03-3 アレな「相関図」
連日、リンにつきまとわれて「デートもどき」をさせられた。どこかファストフードや山の公園でだべったり、駅前にある唯一のカラオケに行ったり程度のおままごとだが。
うまく操縦すると情報が取れるので、つきまとわれても迷惑じゃなかったし。それにそれなりにかわいい女子だから、肩揉みにせよなんにせよ、スキンシップが取れるのはうれしい。
まあたいがい我慢できずに手を出そうとして、最後は噛みつかれたりするんだが。
適当に煽るとパニクって、リンがいろいろ漏らすのが面白かった。花音のことやサミエルの悪行。
サミエルは女子にもずいぶん評判が悪いようだ。気の弱そうな娘に目を付けると生徒会室に呼び出し、側近と追い込んで泣かせたりとか。さすがに学園の女子にあからさまに手を出したりはしないようだが、泣かせることで歪んだ欲望を満たしているらしい。
それに去年、コンパニオンアニマル科の上級生に目を付けたものの同級生と付き合ってるとかで手ひどく振られ、それ以来、コンパニオンアニマル科の、特に男子を目の敵にしているという。
「女子は表向き『鷹崎くーん』とか適当に接してるけど、裏ではボロカスに言ってるし。あんだけ嫌われるのは、もうある種、才能かと」
例のドーナツ屋で、リンはうんざりしたように口にした。
「表立って反乱する奴はいないのか」
アイスコーヒーを飲んで考えた。
「そうだなあ……。許せないくらい女子をいじめたことが判明すれば、けっこう女子はやると思う。女子のほうが男子より、そういうときは度胸があるから」
「なるほど……」
「あたしも死ぬほど嫌いなんだ。たとえ主義主張のためとはいっても、あんな奴と手を組む連中は間違ってる」
「主義主張のためって、なんだよ」
「それはニンゲンを……って、なんでもいいだろ」
ただし林先輩が言っていたように、サミエルがどこかで悪事を繰り返すのは確かだろう。
――それでいいのかな。厄介払いして他人に押し付けるような解決策で。
伊羅将にはわからなかった。本人に徹底的に反省させられればベストだろうが、人の性格がそう簡単に変わらないのも事実だ。
●
リンとの「なんちゃってデート」を終え寮に戻った
花音についてリンは言いたいことがあるようで、振るといろいろ語りはする。語りはするのだが内容がなんだかモヤモヤしていて、今ひとつはっきりしない。
はっきりしているのは、リンが花音を「姫様」とか「王族」などと呼んだことだ。花音が姫様で、取り巻き(?)がいる。よくわからないが、断片的にリンが漏らす情報から推理すると、なにかの裏サークルのような感じだ。
リンの立場も、取り巻きの一種なのだろう。男子が近づくのを警戒してるかなんかで、自分を遠ざけようとしているわけで。
それに、陽芽が漏らしたように、敵対サークルもあるのだろう。さらわれかけたとか物騒なことを言っていたが、いくらなんでも誘拐はないだろうから、ヤンキーにでも校庭の裏に呼び出されて脅されたとか、その線なのだろうが。
――きっとポスターが関係するんだな。
伊羅将は考えた。実際、ポスターのことを尋ねたら、リンは口をつぐんでしまったし。頭を整理するため、学校プリントの裏に相関図を書き始めた。
神辺花音(中三) ←裏サークルの「姫」
大海崎リン(中三) ←裏サークル関係者?
花音の世話役か?
敵対サークル→ 花音を脅迫? 誘惑? 誘拐?
神辺陽芽(中一) ←ヘンタイ
オレ(高一) ←ポスター貼りお手伝い
裏サークルの邪魔者
ネコ ←ポスター登場人物w
猫愛護 ←ポスターの目的?
花音を狙うエロ魔人?→ 鷹崎サミエル(高一)
裏サークルと契約?
ポスター廃棄
(敵対サークルの命令?)
ここまで書いて、じっくり見直した。
「要するにあれか。愛護団体と、三味線業者とか?」
口に出したが、どうにも情けない推理だ。「?」ばかりだし。
――くそっ。できるビジネスマンみたいにかっこよく整理するつもりだったのに、混迷するばかりじゃんか。
「あれ、これなーに?」
「うん、神辺花音の秘密……。ぎゅわあーーーっ」
またしても飛び上がった。花音だ。にこにこしながらプリントを見やっている。てか、この姉妹、心臓に悪いだろ。
「わあ。花音の名前がある」
喜んでいる。
「み、見るなよ」
ぱっと裏返しにする。プリントには「健全な男女交際の注意点」とタイトルが書いてある。
「男女……交際……。花音とイラくんが……」
花音が赤くなる。
「こっこらっ。表と裏をごっちゃにするな」
息を整えた。改めて眺めると、週末だからか普段着らしい細かな花柄のブラウスにパーカーを着込んで、これはこれでかわいい。まあ今どき古臭い気はするが。……とにかく脅かすのだけはカンベン願いたい。
「それにしてもお前、どういうことだよ。姉妹揃って人の部屋に勝手に忍び込みやがって。……まあ、俺の部屋じゃないけどさ」
こそ泥が後から来た泥棒を説教してるようで、なんとなく情けない。
「でもちゃんとノックしたもの。返事がなかったから、イラくんが倒れてたらどうしようって心配になって、陽芽にもらった鍵で……」
「ノック……」
「そうだよ。イラくんってば、天然さん」
くすくす笑われた。てか、お前のが天然だろーが。
「陽芽の奴、合鍵ばらまきやがって……。それで、なんの用なんだ?」
「だってイラくん。四日くらいポスター貼り、手伝ってくれないし……」
むくれている。
「……悪い。ちょっと情報を探るのに忙しくて」
――それにリン、からかうとパニクって面白いからな。
「情報……」
「あっああ、勉強だよ。授業始まったばっかりだしさ」
「なあんだ」
花音は微笑んだ。
「なら仕方ないか。でもあと三週間、ゴールデンウイークが開けるまで、いろいろ手伝ってほしいな。花音の幸せがなくなっても、せめて気持ちだけは残したいから……」
「幸せがなくなってもって……」
「あっごめん。イラくんには関係なかったよね」
「気になるじゃんか。それ、『運命のお兄ちゃん』と関係あるのか」
「陽芽に聞いたんだね……」
しばらく沈黙してから、ぽつりと言う。
「それは……話したくない。悲しくなるから」
「そうか……。なら花音、中三の大海崎リンって知ってるか?」
「リンちゃん……。知ってるよ」
「仲いいのか?」
「うん……」
花音は眉を寄せた。
「花音は……仲良くしたいと思ってる……。でも……」
「でも?」
「ううん。なんでもない」
少し驚いた。てっきり側近だと思っていたのに。
――もしかして、ふたりで俺の取り合いとか……ないな。
伊羅将は頭をかいた。花音からはラブオーラが出ていないし、そもそも「お兄ちゃん」がいるらしい。リンについては論外だ。人のこと、こき使う対象としか考えてないからな、あいつ。いずれにしろあとで、相関図を書き直さないとならないようだが。
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