今回は初めての中(編)出し(前編)
「もーいくつ男と寝るとーお正月〜〜」
「子供が覚えちゃうからやめて」
〜〜
「いらっしゃいませー!下ネタ喫茶、ラブドリームへようこそ!」
「唐突なタイトル回収やめてくれる?」
元日。頑張って早起きして、ここ、喫茶ラブドリームにきてしまった。一刻も早く帰りたい。
「先に言っておくけどね花上さん。こないだも説明した通り、俺もニートだから、あんまり高価なものは買わせないでね」
「そんな高価なもの頼んだら、普段食べてる雑草とか、普段毛布代わりに使ってるダンボールとか使えなくなりそうだから、心配しないで」
「花上さんの生活が心配だよ……」
ホームレスなんちゃらみたいな本が書けそう。
「心配しないで。ちゃんと毎回避妊してるし、危険日は避けてるから」
「何の話?」
「ところで」
花上さんは咳払いをする。
何か言うのかと思ったら、黙り込んでしまった。
「何。どうしたの」
「……わたしの格好、何か言うことはない?」
「強いて言うなら、浴衣?」
「強いて?いや普通に余裕で浴衣でしょ。目が節穴なの?男の子なのに穴があるんだ」
「罵倒しながら下ネタ言わないでよ」
いや、そりゃあ見た瞬間気がつくけど、触れるのも面倒だし、そもそもその浴衣売れば多少の経営費の足しになるんじゃない?という感情が先に出てしまって、褒めるという気持ちにならなかった。
「女の子がおめかししてる時はちゃんと褒めること。いい?童貞だからって容赦しないよ私は」
「童貞関係ないよね」
「ヴァージンも関係ないよ」
「何も言ってないんだけど……」
しかし、改めて見ると、この人本当に外っつらだけならめちゃくちゃ強いな。中身も改善していけば、途端にこの店も人気店になりそう。アイドルのマスターとかにプロデュースしてもらえばいいのに。
「ところで小太郎くん。正月といえば羽子板だけど、あれ、ミスをするたびに媚薬もしくは精力剤を塗るのはどう?」
「どう?って訊かれても」
「ミスするたびにどんどん理性が壊れていって、最終的にオークとかに犯されるってわけ」
「それならもう最初からオークに犯されてればいいじゃん」
「そういうのが好みなんだね」
「あくまで合理的な手段を言っただけなんだけど」
嫌いと言えばそれまた嘘にはなるんだけど。
「ちなみにここに羽子板があります」
テーブルの上に置かれたエプロンのポケットから、羽子板が出てきた。どうしてもそこから出さないといけないのか。
「そして、精力剤もあります」
クリスマスに見た精力剤が現れた。塗って元気になるタイプのやつだ。
「でも、媚薬はない。そこで私は考えた」
「はい」
「生やせばいいと」
「バカなの?」
「ちょうどこんなこともあろうかと買っておいたオモチャがあるのよ」
そう言って、またしてもポケットから出てきたのは、男性のアレを形取ったオモチャだった……。だからこんなもの買ってるから経営難になるんだって。
「これを私のアレということにすれば、フェアじゃない?」
「一切フェアじゃないし、フェアだったとしてやらない」
「EDなの?」
「それ全く煽れてないからやめようね」
「だいたいね。小太郎くんはノリが悪すぎる」
花上さんはため息をついた。いや、ため息をつきたいのはこっちなんだけど。
「こんなに可愛い女の子がここまでエッチな遊びを考えてきてあげてるのに、どうしてノらないの?乗るのは女性だけってか?」
「乗らないよ童貞だもん」
「もっとね、私の下ネタを受け入れ、愛するべきだと思う。うん。そうだ。そうに違いない」
「じゃあ仮に俺が下ネタにノッたとしよう。誰も止める人がいない。それこそ不毛じゃないか?」
「……確かに」
適当な理論がまかり通ってしまった……。バカでよかったこの人。
「私が思うに、小太郎くんからすると、私の容姿は、あまり性的な魅力がないってことよね」
「まぁうん。そうだよ」
「そうじゃなかったら今頃襲われてるもんね、私」
「それはわからないけど」
「この店の中なら助けを呼んでも誰もこないしね」
「特性みたいに言ってるけど死活問題だからね?」
しかし本人は全く気にしてない様子で、着物の袖をいじって遊んでいる。この店、今年いっぱい保つのかな……。ダメそう。
「逆に怪奇現象みたいな感じで、オカルト雑誌に掲載を頼めば?」
「試したよ。でもダメだった。いつも不慮の事故で取材班がここに辿り着けないの」
「もうその時点で記事になりそうだよねそれ」
なぜ俺は辿り着くことができたんだ……。
「だから小太郎くんは、選ばれしものってことね」
「選ばれたくなかったなぁ」
「やはり、何億もの競争を勝ち上がって卵子に突入しただけのことはあるね」
