第11話 なんじゃごりゃあ
「たのもー」
「ようこそ。本日は買い取りで宜しいですか?」
「ああ、これなんだけど」
ギルドの買い取りカウンターの上にウズラの卵サイズの魔結晶を一つ置く。
「え!? 随分と立派ですね。誰かのお使いですか?」
「ま、そんなところ」
まあ、七歳のガキがトロールクラスを倒せるとは思わんよな。でも普通はこういう対応だよな。だけど狼獣人のシルビアは俺を普通の大人として扱っていた気がする。獣人は種族によって外見が大きく違うから、見た目で判断しないのかもしれないな。
「討伐部位はお持ちじゃないんですね」
「あ、うん……」
なにそれ。シルビアは魔結晶しか回収していなかったぞ。
「それですと一万ギルになります」
お、かなり高く売れるようだ。
「じゃあ、あと二十六個あるから、全部で二十七万ギルだね」
「えっ!?」
驚く係員の女性に構わず、俺は全ての魔結晶を机の上に転がした。
「凄い数ですね。複数ある場合は先に出して頂かないと。ええとこの場合ですと全部で二十万ギルとなります」
「なんで?」
「数が多いと一つの値打ちが下がるんですよ。一個しかないものと二十六個あるものだと一個しかないものの方が珍しいでしょ」
子供に言い聞かせるように窓口のお姉さんが微笑む。
「ふーん。じゃあお金に困ってないし一個でいいや」
「ええっ!?」
「早く換金してよ」
「あ、えっと……。ちょっと待っててね。お姉さんが上司に相談してきてあげる」
そういってカウンターの裏へと下がる。数分ほどして笑顔で戻ってきた。
「待たせたわね。上司を説得してきたわ。今回だけ。今回だけの特別よ。二十六万ギルで買い取ってあげるわね。次からは複数持っていたら先にだすのよ」
「うん、わかった。ありがとうお姉さん!」
ふん、わざとらしい小芝居だ。ま、付き合ってやったけど。
初めからわざと一つだけ出したんだよ。相場がわからないからな。数が多いと値が崩れる? トロールごときの魔結晶で? ないな。ギルドランクもソロ討伐ではC以上だが、パーティならDでも倒せるんだぞ。この程度で値が崩れるはずなんてないだろ。買い叩かれるのが嫌だったから一つしか出さなかったんだ。
大体、おめーの口元についている菓子屑は何だ。上司に相談に行ってくると言って、時間潰しにお茶してやがったな。
家電屋の鉄則だよな。ほんとは値引きできるけど、とりあえず上に掛け合ってみますといって消える店員。戻って来たあとに提示される金額。なんか特別感を覚えて満足しちゃうよね。なんて商売上手。
これ以上用もないギルドをさっさと出て、商店街を歩く。
「さて、まずは食料だよな」
腹が減っては戦ができぬ。でも食べ物って腐っちゃうからなあ。基本、食材は現地調達か。ならば調味料が必須で、あとは保存食か。干し肉とか乾物が基本だよなあ。
「でもやっぱり先にここだよな」
「お!? お得意様の坊主じゃないか」
「おやっさん。何か新しい魔道具は手に入った?」
「おお、お前さんがやたらと買ってくれるから朝から仕入れに走ったぞ」
「街が魔物が襲われそうだったのに?」
一般人は屋内退避とかアナウンスされていなかったけか?
