第53話 俺、王様に会う!
いやぁ、貴族面倒臭いの一言しかないけど、俺はウィード家を興すと決めた。
だってさ、正妻と側室って区別するの馬鹿らしいじゃん?
俺はレイとリリルを区別するつもりは毛頭ないのだ!
よし、俄然やる気が出てきた!
すると、客室の扉が開いた。
「ロナウド・ウィード殿、そしてハル・ウィード殿。陛下が謁見の間でお二人をお待ちになっておられます。どうぞ私の後に付いてきてください」
「わかりました。いくぞ、ハル」
「おう」
ついに俺は、この国の最高権力者に会うんだな。
さて、貴族になると決めた以上、面倒だけど超絶愛想を振り撒かないとな!
俺達は兵士さんの後に付いていく。
本当に長い廊下で、謁見の間まで辿り着くのに五分程歩いた気がする。
何度か通路を曲がったりしたけど、正直言って道順は覚えられない。っていうか、城が無駄に広いんだって!
そうして、今まで見た中で一番豪華な作りになっている、巨大な扉の前に辿り着いた。
おお、まさに謁見の間の扉ですって感じだな。
「ロナウド・ウィード殿、そのご子息であるハル・ウィード殿をお連れした。扉を開けていただきたい」
「了解した。お二方、陛下はすでにお待ちですが、くれぐれも粗相のないようにお願いする」
扉を守っている兵士さんに粗相がないよう注意された後、重厚そうな扉が開いた。
おおっ、マジでゴゴゴゴゴゴって音が鳴ってるし!
今から王様に会うぜ! って感じがたまらないな。
前世では、こんなファンタジーごりごりな王宮を持っている王族なんて、ほぼいないからな。少しテンションが上がってしまう!
扉が開ききり、案内してくれている兵士さんの後に続く。
さて、謁見の間の奥には、金色の装飾が施されている玉座に腰をかけている一人の男性がいた。
多分見た目は父さんより少し歳上って程度かな? 意外と若い王様だった。
王冠は被っていないが、赤をメインとしたマントを着ており、一目で威厳がある人物だっていうのがわかる。
何だろう、殺気とは違ったプレッシャーを放っている人物だ。
王様の傍に近づいていくほど、そのプレッシャーが重くなってきて、気分が悪くなるようだ。
これが、最高権力を所持している人物の存在感なのか。
王様との距離が大体五十メートルという所で兵士さんの足が止まり、王様に向かって敬礼をした。
「陛下! ロナウド・ウィード殿とご子息であるハル・ウィード殿をお連れ致しました!」
「うむ、ご苦労。下がってよい」
「はっ!」
うわぁ、マジでちょっと感動するわ。
本当中世ファンタジーそのものの王様と家臣のやり取りを、こうも間近で見れるとは思わなんだ!
すると、玉座の近くに立っているおじいさんが、謁見の間に響き渡る位の声で言った。
「こちらが第九代目国王、ドールマン・ウィル・レミアリア陛下であらせられる!」
このおじいさんは宰相か大臣さんかな?
低温の渋い声で王様の名前を紹介してくれた。
その後、父さんは左手を右胸に置き、左膝を地面に付けた。なるほどね、そういう風に挨拶するのか。
俺もワンテンポ遅れたが、それに倣う。
「うむ、面を上げよ」
俺達は陛下のその言葉に従って、陛下を見る。
「お久しぶりでございます、陛下。お元気そうでなによりです。左腕が見苦しい事になっており、申し訳御座いません。」
「ロナウド殿。よくぞ来てくれた。左腕の事は聞いている。息子を守った結果であろう? その傷はむしろ誇るものだ!」
「ありがとうございます」
「そして、再度礼を言わせてくれ。貴殿が余の命を助けてくれたおかげで、このように政策を続けられている。本当に感謝しかない!」
「いえ、あの時は偶然でありますが、陛下をお守りできて本当によかったです」
えっ、父さん王様助けたの!?
すっげぇ気になるんですけど!
いやぁ、でも今は謁見中だからなぁ。終わった後にでも色々聞いてみるか!
「さて、今日は何故ご子息を連れてきたのだ? 至急報告したい事があると聞いたのだが」
「はっ。実は《武力派》が関係すると思われる件に、我が息子が関わった可能性があり、本人から直接報告させようと思い連れてきました」
《武力派》という単語が出た瞬間、部屋にいる皆がざわめきだした。
そりゃそうだ、王家転覆を狙っているテロリストなんだ。ざわざわしても仕方ないだろうな。
っていうか、第二王子が武力至上主義者なんだよな。その王子がテロリスト共を操ってるんじゃないかって考えているんだが。
でも王族だからなぁ、そんな危険な集団を駒として使う方がリスクが高い気がするな。
「なるほど。では、ハル君と言ったかね?」
おっと、俺に話が振られたな。
よし、ここは飛びっきり第一印象良く挨拶するぞ!
