第34話 すっきりしない結末

「なあ、これってほんとにBランクの魔物なのか?」


 俺はウォーターブレスを交わしながら、レオーラに疑問をぶつけた。


「ルイスさんを襲ってるのは確かにBランク程度ですわね――。あんっ! もう!」


「今度こそ! 『シャイトニング!』」


 グギャァアア!


 光の雷鳴が轟き、紅い蛇頭を痺れさせる。が、それも一瞬のことで再び動き出した。むしろ先ほどよりも動きが荒々しい。どうやら怒らせてしまったようだ。


 うーん、光魔法もあまり効かないようだ。


「やっぱりあいつも?」


「ええ、Bランクですわね――。ちょっと! そこは駄目ですわ!」


「くそ野郎が! 殴っても殴っても効きやしねえ!」


 草色の蛇頭は柔いようで、打撃によって凹んでもすぐに元に戻ってしまう。


「レッドのも?」


「勿論ですわ――。いやん!」


「さっきからレオーラに抱きついてくるのは?」


 残念ながら、俺がセクハラをしているわけじゃない。誠に残念ではあるが。


「初めて見ましたわ、こんなスケベな猿は! ランク外に決まっていますわ!」


 グギャ!?


 レオーラに弾かれて、壁にめり込んでいた。しかしあの猿こりないよな。何度ボコられてもマイクロビキニをはぎ取ろうとチャレンジするのだ。エロにかける情熱というか執念が凄い。


 基本的にレオーラはアンデッド以外に対しての攻撃力は低いので致命的なダメージにはなっていないようだ。なら、俺が仕留めればって?


 いや、俺はそんなことよりも目の前の脅威に立ち向かうのが先決なのだ。決して、奇跡が起きるのを期待しているわけじゃない。


「ルイスさん?」


「ん、ああ。そうそう、こいつって頭が七つあるよな。頭一つがBランクなら、こいつ一体のランクはBランク以上じゃないのか?」


「そういう考え方もありますわね」


 いや、それしかねーだろ。


「運が悪すぎました。まさか虹オロチがでるなんて……。こんなの出るなんて情報聞いてないです」


「もしかしたら、これと遭遇した冒険者がみな命を落としているんじゃないかしら」


 またこのパターンかよ。なんでいつも当たりが悪いんだ。


「仕方ないです。一つ一つ確実に潰していきましょう! えいっ!」


 アクアが檸檬色の蛇に向かって小さな玉を投げた。あれってどこかで――。


「それって! ちょ!? おい! みんな伏せろ!」


 大爆発がおき、ボス部屋が大きく揺れた。パラパラと天井から石が落ちてくる。


「アクア! 天井が崩れるだろ!」


「すみません。私も思った以上の威力で驚きました。やっぱりあそこの毛を入れたのが不味かったのかな……」


 ボソッと呟いたアクア。それって誰の何処の毛ですか?


「でも、アクアさんのお陰ですわね」


「おお!」


 檸檬頭が完全に消失していた。隣のオレンジと草色の蛇も半分ほど頭を失う大ダメージを受けていた。あれ? 草色の蛇って誰かが肉弾戦をしている最中じゃなかったか?


