第10話 絶賛天狗の俺、ドラゴンに遭遇


 ――ロナウド・ウィード視点――


 ハルが学校に入学してから早二週間が経った。

 あいつは学校の魔法戦技の授業で先生を倒してしまったらしい。

 小さい頃から剣技に才能を感じていたが、そこにユニーク魔法が加わったら規格外の五歳児になりやがった。

 入学して三日目位にアンナ先生がうちに訪問してきて、やたらとハルを褒めてたから俺達夫婦も嬉しかった。

 だけど、今のあいつはちょっと有頂天になっているのがよくわかった。

 だから調子に乗って、俺達に内緒で狩り場の森に入ったんだろう。


 雨の日の森は相当危険だ。今だって強い雨が降ってるじゃないか。

 もし俺がしっかりあいつの動きを見ていれば、絶対に森に行かせる事はなかったのに。

 くそっ、これは俺の失態だ。

 ハルなら大丈夫って思ってたけど、やっぱりまだ子供だった!

 妙に大人びた考えをしているから、今日がヤバイ日だってわかっていると勝手に思い込んでいたんだ。


 無事でいろよ、ハル!

 雨の日の森は、奴が出てくる!


 俺は可愛い息子であるハルを助ける為、雨の日は絶対に入らない森の中を駆けていった。









 ――ハル視点に戻る――


 こんにちは、ハルです。

 今日は学校が休みなので、一人で狩り場である森に来ました。

 そう、《音》属性の魔法に目覚めた俺は、立派な戦士になったのです!!

 魔法戦技の授業では、上級生と先生を相手に全勝しちまうし、もう敵なしな訳ですよ!

 でもまぁやっぱり対複数戦となると俺は剣で何とかしなくちゃいけないから、ここ最近ずっと何かいい方法がないか考えてたんだよね。

 そして、サウンドボールを利用した方法を思い付いた訳さ!


 そんなこんなで、試し撃ちにこの森に来ました!

 父さんと母さんには何も言わずに出てきちゃったけど、まぁ大丈夫だろう。

 ウェアウルフ数匹相手に試してみたら、それで帰る予定だしね。


 俺は小慣れた感じで、スイスイ森の奥へ進んでいく。

 もう大体の地理は把握しているから、迷う事はないんだよねぇ。

 でもさ、おかしいんだよね。

 何故かここまでの道のりで、ウェアウルフと一匹も遭遇していない。

 普通ならこの辺りで俺の臭いとかを嗅いで、ぐわおって襲ってくるのに。

 それと、森がいつもと様子が違う気がする。どういう事だ?

 まぁいいや、とりあえず進もう。

 俺は進もうとした時、鼻の先端に水滴が落ちた。


「ちべてっ!! えっ、もしかして雨か?」


 嘘だろ?

 来た時あんなに晴れていたのに。

 確か父さんは雨の日は絶対に森に入るなって言ってたけど……。

 でも何とかなるっしょ!

 俺にはこの無敵のユニーク魔法があるんだからさ!

 だけどどんどん雨が強くなってきて、何処かで雨宿りしないと一瞬でずぶ濡れになる位になってきた。

 何だよ、唐突なスコールだな!!

 俺は近くの大木の根元に立って、雨宿りさせてもらった。

 それでも雨の滴が落ちてくるけど、それでもある程度雨を遮れているから問題ない。


「いやぁ、こりゃすっげぇ雨だな……。雨が木の葉に当たる音がすごくうるさいな」


 うん?

 うるさい……?

 それ、不味くないか?

 俺の魔法はそもそも音だ。周りが騒音だったら、俺の魔法ってもしかして役に立たない?


「やばい、ヤバイヤバイヤバイヤバイ!! 俺の魔法の弱点は対複数戦に弱いだけじゃなかった!!」


 俺が考案している戦術は、どれも音を鳴らして奇襲を仕掛けるものばかりだ。

 もし周りが騒音だったら、俺が発生させた音を聞いてもらえない可能性が出てくる。

 五歳児が真っ向勝負で剣技一本で勝てる訳がねぇ!

 マズった、俺最近天狗になりすぎていたかもしれない。

 普通ならここで俺の魔法のメリットとデメリット、長所と短所をしっかりと把握しておくべきだった。

 でも学校の皆に勝てて、尚且つ父さんとも一歩も引かずに戦えるようになったから、相当鼻が高くなっていた!

 特にリリルなんて、最近友達として見る視線じゃなくなっている気がする。

 ちょっと熱がこもってるんだよね、俺を見る目に。

 リリルがちょっとずつ、俺に惚れてきているってのが感じられて、有頂天を加速させちまった。

 後、何故かレイすら熱っぽい視線を俺に向けてくる。うん、女の子なら喜ぶんだけど、男は止めてほしい。


 そんな事はどうでもいい!

 速攻で帰らなきゃ!!

 こんな所で魔物に襲われたらひと溜まりもない。

 俺一人だけで、剣技だけで戦うのは正直難しい。

 俺が今まで狩り場でウェアウルフを倒せていたのは、ぶっちゃけ父さんのアシストがあったから。

 今アシストがない状態で戦うのは、今の俺じゃ無理だ。

 俺、前世でもそうだったんだけどさ、ヤバイと思ったら本当にヤバイ事が起こるんだよね。

 いや、あくまでそれは前世の話!

 今は俺はハル・ウィードだ、もうそんな迷信めいた出来事なんて起こる訳がない! ないったらない!!


 なんてフラグを立てる事を言っちゃうとさ、やっぱり来るんだよね。

 何か大きい気配を木を挟んだ背後からしたんだ。

 うん、見たくないなぁ。

 何かさ、大きいのさ、気配が。

 絶対ウェアウルフとかじゃないし。


 じゃあとりあえず背後見るか。

 いくぞ、カウントダウンするぞ!?


 ふぅ、深呼吸完了。

 行くぞ!


 3。


 2。


 1。


 ……ゼロ!


 俺はばっと後ろを振り向いた。


「グルゥア♪」


 何かでっかいトカゲさんに「獲物みっけ♪」的な感じで見つめられていました。

 俺が雨を操る竜種である《レイニー・ドラゴン》と対峙した瞬間だった。


「は、ははははははは……」


 やっべぇ、乾いた笑いしかでねぇ……。

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