第38話 戦力
改めて城に向かうと、城門の内側にいた俺は、いまさっき入ってきた兵士から驚くべき報告を聞くことになった。
「報告します! アルカリス王国に魔王が出現。敵勢力は王国兵と魔物を含めて約15万。全軍が帝国へ向けて進軍しました!!」
門内の兵士たちは動揺する。俺も表情を隠すことなくその報告に驚いた表情を向けた。。。
メイドは目が回りそうなくらいにあわあわしだした。
「ちょ、ちょちょちょちょっと待ってください。ま、魔王ってどういう……あわわわわ」
そもそも、アルカリス王国はマルファーリスの支配下にあった国だ。
しかし、俺が奴を始末してしまったことで、王がいなくなってしまったはずなのだ。
いやその前に、マルファーリスは皇帝になっていた。すでに国王ではなかったはずだ。
今日この日までの間に何かあったのだ。
息を切らした兵士は、城門の中にいる兵士と目の前のくるくる髪のメイドに状況を説明した。
「先遣隊の報告によれば、国外防衛を担当する魔法兵団の第一団が緊急的措置で出撃。通常戦力であれば、魔法兵団一個小隊の大砲『炎弾砲撃魔法』で対処できるはずでした……」
ああ、確か街中を砲撃していた炎弾魔法だな。
「しかし、わずか数分で小隊が全滅しました。その時に計測された戦力予測が、魔法兵団の戦力比を大きく上回っているとの報告がなされました!」
くるくる髪のメイドは、豆鉄砲でも食らった顔になる。
そんなことが起こりうるのかという空気が兵士たちからもわかる。
メイドの隣にいるショートカットの秘書のお姉さんは、頭を抱えながら兵士にこう聞いた。
「どういうことですか? 帝国の戦力日を上回るなど、魔物と王国兵だけでそれができるとは思いませんが……」
それに自信でも本当にそんなことが起きているのか? と信じていない顔をしながら兵士は答えた。
「報告によりますと、魔物、王国兵ともに不死体性が確認されました。そして……」
「なっ……、不死体性って。それじゃまるで、王国兵も魔王の支配下にはいったってことじゃないの……」
「そうなります……」
俺は意味がわからずその報告を聞いていた。
すると、メイドさんが教えてくれる。
「あ、ええとですね、魔王は特異な能力を持っていることが多くてですね。それで……」
「ん? それで?」
「魔王の支配下にはいったものは不死を得ることができると言われています。前代の魔王がそうでしたから……」
そういうことかと俺は頷いた。
つまり、その15万の軍が全員、不死の体制を持つと。確かに馬鹿げてるな。
秘書のお姉さんは、そんな馬鹿げた状況にまだ何かあるの? という視線を向けて問う。
「で、まだこのふざけた状況以上に何かあるの?」
「それが、数名の『勇者』が魔王の側についている……という監視班からの報告がありました。一個小隊が全滅したのは、この世界で確認されていない未知の魔法を使って、勇者の一人が弓で矢を照射したためと判明しています」
「は?」
そこで俺は変な声が出てしまった。
魔王側に勇者がつくというのは、まあ一般的におかしいと思うが、驚いたのはそこではない。
王国にいる勇者……。
それが誰なのか、わかりきっているからだ。
いや、もしもということもあるが、十中八九、俺と一緒に召喚されたクラスメートたちだろう。
弓……を使った奴は確かにいた。だが、あんまり記憶にない。
他の奴に興味なかったからな。てっきり全員ダンジョンの中で魔物にやられて死んだと思ったが、違ったようだ。
「矢を照射? 何それ? それどういう状況よ?」
秘書の眉間には、どんどんとしわが刻まれていく。
「はあ……自分もよくわからないのですが、数発の矢が地面に直撃した瞬間に、辺りが吹き飛んだとだけ……」
そう言った瞬間、場の空気が凍った。
ただの弓矢が地面にクレーターを作ったのだと言う。
メイドは気絶しそうなほど顔をこわばらせて震えている。
クールそうに見える秘書でさえ頭を押さえてしゃがみこんだ。
「そんな大戦力がこの状況で攻めてきたの……? 一人で小隊を殲滅する者たちの集団が? しかも15万? その上、新皇帝は逃げ出したままの今の状況で……? 頭が痛くなってきたわ……」
その上、戦力的に大きい前皇帝マルファーリスや前々皇帝も死んでいない。
まるで、千載一遇のこのチャンスを狙っていたかのようだった。
秘書は唸りながら何かを小声で呟いていた。
『皇帝がいない今、正式に軍を動かせるものがいない。指揮を取るものがいなければ軍隊はその真価を発揮できない……。その上、フィオナ様は経験が浅い。最高指揮官の騎士タリバもずっと行方不明。皇帝がいなくなって一連の事件が起きたから連合小国の動きも悪くなっている。始まって以来の危機ね……』
たぶん打開案を探しているのだろう。
俺はその状況を横から眺めていた。
というか、俺は魔王……というのを見たことがない。先代とか言っているのだから、魔王は世襲制なのかもしれない。
モニカは見たことがあるらしいが、世界を滅ぼそうとしている……のがこの戦争を起こした理由か?
このタイミングで攻めてくると言うことは帝国が一番の敵だったのだろうか?
う~ん、わからん。
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