「飯の種が転がっているのにじっとしていられるか」
考え方が根っからの商売人ですな。
「それでどんなものが?」
「まあ、実際に見てくれよ」
店の裏に通された。棚にバラバラと並べるよりも俺が来た時にまとめて見せた方がいいと思ったらしい。有り難や。
「おお、たくさんあるね」
「だろ。種類を揃えようと思って何軒も梯子したからな」
どうやら使えなくなったアイテムは邪魔なだけなので買った店に戻すことが多いそうだ。
「ねえ、このバッグって何?」
「ああそれは無限収納と呼ばれるバッグだ」
「あれ? でも魔結晶は一回限りなんじゃないの?」
「ああそうだぞ。だがそれは期間式だな。魔結晶を一度発動すると数か月持つんだ」
「中に入れたものって腐る?」
「いや、これはその中でも上位機種だ。大き目の魔結晶が使われているからバッグの中では時間は進行しないぞ」
「それは凄い!」
「そうだろう。新品なら五百万ギルはくだらないんだ」
世の中には金持ちが多いらしい。数か月しか使えないものに日本円で五千万円も支払えるのだから。
「それがたったの」
「ああ千ギルだ! めちゃくちゃお買い得だろ」
ほんとそうだね。でも、発動しなかったらただの塵だよな。おそらくただ同然で仕入れているのだろう。
「うん、じゃあ全部買うよ」
「まじか!?」
「でも、今回はアイテム袋をただで付けてね」
「むむむ……。まあいいだろう。坊主も買い物上手になってきたな」
この場で無限収納に入れたかったけど、それやるとバレるからね。
「そうだ。おやっさん。俺、今日を最後にこの街を出るんだ」
「なに!? そうなのか……」
あからさまに肩を落としていた。そうだよね。せっかくの上客がいなくなっちゃうのは痛いよね。
「はあ、明日からは処分費もとれなくなるな」
店主が聞き捨てならない言葉を吐きやがった。もしかしてこの使えない魔道具類は本当にごみ扱いされていたのか。廃棄物処分料を貰って引き取り、商品として俺に売りつけていたと……。思った以上にがめつかった。
「おやっさん。世話になった。ありがとう」
「おお、元気でな。またこの街に来ることがあったら顔を出してくれ」
おやっさんと硬い握手を交わして別れた。実際、本当に感謝している。あそこでごみを売りつけてくれなかったら今の俺はいないだろう。
「さてと、じゃあ後は食料とか衣料品とかしこたま買い漁りますか」
豊富な軍資金と無限収納を手にいれた俺は軽い足取りで大通りへと出た。
「うぐっ!?」
突然、背中から腹部にかけて鋭い痛みを感じた。同時に何かが弾ける音が頭に響く。下を向くと何かが突き出ていた。俺は腹部を押さえて呻く。
「なんじゃごりゃぁあ!」
「ふふふふ、みーつけた」
背中からは聞き覚えのある声。
「お、お前……」
「ふふふふ、きみのせいで僕の人生は台無しだよ」
振り返るとそこには見覚えのある白髪の少年。チャーリーと呼ばれていたカラードの一員だ。
「あがっ!? ガァアアア!」
俺の腹部からは剣が突き出ていた。それをぐりぐりと回転させやがった。これまでに経験したことのない激痛に頭が白くなる。
「ふふふふ、これの償いは重いよ」
チャーリーは片目にあてていた眼帯を外す。うわっ――。そこにはあるべき物はなく、代わりにぽっかりと黒い穴が開いていた。
周囲からも悲鳴が漏れる。見ていないでこいつの凶行を止めろよ。無能の命なんて助ける価値もないのか。
「黒い瞳の能無しに負けた奴はカラードじゃない。お前になんて瞳なぞ必要ない。そう言われて眼球を抉られたんだよ。ふふふふ、面白いだろ?」
「ぞんな――」
駄目だ。口から血が溢れてうまくしゃべれない。どうやら内臓を酷く損傷したみたいだ。
「さようならルイス君。でも大丈夫だよ。カラードの奴らも後を追わせるからね。あいつら絶対に許さない。うふ、ふふふふ……」
壊れたように嗤いながら剣を俺から引き抜いた。あまりの痛みに俺は冷静さを完全に失っていた。
「この糞野郎がいてぇええんだよぉおおお!」
俺はチャーリーを思いっきり殴っていた。
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