風邪の時にアレするとすごいらしい(前編)
「プロテインの胸verみたいなのはないのかなぁ」
「あるとしたら、商品名は間違いなく……」
「「エロテイン」」
「決まったね」
「決まりました」
「別にうまくないけど」
〜〜
「けほっ、けほっ」
「……」
「……辛い」
「……」
「どうして風邪薬も買えないのかな。辛いよ……」
「……」
「ねぇ小太郎くん……」
「なに」
「パンツ替えて」
「嫌です」
「ちっ」
と、いうわけで、花上さんが風邪をひきました。
約束通りラブドリームに来ると、テーブルの上に布団を敷いて寝ていた。椅子に外木場さんが座って、本を読んでいる。
「いらっしゃいませ渡辺くん。本日の日替わりメニューは、風邪菌です」
「本当に帰っていい?」
「ダメですよ。風邪薬を買ってきてください」
「……」
仕方なく俺は、風邪薬を買いに薬局へと向い、帰ってきた。そして今に至る。
「はい、花上さん」
「飲ませて」
「そこまでしんどくないでしょ」
「しんどいって。今日は重い日だから」
「風邪関係ないよね」
俺がこないだかかった風邪の方がしんどかったよ。と、言いたかったけれど、よくよく考えたら、そもそも俺の風邪がうつったんじゃないだろうな、これ。
そんな俺の焦りを感じ取ったのか、外木場さんがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「渡辺くん。ちゃんと責任を取るべきですよ」
「……」
「そうだよ小太郎くん。出しっぱなしで逃げるなんて最低だからね?」
「それはちょっと違う」
仕方なく俺は、花上さんを半身にさせて、風邪薬を口元に運ぶ。
「んぐっ……ん……」
「……はい、全部飲めました」
「おかわり」
「そういうもんじゃないからこれ」
「私も一杯いただいてもいいですかね」
「だからそういうもんじゃないって」
新年会のビールみたいな言い方しやがって。
「小太郎くん。だっこ」
「する意味がないよね」
「トイレまで連れてって」
「外木場さんに頼んでよ」
「私、バ◯ブより重たいものは持てないので」
「今その手に持ってる本はなにかな」
「これはバ◯ブ」
「うそばっかり」
しかしまぁ、確かに、女の子が一人の人間を抱えて運ぶというのも、あまり現実的ではない。
仕方なく俺は、花上さんを抱えた。
「えっ、あっ。本当にやるんだ」
「なにそれ」
「私、初めてだから、優しくしてね」
「はーい、着いたから降ろすよ」
「堕ろしたくない」
無視して、トイレの前に降ろした。花上さんはダルそうにしながら、トイレに入る。俺は席に戻った。
「……ところで外木場さん。昨日の件なんだけど」
「昨日?私は普通に家で過ごしていましたが」
「無理があるよね」
「あっすいません。アリバイを作るのが癖なんですよ」
その癖がついた経歴は訊かないでおこう。危ない匂いがする。
「まぁあれは気にしないでください。通りかかったらたまたま渡辺くんが見えたので、ちょっくら下ネタでも言ってやろうと思って接触しただけですから」
「普通に顔を合わせるだけじゃダメだったの?」
結局下ネタよりも破壊力のある絡みをされたわけだけど。
「ところで、やろうと思って接触、の部分だけ取り出すと、エロいですよね」
「そんな小学生みたいなこと言われても」
「近頃の小学生は、やろうと思って接触するんですか?」
「日本語って難しいね」
もう少し日本語ができたら、大学にも受かったのかもしれないね。
……虚しい。
思わずそんなことを考えてしまい、閉口したところで、花上さんがトイレから出てきた。やや足取りはぎこちないけど、何とか布団まで戻ってきて、潜り込んだ。
「そういえば小太郎くん。注文をまだ聞いてなかったね」
「逆に俺が色々注文されたね」
「逆レ○プってやつだね」
「違うと思うよ」
花上さんは布団の中からメニューを取り出し、俺に手渡す。
