらそこから派生させて様々なものを作るタイプ。

 今回も絶対えげつない魔法がたくさん生まれたんだろうなぁ……。

 

「後はね、ハル君に食べてほしくて料理とか家事全般を覚えたよ」


「なるほどね、めっちゃくちゃ美味かったよ、夕食!」


「えへへ、嬉しいなぁ。ハル君が嬉しそうに食べてくれるの、すっごく幸せだったよ」


 するとリリルが俺の腕にしがみついてきた。

 肘に非常に柔らかくて弾力がある感触がする!

 あぁぁぁ、やめて!

 俺の理性が、もう限界なんですけど!!


「私ね、まだハル君の隣にいられるのが夢みたい」


「ゆ、夢みたいなのか?」


「うん。ハル君のライブを見たけど、上手く言えないけどとっても凄かった。何かね、華やかであんなに見ていたお客さんを虜にしちゃってね、私の婚約者は本当に凄い人なんだなって思って」


 リリルがより強く、俺にしがみついてくる。


「何の取り柄もない私が、本当にこんな風に隣にいていいのかなって思っちゃった。もっともっとハル君にふさわしい、素敵な女性はたくさんいると思うから」


 少し、声が震えている。

 きっと今でも不安なんだろうな、本当に自分でいいのかって。

 俺は、力強く俺の腕にしがみついている彼女の手を、包み込むように触れた。


「俺はさ、リリルを選んだ理由に関しては、そんなに難しく考えてねぇんだ。ただ、好きになって一緒にいて欲しいと思っただけなんだ」


「そうなの?」


「ああ、俺の直感さ。お前らは俺の隣にふさわしいかどうかで考えているけどさ、そもそも俺は惚れた女しか隣に置くつもりはねぇよ。どんなに俺の隣にふさわしいからって、惚れていなければ口説きもしない」


 俺も少し、強めに手を握った。

 リリルも、強めに握り返してきた。


「ハル君……」


「リリル……」


 俺達は互いの唇を重ね合わせた。

 唇が熱い。

 まるでその部分だけ、異様に加熱しているようだった。


「ごめんね、ハル君。まだ足りないの」


「えっ、リリル!?」


 リリルが俺の膝に股がって座り、手を俺の首に回してきた。

 何だろう、めっちゃ表情が妖艶なんですけど!

 そして俺の後頭部を自身に引き寄せるようにして、またキスをしてきた。

 今度は舌を入れてきたんだ!

 

 ……やばい、このままし続けたら、一線をこえちまう。

 ご両親との約束を、破るわけには、いかないのに……。

 彼女達が魅力的すぎて、逆らう事が非常に困難だ!


 部屋に互いの唾液が混ざり合う音、そして時折切なそうに漏れるリリルの吐息が響く。

 もう、俺は、抗え……ない!


 俺が手を出そうとした、その時!


「はい、一時間終了ですわ!! はい、リリルさんは離れて!!」


「「えっ!?」」


 早くない!?

 もう一時間経ったの!?

 ちょっと部屋の時計を見てみたら、あらびっくり、本当に一時間経っていた。

 リリルも俺と同じ心境のようで、相当驚いている様子だった。

 俺の話を長くしすぎたのか、それともこのイチャイチャが思ったより長かったのか!?


「では、いよいよわたくしとの一時間ですわね! さぁ、時間も惜しいのでちゃっちゃと移動しますわよ!」


「だぁぁぁぁぁっ!! 余韻に浸らせてくれよ、アーリア!」


「あぁぁ、ハルくぅぅん!!」


 多分火照っちゃったんだろうか、腰をもぞもぞさせながら俺を名残惜しんでいるリリル。

 ……エッチだぞ、リリル。

 まぁ俺も愚息が相当いきり立っているから、人の事は言えないんだけどさ。


 俺はまた、アーリアに手を引かれながら、早歩きで移動した。

 うう、エッチな事、したかったなぁ……。

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