第78話 俺、受勲される!


 ――芸術王国レミアリア歴史書最新版 第六百ページより――


 ハル・ウィードは、八歳という幼さに関わらず、王立シュタインベルツ音楽学校を占拠した《武力派》の戦闘員を、単独で半壊させた。

 しかも、剣士の極みとされている二刀流を完成させ、記録上唯一ユニーク魔法を操れる存在として、この瞬間表舞台に躍り出たのである。

 ハル・ウィードが操る属性は《音》で、この世の音を思い通りに発生させたり、離れた距離でも通信を可能にしたり、音を利用した不可視の攻撃魔法も備えている。

 さらには歴代王国騎士団でも頂点の強さだったと記録されている、元王国騎士団長で《武力派》の部隊の一つである《武力部》の幹部だった、ヨハン・ラーヴィルをほぼ無傷で単独撃破。さらには国王陛下と王太子殿下を狙った暗殺部隊の存在も察知し、父親であるロナウド・ウィードと共にそれを阻止。そして、王女殿下も狙われたのだが、ハル・ウィードが討伐により阻止をした。


 八歳でありながら、これだけの武勲を立てたこの少年を讃える為、事件の翌日に急遽、王国は武勲の中では最高峰と言われる《レミアリア金翼武勲章》を授与する式典を開催したのだった。


 しかし、当時から変わり者として周囲から認知されているハル・ウィードは、この式典でも大人しくはしていなかったのである。












「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ、めんどくせぇ」


「第一声がそれなのかい、ハル」


「……ハル君」


 俺は今、城の客間で待機していた。

 格好は礼服とか持ってないから、音楽学校の制服だ。

 そしてレイとリリルも俺の恋人――まぁ関係者だから、この式典に特別参加させてもらえたんだ。

 もちろん、父さんもいるが、気を利かせてくれたのか俺達だけにしてくれた。


「しっかし、まぁ……。ダルい式典だけど、二人のドレス姿を見れただけでも本当によかった! ありがとうございます!!」


「ちょ! じっと見ないでくれ!!」


「ちょっと、恥ずかしい、よ」


 この二人に関しては制服すらなかったから、国が二人の為にドレスを用意してくれた。

 レイは腕を露出させた、足首まで丈がある白のロングドレスを着ているのだが、ドレスの横にスリットがあって、レイの綺麗な太ももがこんにちはしている! あぁ、なんと素晴らしい脚線美なんだろうか……。何て言うか、膝枕してもらったらすっげぇ気持ちいいんだろうなぁ。

 しかも長い髪を後ろで纏めただけじゃなくて、お団子にしているからとっても新鮮だし綺麗だった。本当、ありがとうございます!!

 

 そしてリリル!

 リリルもレイと似た白のドレスを着ているのだが、違う点がある。

 スリットは入っておらず、代わりに胸元が大きく開いているのだ!

 リリルは正直言って胸の発育は異常なのです! ドレスから見える谷間なんて超深いですよ! 何カップだよ、本当!

 眼福です、それに最高に可愛いです、ありがとうございます! 