「あのさ、いつも思うんだけど、これ、本当にどれを頼んでも出てくるの?」
「出てくるわけないでしょ」
「えっ、何でそんな強気なの」
クレーム問題が発生しそうなくらい酷い話だ。
「渡辺くん。エッチなお店に行った時、本当にパネル通りの女の子が出てきますか?それと同じです」
「全然違くない?」
「小太郎くんは理想を追い求めすぎなの。そんなんだから童貞なんだよ?」
「絶対関係ないよね」
仕方なく俺は、出てきてくれそうな、小倉トーストを頼んだ。外木場さんが店の奥に消える。
「小太郎くん。子守唄歌って」
「嫌だ」
「子守喘ぎでもいいから」
「聞いたことないよそんなの」
そもそも眠れるのか?それ。
「ていうかね、しんどいんだったら黙ってなよ」
「それはお客様に対して失礼じゃない?」
「テーブルの上で寝てる方がよっぽど失礼だと思うけど……」
というか、下ネタを浴びせるのも失礼だよな……。
「わかったわかった。添い寝しよ」
「どうしてそうなるの?」
「二千円」
「そういう店はもうあるからね」
「モーニングサービスってことで、添い寝したら小倉トーストが付いてくるっていうのはどう?」
「それはもう喫茶店じゃないよね?」
いやもともと喫茶店ではないんだけど。
花上さんが咳き込む。どうやら本当にしんどいらしい。
「マジで寝なよ」
「俺と寝なよってこと?」
「よくその体調で下ネタが湧き出てくるよね」
「本能かな」
「できれば本能に従って寝てほしいんだけどね」
「本能に従って俺と寝てほしい?」
「はぁ」
ため息が出てしまった。さっさと小倉トーストを食べて帰りたい。
……そういえば、キッチンに行ったことないな。俺。どうなってるんだろう。
「花上さん。キッチンに行ってもいい?」
「病人一人残して?」
「ちょうどいいでしょ。寝てなよ」
「行ってもいいけど、何もないよ」
「虚しいこと言わないでよ」
俺はとりあえず、花上さんが黙って寝てくれることを祈って、キッチンに向かう。
「あれ、渡辺くん。どうかしました?店舗型じゃないですよ?ここは」
「何を言ってるんだろう」
想像通り、至って普通のキッチンがあった。新しい店なだけあって、綺麗。まぁ、あんまりお客さんが来ないから、使われてないだけだろうけど……。
「今ちょうど、小倉を塗るところだったんです」
「あぁごめん。邪魔したね」
「いえ、命拾いしましたね」
「ねぇ本当に塗るの小倉だよね?」
来てよかった。こんな下ネタ喫茶で一生を終えたなんて、親族に知られたら、恥ずかしすぎる。
「正直パンに小倉塗るより、お客様にローションを塗ったほうが金稼ぎになると思うんですよ」
「そうかもね」
「五千円でどうですか?」
「結構です」
そもそもこの店にローションを買うだけの経費があるのだろうか。
「花上さんの調子はどうですか?」
「何回言っても黙ってくれないから、放置しといた」
「病人とエッチしたんですか」
「……」
「早くツッコんでくださいよ。濡れてるうちに」
「君たちは本当に、下ネタを言わないと死ぬ病気なの?」
「そうかもしれませんね」
ようやく、小倉トーストが完成したらしく、外木場さんは、出来上がったものを俺に手渡ししてきた。
……皿くらい用意してくれてもいいのに。
「じゃあ、戻りましょうか」
「いや、俺もうそのまま帰るよ」
俺は五百円を外木場さんに手渡しする。
「そんな甘い世界じゃないです」
「えぇっ」
「今日はですね。私のセンサーがピコピコ反応してます。何か事件が起こるはずですよ」
「鬼太郎か何かなの?」
外木場さんは駆け足で店に戻っていった。仕方なく俺は後を追う。
「ちょっと外木場さ……えっ」
店内に戻った俺の目に飛び込んできたのは、衝撃の光景だった。
……なんだこの胡散臭い終わり方。
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