「ぅ…ぅ……ぅ……」


 あ、レッドが天井にめり込んでいた。


「お、お兄ちゃんどうしたの!?」


 いやそれ君のせいだから。危うく兄殺しの罪人になるところだったよ。


「え……嘘ですわ」


 檸檬色の首の切断面からニョキニョキと新しい蛇頭が生えてきた。


「おいアクア、こいつはどうやって倒すんだ」


「わ、わからないです!」


 アクアの知識や索敵でもわからないのか。うーん。こういうのを倒すセオリーってなんだっけ。


「あ、もしかしたら……」


「ルイスさん倒し方がわかるのですか!」


「いや、なんつーか、ただの勘なんだけどさ」


「何でも言ってください。泥船でさえ乗りたい思いですから!」


 いやそれは単に沈むから。


「あいつらの首を同時に落とせばいいんじゃないかなって」


 なんかそういう展開ってラノベとかアニメとかでよくあるよね。またそんな無理難題をとか思ってたんだけど。まさか当事者になるとは。


「でも、同時なんて無理よ!」


「そうです。一人一頭を相手するのもぎりぎりです。私たち五人しかいないんですよ。お兄ちゃんもやられてダメージありますし……」


 だからダメージ与えたのはアクアだからね。


 まあでも、確かにきついよな。さてどうしようか。


「それぞれの蛇頭を絡まさせて動けなくするとか?」


「やはり七つも同時に相手するのは難しいですわ。それに普段から絡まないのでしたら、向こうもそんな馬鹿なミスは犯しませんわ」


「まあ、そんな都合よくはいかないか」


 ラノベじゃないんだし。


「あそうだ! あそこの隅っこで縮こまっている役立たず達がいるじゃないですか」


「ん? 海賊か?」


「はい、彼らに貢献してもらいましょう」


「どうやって?」


 確かに人数は多いけど、武器も防具も取り上げたし。誰かの所為で目も見えないし。あ、レオーラに癒してもらって、とりあえず今だけは武器を与えればいいか。


「彼らに私の調合したボムを括りつけて放り出せばいいのです。蛇が飲み込んだら儲けものです。そうすれば一度に中から破壊できますよ」


 ひぃぃいいい!


「いや、さすがにそれは可哀想だろ。見てみろ。奴ら恐怖のあまりションベン漏らしたじゃないか」


「使えないだけじゃなく臭い獣ですね」


「ア、アクア……。ま、まあそれは置いといてだ。普通に投げつければいけるんじゃないか。ボムは何個持っている?」


「えっと……。五つですね」


「なら、各自一つずつ持って同時に投げつけろ。左の蛇から順に、レッド、アクア、アンヘレス、レオーラでいけ」


「ルイスさんは?」


「俺は残りの三つを同時にやる」


「どうやってですか?」


「魔道具をたくさん持ってるって言ったろ」


「なるほどわかりました」


「いいから、しっかり狙えよ。くれぐれも外すなよ」


「わたし投げるのには自信があるから大丈夫だよ!」


「わたくしは少し不安ですわ」


 アクアが各自に爆弾を配る。なんか物騒だな。


「アンヘレス! 奴を少しの間でいいから痺れさせてくれ。胴体を狙えばいいから!」


「わかった! 『シャイニングボルト!』」


 グギャァアアア!


 七つの頭が一斉に叫び、硬直した。


「よし今がチャンスだ! 三、二、一、いけえええ!」


 皆がボムを投げるのと同時に、俺も三本の苦無を投げつけた。勿論インフィニティを発動させてだ。爆弾と苦無がそれぞれの蛇頭へと向かっていく――。


「あっ――」


 あっ、じゃねーよ!


 アンヘレスのボムだけ的を外していた。というか、何をどうしたらそうなるのかわからない。それは後ろに飛んでいったのだ。


 ひぃぃいいいいいい!?


 海賊たちの頭上すれすれを飛び越し、後ろで爆発した。何人か吹き飛んだけど、死んではいないだろう。


 もちろん、俺はすぐに新しい苦無をアンヘレスの担当だった蛇頭に投げつけておいたよ。


 ボムと苦無はほぼ同時に全ての蛇頭に当たって爆発した。


「おお! 兄貴やったぞ!」


「私のも当たりましたわ!」


「てへっ」


「……。一人役に立たない奴がいたが、どうやら倒せたようだな」


「ま、待ってください! 駄目です!」


「「「「え……」」」」


 七色の蛇の頭は確かに全て吹き飛んでいた。しかし、残る胴体から再び首が伸び、元の形へと戻ったのだ。


「兄貴! どうしたらいい!」


「いや、どうって言われてもな……」


「万策尽きましたわね」


「ああ、私達の命運もここで尽きてしまうのでしょうか……」


 重苦しい雰囲気がパーティに立ちこめる。


 ウキ! ウッキー!


 そんな中、目をハートにしたエロモンキーがレオーラのマイクロ目掛けて飛びつく――。


「この野郎! 空気を読みやがれ!」


 ギヒャッ!?


 いまは、ピンクな気分じゃねーんだよ! 俺の一撃をまともに浴びたエロモンキーは体を痙攣させて動かなくなった。


「あっ! 虹オロチが消えていきます!」


「えっ? なんで?」


 まるで初めからそこには何も存在しないかのように消えていく。まさに虹のようだ。


「あっ、魔結晶だよ!」


 たしかに大きな魔結晶だった。しかし、それはオロチのいた場所にはなかった。


 エロモンキーが先ほどまで痙攣していた場所に残っていたのだ。


「まさかあの猿がボスだったのか?」


「そうみたいですわね」


「確かに、あのモンキーからは禍々しいオーラが出ていました」


「いや、アクア。なら先にそれを言おうぜ」


「いえ、どす黒い欲情の塊りかと勘違いしていましたので……」


「まともに戦えばAランク以上の難敵ですわ。ですが、ボスに気づけば誰でも倒せますわね。ですから総合するとBランクということでしょうか」


「なにその酷いオチ……」


 とてもじゃないが納得がいかない。


 俺はやるせない気持ちでダンジョンを後にした。

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