第26話 ランチミーティング

「で? ギルマスとの話はうまくついたのか」


 ただいまランチミーティングなり。今後の方針等を話し合うためにメンバーで集まったのだ。


「問題ないですわ。邪竜が出現して早々にブレスを吐きまくり天井が崩落。身動きのとれなくなったところをメンバー全員で一斉攻撃して何とか倒すことができた。そう報告しましたの」


「そうか。あちこちに出来てしまった穴については?」


 主に俺の魔武具の所為で。


「それもあって邪竜がブレスを吐きまくったと説明しましたの」


「なるほど。まあ、少なくとも暫くはそれでバレないだろうな」


 あの穴がどこまで続いているのかはわからない。しかし、そのうちの一つの終端には俺のチャクラムが刺さっているはずだ。


「例の現象についてギルドの見解は?」


「それの確認もあって今朝もいって参りましたのよ。詳細な調査はこれからとのことでしたが、あの亡くなった方を覚えていまして?」


「ああ、ギルド職員だろ」


「ええ、そもそも三人組だったらしいのですわ」


「全員死んだのか」


「おそらくは。あの邪竜に殺られたと考えられますわ」


「でも、なんであんな浅い階にB級レベルの職員がいたんだ」


 B級職員のパーティなら二十六階以深にも潜れるほどの実力なのだ。


「魔結晶の回収員のようですわ」


「なんだそれ?」


「私たちが宿泊したコテージ。あれは他の階層にも何箇所か設置されているらしいのですわ。その魔結晶を定期的に回収してまわるのが彼らの業務でしたの」


「なるほど。強くないと魔物に襲われても対処できないもんな」


「それに大量の魔結晶を持っているのです。それを狙った悪い輩に襲われるかもしれませんわ」


 現金輸送車の警備員みたいだな。どこの世界でも悪党は同じような事を考えるのね。


「それで?」


「彼らは下層から上層へと回収して回っていた途中のようですわ」


「確かに体力のあるときに強敵と戦った方がいいからな」


「ですが、あの場に魔結晶は残されておりませんでしたわ」


「確かに。最後も邪竜の馬鹿でかいのしか残ってなかったな」


「なので我々が疑われたのですわ」


「魔結晶を狙って襲ったと?」


「なによもう!」


 ドンとテーブルを叩くアンヘレス。


「まあ、落ち着け。話は最後まで聞こうぜ」


 俺だってイラっとしたんだからな。


「だって、このパスタ食べにくいんだもん!」


「は?」


 フォークを皿の上でクルクルとまわすアンヘレス。パスタを丸めて掬おうとしているようだ。でも、そこは皿の縁だからパスタないけどね。


「アンヘレス。いい加減それ外したらどうだ」


 パスタを口に入れるには仮面を上にずらさなければならない。しかし、そうすると視界が確保できないのだ。なので次のパスタが取れない。上げたり下げたり忙しいやつだ。


「駄目よ。私の秘密がばれちゃうじゃない」


 多分、みんな気づいているぞ。レストランに入った瞬間に皆の視線がこっちを向いたからな。こっちというか狐の仮面ピンポイントだ。人目を引くから逆効果にしかならない。隠すならその自己主張激しい金髪まで隠せよ。


「話が脱線したな。レオーラそれで?」


「ええ、殺人の疑いはすぐに晴れましたわ」


「そうか、それで魔結晶はどこに?」


「理由をお聞きなさらないの?」


「ああ、サクサク話を進めようぜ」


 どうせ、ギルマスと面識があるほどの立ち場なんだろ。それにアンヘレスもいるし。無闇に藪へと足を突っ込んではならないのだ。大蛇が眠っているのわかってるし。


「それは残念ですわ……。魔結晶の行方に関しては明確な証拠はありません。ただ状況的に考えて一つの事象が想定されました」


「ほう」


「理由はわかりませんが、ボス部屋の魔物に取り込まれたのではないかと」


「そんなことがありえるのか?」


「私も存じ上げませんでしたが、過去に同様の報告例があったそうです。ギルド職員が夜を徹して調べた成果ですわ」


「そうすると何らかの事故に遭遇し、職員の回収した魔結晶の全てが大蜥蜴のゾンビに……」


「ええ、莫大なエネルギーにより血肉を得、身体が巨大化、竜へと変貌したと推定されます」


「それはしゃれにならんな」


「あくまでも推定にすぎませんわ。過去の事例はこんな災厄的な規模ではありませんでしたの。死んだ冒険者が持っていた魔結晶を食べた魔物が少し強くなった。その程度の報告でしたわ。詳細な調査でまた変わるかもしれません」


「そうか、状況がよくわかったよ。ありがとな」


「ただ別の問題が発生しましたわ」


「ん?」


「コテージの使用が暫く凍結されますの」


「ああそうか。魔石を一か所に貯め込むのは危険だもんな」


「代わりに何か対策を考えませんと。あんな暗くて硬いダンジョンでなんて寝泊まりできませんわ」


「漢ならの黙って野宿だろ!」


「お前は黙ってメシを食ってろ。それともやはり躾が足りてないのか……」


「な!? わかった! 黙るから! あれだけは勘弁して!」


「あらあら、わたくしそれがなにか気になりますわ」


「パパに頼めばいいの! きっと結界付きの大きな天幕を貸してくれるわ!」


「よし、午後からは宿泊用のアイテムでも見て回るか」


「ちよっとルイス聞いているの!」


 聞いてません。聞こえません。聞きません。


「あ、それなら水着も買ったほうがいいですね」


 ステーキでなければ食事中であってもアクアは平常運転のようだ。


「なぜに?」


「明日からは十階層以深の攻略ですよね」


「ああそうだな」


 ランクもソロでCランク。パーティであればBランクの階層までいけるのだ。


「ダンジョンが熱帯へと変わるんです。ジャングルとか海とかもあるそうです。金属製の防具だと錆びてしまいますし。革製でもいいんですがとにかく蒸し暑いようです」


 熱中症にでもなるんか。でも、ダンジョンで水着って危険すぎじゃね?


「わあ、楽しそう! ビーチボール持っていかないと!」


 だから遊びじゃねーし! そもそもこの世界にもビーチボールがあったんだな。


「はあ、今日は買い物で潰れそうだな。とりあえずビバティースの所に寄ってからいくぞ」


 例の鉱石が問題なく売れているといいな。


 昨日と今日の午前中は一人でブラブラできたし、買い物くらいみんなでしてもいいか。

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