「ハルだって、いい男なんだからビシってしなよ……」


「うん、ハル君格好良いのに、今すごくだらしないよ?」


「褒めてくれて嬉しいけど、めんどくさくてそれどころじゃねぇんだって……」


「剣で名を上げようとしている人間からしたら、最高の誉れなのにね」


 レイが呆れたように言ってくる。

 そんなに今回の勲章って価値があるんだ。

 でもなぁ、これっぽっちも興味が沸かない。


「あのねぇ、俺は別に剣で成り上がりたい訳じゃないのよ。音楽で成り上がりたいの!」


「なのにとても強いってのはどうなんだい?」


「でも、そんなハル君が素敵なんだと思うよ?」


 とりあえず、最愛の二人の綺麗な姿をじっと見つめて、この憂鬱な気分をごまかしますか。

 すると、客間の扉からノックする音が聞こえた。


「ハル・ウィード殿とお連れの方、式典の準備が整いました。部屋から出ていただき、私の後に付いてきていただいてもよろしいか?」


「……ういっす」


 俺達は客間を出ると、兵士さんが二人部屋の前で敬礼をしていた。


「それでは、お連れの方はハル殿より先に庭園で整列して貰いますので、この者の後を付いてきてください。ハル殿は私の後ろへお願いします」


「うっす。それじゃぁまたな、二人共。大好きだぜ!」


「は、ハル!! 人前!!」


「うぅぅぅぅ……」


 はっはっは、二人共顔を真っ赤にして、可愛いのぉ!

 そして兵士さん二人は、「何このバカップル」と言いたげな冷ややかな目で俺を見てくる。

 ふふふ、そんな視線を送っても、俺は爆発しないぜ?

 そして俺達は別れて、俺は兵士さんの後を付いていった。


「いやぁしかし、若いのにハル殿は相当強いのだな。あのとてつもなく強かったヨハン様を倒してしまうなんて」


「へぇ、あいつ、そんなに強かったんだ。父さん程じゃなかったけど?」


「…………………………」


 それ以降、兵士さんは無言になってしまった。

 俺は事実を言ったまでだし、あれが相当強いのだったら、この国の軍部は弱すぎだと思うんだけど。

 大丈夫か? この国は……。


 さて、何だか気まずい雰囲気のまま、庭園前の扉まで着いた。

 はぁ、式典って面倒なんだよねぇ。

 どうせ堅苦しい挨拶だけで、全然楽しくないだろうし。前世でも音楽大賞ってのに出席した事があったが、退屈で退屈で必死に眠気堪えてたしな。他人の受賞している姿を、ただ座って見ているのって相当地獄なんだぜ?

 まぁ今回は俺が受賞する側なんだけど。

 

「ではハル殿、扉が開くまでここで待機してください。扉が開いたら、真っ直ぐ陛下の元へゆっくりと歩いて下さい」


 くっ、早く終わらせたいから早歩きしようと思ったが、だめだったか。

 とりあえず俺は黙ったまま頷いた。

 何となくだけど、扉の向こうからたくさんの人の気配がするんですけど。

 さすがに俺でも、少し緊張するぜ?


 あっ、そうだ。

 昨日判明しちゃった、姫様の《虹色の魔眼》についてだけど、俺と父さんが秘密にしておく事で話がついた。

 王様からはひたすら感謝の言葉を言われ、そして姫様からは潤んだ瞳で何度もお礼をされた。やっぱり命が助かって嬉しかったんだろうな。こんな瞳の色だけの為に処刑なんて、辛すぎるしな。

 王太子様とも知り合いになって、今度音楽を聴かせて欲しいと言われた。もちろん、俺は快諾したけどな。

 まぁ後は第二王子なんだけど、会った事はないけど多分俺は仲良くなれそうにないな。


 しかし、姫様は眼の色のせいで外も出られない生活を送っている。姫様は引きこもっていられるような性格じゃなさそうだから、何とかして外に出させてあげたいなぁとは思うんだよね。だって、ずっと部屋の中にいるのって可哀想じゃん?

 ん~、カラーコンタクトとか作れればいいんだけど、俺は生憎その知識はない。

 そういえば、前世の友人でコンタクトレンズ製造会社に勤めていた奴がいたけど、ぼそっとプラスチックがあればハードコンタクト位は作れるけどとか言ってた気がしたな。

 まぁそんな知識があっても、製造が出来ないから意味がないんだけどね。

 いい方法ないかなぁ?


「ハル殿、お待たせしました。扉を開きますので、ゆっくり歩いて下さい」


「うえっ? あ、ういっす」


 考え事をしていたら、兵士さんに声をかけられた。

 いつの間にかそれなりに時間が経っていたらしい。

 変な声の後に返事をし、扉がゆっくりと開かれた。

 扉の向こうには広い庭があり、それを覆い隠すようにたくさんの人がいた。

 皆貴族とか何かしら国の役職に就いている人間が集まったんだろう、まるで俺の花道を作るかのように整列して立っている。

 そして、俺が一歩を踏み出すと、大気が震えんばかりの拍手喝采!