「はっ! お初にお目にかかります! わたくし、エイール村からやってきましたハル・ウィードと申します! 現在、王都の音楽学校にアーバインの紹介の元、音楽を学ばせていただいております!」
「ほう、つまりアーバインが前々から話していた天才とは、君の事かね?」
うん、多分俺だね。
ってかあいつ、王様に俺の事話していたのかよ。
「恐らくわたくしかと!」
「ぷっ。くくく! 自分で天才と言うとは、余程音楽に自信があると見える。しかもアーバインを呼び捨てにしているという事は、かなりの仲なのであろう?」
「あっ! 失礼しました。アーバイン……侯爵だっけかな? ああ、侯爵だ! アーバイン侯爵とは年齢、身分を越えたお付き合いをさせて頂いている、音楽仲間で御座います!」
「おい、ハル!」
「はははははっ、よいよい、なかなか面白いご子息だな、ロナウド殿!」
「はっ、お恥ずかしい限りで……」
「いやいや、子供ながらしっかりしておるではないか。うむ、ハル君。しっかり音楽学校で音楽を学び、世界中で活躍できる音楽家になってほしい」
「はっ、ありがとうございます!」
結構この王様は寛大だな。
いや、父さんの息子だから許されている部分があるかな?
「ではハル君。《武力派》が関わっていると思われる出来事を体験したらしいな。早速報告して貰いたい」
「はっ、ご報告致します!」
俺はダンジョンでの出来事を詳しく説明した。
ゴブリンの事も、すでに五人の女性が拐われていて死亡していた事、始末した後に魔物が寄ってこないように全てを焼いた事。
俺の言葉一つ一つに頷き、何か考えている様子だった。
「ふむ、大体わかった。実際に《武力派》によるものと考えるのは早合点だが、ゴブリンの養殖は間違いなさそうだな」
「ですが、全く《武力派》が関係ないという判断も危険かと思います。一応可能性の一つとして考慮すべきかと」
確かに王様が言うように、ゴブリンの養殖は《武力派》が行ったものとは断定しにくい。
だけど、ゴブリンを養殖した意味を考えると、《武力派》がやっている可能性が高くなる。
例えば数を増やしたゴブリンを、王都に解き放つ。
すると王都は大混乱し、事態を収拾しようと軍が討伐に動く。すると城の守りは必然的に薄くなるから、《武力派》がそこを狙って王様を殺害する。
こんなシナリオだって考えられる。
まぁ現実味は少ないけどな。
とりあえず俺は、《武力派》が関与している事も考慮して貰うように言った訳だ。
「わかった、恐らく城内にも《武力派》の息がかかった者もいるであろう。今後は内外共に目を光らせる必要があるな」
「ええ、その方がよろしいかと」
「ふむ。しかしハル君。君は子供なのになかなか聡明だな。歳は?」
「はっ! 八歳で御座います!」
「八歳か! 八歳で要点を纏めて報告出来る力があるとは、ロナウド殿も自慢の息子が出来て嬉しかろう?」
「はっ、我が息子は何処に出しても恥ずかしくない、自慢の息子で御座います」
父さん、嬉しい事言ってくれるなぁ……。
「ではこの件は至急対応させて貰おう。となると、ロナウド殿。明日から早速で申し訳ないが、兵士達の訓練指導をお願いしたい」
「はっ! 屈強な戦士に仕上げてみせましょう」
「うむ、とても心強い。そしてハル君」
「うえっ!? あっ、いや、はっ!」
いきなり俺に話を振られて、変な風に答えてしまったよ……。
そりゃもう俺に話は振られないだろうなって思った矢先だからさ、ビックリした訳だよ。
「アーバインから聞いているが、君はあいつよりリューンの腕があると聞いている」
「勿体無いお言葉で御座います」
「そこでだ。実は常々余の娘がリューンの演奏を聴きたいと言っていてな。もし時間があるなら、是非娘に演奏してほしい」
「へ、娘?」
へぇ、お姫様もいたんだ。
第二王子の存在は病室での父さんとの会話で知ったから、まあ第一王子もいるんだろうな程度に認識していたけどさ。
そのお姫様について、父さんが説明してくれた。
「王女様のアーリア姫様だ。陛下の長女にあらせられる。しかし陛下、最近病床に伏せているとお伺いしましたが?」
あら、病気なのね。
病気だけど俺が会ってもいいもんかな?
「まぁ姿は見せられないからカーテン越しにはなる。だが、同年代でアーバインを越える演奏技術を持っている事に関心を示していたな。是非、娘の前で演奏してほしい」
「なるほど。そういう事なら、喜んで!」
姫様の姿は見る事出来ないけど、これもいい経験だ。
こういう所の成果で、もしかしたら貴族になれるかもしれないしな!
むふふふ、このチャンス、俺は活かさせて貰うぜ!
「……ハル、お前悪い顔しているぞ」
おっと、顔に出ちまったようだぜ。
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