鳥人間 1
最初はメインディッシュのジェットコースターから始まったものの、絶叫アトラクションばかり乗ったのかというとそうでもない。ジェットコースターの次に二人が乗ったアトラクションは、スピード感は無いが代わりに音楽と美術を楽しめるもので、愉快に動き回る人形たちと美しい舞台セットにレイナも心を奪われた。もちろんジェットコースターは一つで終わらず、上下左右の回転に力を入れたコースター、どこにも負けない落下速度が自慢のフリーフォール、かと思えば小舟に乗ってゆったりと風景を楽しんだり売店でポップコーンを買って食べ歩いたりと、緩急を織り交ぜてテーマパークを楽しんだ。
イミナとしては今日はレイナへの贖罪がメインであるため、レイナ好きなアトラクションにだけ乗ってもよかったのだが、それではレイナがイミナを気にして楽しめないだろう。むしろまるでレイナの遊びに仕方なく付き合っているような雰囲気になってしまうような気がしたため、レイナも自分も楽しめるような計画で遊び回った。
「……あんた、マメよね」
「そう?」
太陽が南中を過ぎて傾き始めたころ、パーク内のレストランで二人は少し遅めの昼食を取っていた。
スパゲッティを口に運ぼうとしたイミナが、フォークを一度止めてレイナに答える。
「そうよ。私だってさ、あんたがちゃんと私のこと見て、考えてくれてるの、いやでも、わかるっていうかさ」
レイナが喋っている間にフォークを口に押し込み、イミナはイミナで口を動かす。テーマパーク内の飲食は割高になってしまうが、それも含めて笑えれば悪くないサービスだろう。
「あんたはさ、私と一緒にいてちゃんと楽しいの?」
レイナは、強気で、負けず嫌いで、意地っ張りだ。
でも一方で、レイナは、臆病で、寂しがり屋で、傷つきやすい。
イミナを疑っているとか信じていないとか、そういうことじゃなくて、ただ確固とした繋がりなど何もない恋人という関係性が、不安なのだと思う。
悪く言えば、重たいという人はいるかもしれない。
ただそれがイミナにとっては軽かったという、それだけのことだ。
「俺は、レイナが好きだよ」
「答えになってないじゃない」
「好きじゃなかったら、こんな無茶しないし、レイナにだってさせたくない」
「好きじゃなかったら、私に無茶させたって、何も思わないんじゃない?」
「そりゃそうか」
確かにレイナの言うことにも一理あるなぁ、と思いながら、イミナはちゅるんとスパゲッティを吸い込んだ。
それからよく噛んで、飲み込んで、ようやく口を開いて言った。
「いいよ」
「なに?」
「俺がレイナを好きで、レイナが俺を嫌いじゃなければ。それでいい」
「…………」
「…………」
「……あたしだって――」
「きゃ!?」
レイナの声を遮って、女性の叫び声が二人の耳に入った。
騒がしいテーマパーク内にもかかわらず自然と耳に入ってしまうほどの。決して小さくない悲鳴だった。
「おいおいおい、おじょーちゃん? 何してくれちゃってるわけ?」
耳障りな声が二人の耳に届いた。他の客も二人と同じように、声の方向に顔を向けている。
「何って……あなたがぶつかってきたんじゃないですか」
揉めているのは五人。
一方は女の子二人組で、休日をテーマパークで遊びに来たのだろうか、まだ垢抜けない印象を受ける。前の子は強気に言葉を放っているが、もう一人の方は前の子の服を掴んで後ろに隠れている。
もう一方の集団は、男一人に女二人の三人組。先頭に立つ男の服が盛大に白く塗られてしまっている。もちろんデザインでもなんでもなく、女の子たちが持っていたソフトクリームが、男とぶつかった衝撃で手から離れてしまったようだ。
「このジャケットいくらしたと思ってんの? 金、出せるんだろうな?」
三人組のほうはにやにやと嗜虐的な笑みを浮かべている。先ほど女の子が叫んでいた通り、男たちのほうから故意にぶつかったのだろう。
「……三リュミネがいいところじゃないかしら」
「ぶふっ」
レイナがぼそっと呟いた言葉に、イミナは思わずアイスコーヒーを吹き出しそうになった。三リュミネと言えば、あの女の子が持っていたであろうソフトクリームの値段と同じだ。
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