 

 すっげぇな、前世でもこんな拍手浴びた事ないぞ。

 しかもレッドカーペットだし、さながらアカデミー賞のカーペットを歩くハリウッドスターになった気分だ。

 約五十メートル先には、王様が黄金の杖を手に持って立っていた。


(うっひゃぁ、ちょっとちょっと! 中世ファンタジーの主人公が褒美を受け取る時の場面みたいじゃんか!! 緊張するけどテンションも上がるぜ!)


 俺は拍手をこの身体で受け止めながら、ゆっくりと王様に向かって歩いていく。

 その途中では、「息子を助けてくれてありがとう!」とか、「我が子の無念を果たしてくれてありがとう!」と言った声が聞こえた。

 そっか、出席者の中には子供が殺された親もいるのか……。

 俺に全員を救える力があるなんて全く思っていないけど、でもやっぱり、誰も殺されずに救いたかったなって思う。

 しかし、俺が《武力派》を討った事で、少しでも悲しみから早く立ち直ってくれたならよかったとも思う。


 そんな事を思っている内に、俺は王様の元まで辿り着いていた。

 俺は片膝を地面に着けて、頭を下げた。


「表を上げよ、ハル・ウィード!」


「はっ!」


 体制はそのままで、顔だけを王様に向けた。


「ハル・ウィードよ、此度は《武力派》による音楽学校占拠から開放する為に尽力を注いでくれた事、そして余と子供達の命を救ってくれた事、大義であった!!」


「はっ、臣民として当然の義務を果たしたまでであります!!」


 別にそんな義務なんてこれっぽっちも思ってないけど、まぁこう言っておけばいいかなと思ってすらっと出た言葉だったりする。


「うむ。余は貴殿のような臣民を持てた事を誇りに思うぞ! では、此度の功績を讃え、貴殿に《レミアリア金翼武勲章》と同時に、男爵の爵位を与える!!」


「えっ!?」


 あれ、勲章だけじゃねぇの? 俺が貰うの!

 マジで爵位も俺にくれるんですか!?

 やった、念願の貴族になれる!!

 これで俺が家訓を決めて、レイとリリル二人共を正妻として迎え入れる事が出来るぜ!!

 いやぁ、マジで剣の腕を磨いておいてよかったわぁ。

 ヨハン、てめぇは胸糞悪くなる位ムカつく奴だったが、俺の為に踏み台になってくれてありがとう!!


「これからもこの国を守る為に、貴殿の力を思いっきり振るってほしい!」


 ん?

 ちょっと引っ掛かったぞ?

 確かこの《レミアリア金翼武勲章》って、武勲の最高峰だったよな?

 もしかして、これを受け取ったら、俺この国の兵士として仕事しなくちゃいけなくないか?

 だって、今王様、俺に対して国の為に力を振るえって言ったよな!

 いやいやいやいや、冗談じゃないんですけど!

 念願の貴族にはなれるけど、絶対に軍部という泥沼にズブズブ飲み込まれていって、音楽から遠ざかるパターンじゃねぇか!?

 それだけは、本当に勘弁願いたい!

 なら、やる事はひとつだな。


「はっ、慎んでお断り致します!」


「うむ。これからも貴殿の活躍…………ん?」


「申し訳ありません、この勲章は受け取れませんのでお断り致します」


 俺の言葉に、庭園は静寂に包まれる。

 聞こえるのは小鳥の囀り、そして時たま吹く風の音。


『えぇぇぇぇぇぇぇっ!?』


 しばらくした後、俺以外の全員が、心底驚いたような大声を出した。

 はは、皆びっくりしてやんの。

 ま、そりゃそうか、びっくりするわな。

 俺は今、最高の名誉を自分で蹴っ飛ばしたんだからさ!

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