第63話 俺の新たな力!


 教室を出た俺は、まず自身の教室のフロアを占拠しているテロリスト共を排除しに回った。

 一人一人を剣で斬っては時間がかかるし、俺の体力もガンガン減っていってしまう。

 だから俺は、《遮音》のサウンドボールを足に吸着させて足音を消し、そして各教室の扉の小窓からサウンドボールを移動させる。そして《武力派》の男の脳内に直接サウンドボールを吸着させた。

 現状はそこまでで、残り四教室も同様に男達の脳内にサウンドボールを吸着させる。

 さて、男達はこれから一斉に脳内をバカデカい音による衝撃波によって、脳みそを直接破壊される訳だが、そうとも知らずに絶対的優位な状況に立っている事に快感を得ているようだ。

 バトルジャンキーな男達のアヘった顔なんて見ても、ビタ一文も得にならないし、むしろ遠慮願いたいぜ……。

 各教室を少し見たが、やはり少なからず殺されている生徒がいるようだった。

 大体が一人なのだが、多いところだとすでに三人殺されている教室もあった。

 本当は一回一回、《ブレインシェイカー》を放ってもよかったけど、そうすると大きい音のせいで余計な戦闘が発生しそうだったから、同時に《ブレインシェイカー》を発動させて始末しようとしたんだ。


 さて、ハイテンションになって高笑いしている所で悪いが、そろそろてめぇらには退場してもらう。

 

「来世ではまともに生きろよ。《ブレインシェイカー》」


 四つの教室から『ドンッ』と大きめな音が聞こえた。

 無事に同時に発動したようだ。

 その後、生徒達であろう歓声が上がった。

 あぁ、そんなに声を上げると、上の階から敵が来るんだけど……。


「何の騒ぎだ……貴様、何処から来た!!」


 ほらな、来ちまった。

 ならてめぇは排除だ!

 俺はダッシュで距離を詰める。相手との距離は二十メートルもなかったから、敵が戦闘体制に入る前に俺が剣を抜いて先制攻撃を仕掛けた。


「なっ、がはっ!?」


 敵が抜刀する動作をした瞬間、俺はレオンから借りた剣で相手の左胸を深く突き刺した。

 肋骨を断つ感触、相手の体を貫く感触が、俺の剣より抵抗感がない。本当に上質な剣だってのがわかった。

 レオンの彼女さんが、レオンの為を想ってプレゼントした剣だ、切れ味が悪い訳がない。


 心臓を貫かれた敵が死んだのを確認した俺は、相手を蹴り飛ばして剣を引き抜いた。

 血に染まった刀身が、喜んでいるかのように、僅かな光が反射して輝いていた。この剣、あまりにも想いがありすぎて妖剣になるんじゃないか?


「なんだ、騒がしい……。なっ! ジョンが子供にやられただと!?」


 ちっ、見られたか。

 ああ、この死んだ奴はジョンって名前なのか。まぁどうでもいいが、こりゃ戦闘は避けられそうもないな。


「おい、ジョンがやられたぞ! 皆、出合え、出合えぇぇっ!!」


 なっ!

 今そのタイミングでそういう台詞を言うか!?

 これは復讐だ、レオンの敵討ちなんだ。

 だけど、そんな台詞を言われちまったら、俺の前世の記憶が疼いちまうだろ!!


 実は俺は、根っからの時代劇のファンだ。

 一度時代劇のBGMを製作して欲しいと依頼があり、とりあえずネットで有名どころの作品をチョイスして、参考の為にDVDを借りて観たんだ。

 そしたら見事にはまってしまった。

 特に里見浩太郎主演の《長七郎江戸日記》という作品は大好きで、おかげでその時は成人していたにも関わらず、主人公の長七郎が披露する二刀流の殺陣に憧れて、自宅でよく真似をしてたっけなぁ。


 ん?

 二刀流?