「それは花上さんも同じだと思うんだけど……」
「私は人工人間だから」
「これ以上キャラ作ったら渋滞しちゃう」
ただでさえみんな少なくとも二つキャラを持ち合わせているというのに、これ以上増えたら処理が追いつかなくて、オーバーフローしかねない。
「あれ、でも待って。宅急便の人は来れたよね」
「彼女は特殊な訓練を受けた兵士だよ」
「そんな人には見えなかったけど……」
「能ある鷹は爪を隠すってわけ。きっとあの子は着痩せするタイプだよ」
「ふーん……」
花上さんの、どことは言わないけれど見てしまう。明らかに着痩せはしていないよな。この人。ただの貧乳だよな。かわいそう。
俺の視線に気がついたのか、花上さんはこちらを睨みつけてきた。
「何かな小太郎くん」
「あぁいや、うん」
「そんなに私の乳首が気になる?」
「いやそんなピンポイントで見てはいないけど」
「浴衣の下は下着をつけてないって話あるよね」
「……うん」
「まぁ私の場合は着ける下着がないだけなんだけど」
「そのネタは前も聞いたよ」
この時期、寒くないのかな……。でもダンボールを毛布にしてるような人だし、寒さへの耐性はあるのかも。かわいそう。
「小太郎くん。人は胸の大きさじゃないよ」
「わかってるよそんなの」
「胸なんてあったって、顔が悪けりゃオ○ホで終わりなんだから」
「口が悪いね」
「顔が悪いよりマシでしょ」
「どうしたの花上さん」
花上さんは冷たい表情で淡々と胸をディスっていく。どうやらこの人、この話題には敏感らしい。
「あーあ。そりゃ私だって、あと胸さえあれば大手企業の内定ももらえたのになぁって、思うこともあるよ」
「大手企業に失礼だよ」
「どうせ毎年巨乳枠として、ろくに仕事もできないような頭空っぽな乳おばけを雇ってるんだ。そうに違いない」
「花上さん落ち着いて」
「それでコーヒーとかを上司に出すとき、私の母乳を入れておきますね〜!何て冗談言ってたら勝手に昇給するんでしょ?楽な人生だよね〜巨乳は」
「偏見が酷すぎる。巨乳だって頑張ってると思うよ」
まさか人生で、巨乳をかばう日が来るとは思わなかった。花上さんは体を怒りに震わせ、目の焦点さえ合わなくなってきている。そんなに壊れるほど胸がコンプレックスなのか……。
「だいたい胸のどこがいいわけ。あんなのただの脂肪でしょ?お腹がポッコリ出てるのと変わらないじゃん。何がそんなにそそるの?巨乳って感度悪いし、エッチのときも楽しめるとは限らないよ?あと汗疹とかできてて夏場はすごい臭かったり汚かったりするんだから。くたばれ巨乳!くたばれ巨乳!」
拳を高く突き上げて、何やら叫びだした。もう止めても聞かないだろう。全部吐き出させるしかない。
「世間の巨乳の百パーセントが、三百年以内に死ぬというデータもある。やっぱり巨乳は病気なんだよ」
「……」
「何とか言ったらどうなの小太郎くん。巨乳大好き小太郎くん」
「変なレッテル貼るのやめてくれない?あと、世の中の男子はだいたい巨乳が好きだと思うよ」
貧乳好きはロリ好きと結びつけられて、微妙な目で見られることも多い現代社会では、自然とそっちの派閥は減っているように思える。
「知ってるよそんなの。でも冷静に考えてみて。巨乳って、性格悪いよ?」
「ついに何の根拠もないことを言い出したね」
「だって外木場さんは犯罪者じゃん」
「身内の悪口はダメじゃない?」
確かに外木場さんは身長の割には胸がでかいけれど、別に性格は悪くない……よな?まだそんなに会ってないからわからないけれど。
「あと小太郎くんの妹さんは良い子だったよね」
「あいつはまだ年齢的に未知数でしょ」
「いや、私にはわかる。貧乳の匂いがするの」
「獣じゃないんだから……」
花上さんはようやく毒を出し切ったのか、椅子に座ってくれた。
「はぁ、なんか疲れちゃった。今日何するんだったっけ。ライブチャットで小遣い稼ぎだっけ」
「絶対やめなよ」
「そうだ。浴衣で小太郎くんを誘惑して、金をゆするんだった」
「そんな恐ろしい計画立ててたのかあんた」
「冗談だよ」
冗談は顔と胸だけにしてくれ。って言いそうになったけど、また暴れるといけないからやめた。
「……よし。じゃあ、行きますか」
「うん……」
思ったより挨拶?が長引いたけれど、ようやく出発だ。
「花上さん」
「ん?」
先に店を出ていた花上さんが振り返る。
「……浴衣、似合ってるね」
「……なにそれ。褒めても母乳は出ないよ」
「素直に喜んでくれないかな」
今日も大変な一日になりそうだ。
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