 敵がぞろぞろと廊下で俺を挟み込むように集まってきたなか、俺は自分の腰にぶら下がっているもう一本の剣を見る。

 俺は毎日左手で剣を振ってきて、そして実践もやったおかげで、左手でも利き腕と遜色なく戦えるようになった。

 だからきっと、今の俺なら出来るはず。


 俺はレオンの剣を右手に持ち、左手で俺の愛剣を引き抜き、両手に一本ずつ剣を握る状態を作る。

 そして、約六人ずつの敵に挟み撃ち状態の俺は、その左右に剣先を向けて構える。


「は、は? 剣を二本持っただ?」



「あのガキ、何をするつもりだ?」


「何かの新しいお遊びかもな!」


 はぁ、好き勝手言ってくれる。

 でも俺の知る限りでは、この世界で二刀流をやっている奴はいない。

 つまり純粋に見慣れていないから、俺が何をしようとしているのかが敵にはさっぱりわからないって訳だな。

 

 さて、俺も気分を変えよう。

 俺は両耳にサウンドボールを吸着させ、とある曲を流した。

 今回の選曲は、まさに長七郎になりきれる曲だ。


「俺は、《猛る炎》ロナウド・ウィードの息子、ハル・ウィード!!」


「なっ!! このガキが、ボスが言っていた剣の天才!!」


「八歳にして、ゴブリンを単独撃破出来る才能を持つって言っていたな……」


 やはり父さんのネームバリューは半端ないな。

 でも、こいつらのボスが俺の事を知っているような言い方をしているな。

 まぁいい、今はどうでもいい。

 

 さぁ、決め台詞を言ってやる!!


「俺の名前は引導代わりだ、迷わず地獄に墜ちるがいい!!」


 このタイミングで曲を流す。

 もちろん、《長七郎江戸日記》の殺陣のテーマだ。

 悪に対して静かな怒りを燃やし、思いを剣に乗せて敵を斬っていく、そんな長七郎を思い浮かべられる素晴らしいBGMだ。

 その曲のおかげで俺の復讐の怒りは落ち着き、純粋に《武力派》の悪行に対する怒りへと変わる。

 この静かな怒りなら、冷静に相手に対処できそうだ。


「ガキの分際で、俺達に引導だぁ!?」


「見下してるんじゃねぇ!!」


 左右から一人ずつ敵が俺に攻撃を仕掛けてきた。

 残念ながら敵の気配でどういう攻撃を仕掛けてくるか、未熟な俺はそこまで探れない。

 だから、俺は《ソナー》を一瞬発動させる。

 この魔法はサウンドボールから超音波を発動させ、周囲にばらまく。そして反射してきた超音波を俺の脳内に仕込んであるサウンドボールがキャッチする。

 このサウンドボールには《返ってきた超音波を立体映像でキャッチし、脳内にイメージを送信する》指示を出してある。

 何故一瞬なのか?

 それは、常時ソナーを発動していると、激しい頭痛に襲われるんだ。どうやら人間の脳では常に《ソナー》を処理する事は出来ないみたいだ。

 俺は《ソナー》で得た立体映像を参考に、瞬時に判断した。

 右から来る敵は、俺の胴体目掛けて横薙ぎを仕掛けてきている。左の敵は頭上から振り下ろそうしている映像だ。

 普通なら、どちらかの攻撃を避けた後にもう片方を対処するというのがセオリーだ。

 だが、今の俺は違う!

 俺は右手で横薙ぎしてくる敵の攻撃を受け止め、振り下ろしをしてくる左の敵に対しては左手で横薙ぎを繰り出して相手の腹部を深く切り裂いた。

 この動作をほぼ同時に行った。

 そして、今右手で受け止めている敵の剣を、ちょうど空いた左の剣で振り下ろして叩き落とす。


「しまっ――」


 武器もなくなった相手は逃げようとするが、そのまま間髪入れずに右の剣で相手の首を貫く。

 返り血を浴びないように剣を引き抜き、蹴って敵の体を転倒させた。

 首を貫かれた敵は、二度と起き上がる事はなかった。


 よし、思い付きだったが上手く二刀流を使いこなせているな。


「な、何だよこいつ! 攻撃と防御を同時にやりやがった!!」


「そんな、バカな!」


 《武力派》の連中はかなり動揺しているようだな。

 では、俺が新たに得たこの二刀流で、貴様ら全員地獄へ墜としてやる!!

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