第23話 タテガミ族とタテガミ族の誇り
第23話 タテガミ族とタテガミ族の誇り
「未だに長耳族の集落は大きくなり続けています」
「そうか……報告ご苦労、下がっていいぞ」
「はい!」
俺はタテガミ族の族長として、見張りに出していた者から報告を受けた。
……それにしても長耳族か……面倒な相手だ。
俺たちタテガミ族と長耳族は少なからず昔に因縁がある。
はじまりはタテガミ族の族長だった俺の親父がまだ戦士長だった頃の話らしい。
その頃は俺もまだ生まれておらず、死んだ親父と親父の仲間の戦士からの話でしか知らないのだが、何でもある日タテガミ族の1人の戦士が長耳族の隠された集落をみつけたそうだ。
その報告を聞いた当時の族長が戦士長だった親父に長耳族の集落への攻撃を命ずる。
親父はその族長からの攻撃命令を受けて、集落に居るタテガミ族の戦士を集めて長耳族の集落へ向かった。
長耳族に発見されずに戦士たちと隠れて集落に近づいた親父はどう攻撃しようかと悩んだ時、若い戦士が功を焦って長耳族の集落に1人で突撃したらしい。
その結果、長耳族に怪我を負わせただけで全員に逃げられたそうだ。
しょうがないので親父たちは長耳族が残した血の跡を追った。
長耳族を追いかけていた親父たちは大平原で逃げていた長耳族を見つけたが、奴らの逃げ足は速くなかなか追いつけない。
しかし、長耳族は怪我をしていた者もいたのでやがて親父たちは長耳族に追いつきそうになる。
……そこに突然、空から怪物が親父たちと長耳族の間に降ってきたらしい。
親父はその怪物が現れた瞬間、身体が震えて動かなくなり、すぐにその怪物との差を感じたそうだ。
そこで先ほど功を焦った若い戦士がその怪物に突撃する。
その若い戦士は怪物に片手で頭を握り潰されて、身体から血を吸い出され干からびたらしい。
その光景を見た親父は戦士たちに全力でその怪物から逃げるように指示して逃げた。
その後、タテガミ族の族長となった親父はタテガミ族全体にその怪物の話をして、その怪物と長耳族には手を出してはならないと言うようになった。
これが俺たちタテガミ族が唯一敗北した存在と長耳族との因縁。
……信じられないような事だが親父だけでなく、一緒に逃げたという戦士も同じ話をしていたので事実なんだろう。
親父たちの話ではその怪物の姿は頭に角を持ち背中から翼と尻尾を生やしているらしい。
本当にそんな姿の存在が居るのか、と疑問に思う……実際に親父たちが遭遇した時から姿を見せないからな。
ある日、大平原に何かの集落が作られているのを俺たちタテガミ族は発見する。
その集落をよく見ると今まで見たことのないような凄い建物が建っていた。
そして驚くことにその集落を出入りしているのは、あの長耳族だということが判明する。
俺たちタテガミ族はとても驚いた。
なぜなら俺たちタテガミ族が手も足も出なかったらしい怪物から生き残っていて、尚且つ隠れて暮らす筈の長耳族がこんな見通しの良い大平原にあれ程立派な集落を作るなど思いもよらなかったからだ。
俺たちはその長耳族があの怪物と関係があるのではないかと思い放置することにした。
しかし、長耳族の集落はどんどん大きく立派になっていき、このままでは俺たちタテガミ族の脅威になるかもしれない。
いつまでも見えない影に怯えている訳にはいかない。
怪物に出会ったという親父や戦士たちはとっくに死んでいった。
もう攻撃を止める者も居ないのだ。
長耳族……このまま大きくなっていくのを放って置く訳にはいかない。
……それに俺たちタテガミ族には親父たちの頃には無かった特別な力を手に入れた。
これがあれば、たとえ親父たちを恐怖させた怪物であろうとも負けないだろう。
だが、念の為警戒はしていた方がいいな。
俺は側に居る護衛の戦士に声を掛ける。
「おい、戦士長を呼べ。 戦いの準備だ」
「はい! 直ぐに呼んできます」
護衛の戦士がすぐに俺の家から出ていって戦士長を呼んでくる。
「族長、戦いの準備という事だが次はどこを攻めるんですか?」
「今回はあの長耳族の集落だ」
そう戦士長に言うと戦士長は目を見開いた後、震えてから喜びを身体で表した。
「やったぜ! ……ああ、すみません。 それにしてもやっとあのデカイ集落を攻撃出来るんですね!」
「なんだ? お前はそんなに長耳族を攻撃したかったのか?」
「はい、あんな立派な集落を作れる力を俺たちが支配すればどうなるかをずっと考えてたんです」
「なるほど……怪物については何も考えてないのか?」
「怪物ですか……そんな昔の敵に今の俺たちタテガミ族が負けると思いますか?」
「……確かにお前の言う通り俺たちは強くなった」
「それに俺たちタテガミ族にはあの力がありますからね」
「そうだな。 ……だが警戒はしておいた方がいいだろう。 俺たちの被害も減るしな」
「警戒ですか? どうするんです?」
「俺たちタテガミ族が支配している種族から戦士を出させて先に攻撃させるのだ」
「なるほど、あいつらを使うんですか……良いですね」
「決まりだな。 ではすぐに準備をして、準備が出来次第攻撃を始めろ」
「了解しました!」
戦士長は俺の命令に納得して、家から出ていった。
「ふぅ……これで怪物なんて存在に怯える日々が終わってくれる事を願う」
♢♢♢
族長から長耳族の集落攻撃の命令を受けて俺はすぐにタテガミ族の戦士を集めてから支配している種族を回った。
そして今、大平原には多くの戦士が集まっている。
「聞けぇ! これから長耳族の集落に向かって攻撃をする。 長耳族の集落に向かって進行せよ!」
こうして俺たちが支配している種族の戦士たちは長耳族の集落に向かって大平原を進み始めた。
もちろん俺たちタテガミ族もその後ろを長耳族の集落に向かって進む。
そうして進んでいると俺たちの進行方向に長耳族が多く集まっているのが見える。
どうやら長耳族はここで俺たちと戦うらしい。
「戦士長、長耳族の奴ら何故か人を分けていますよ」
「なに?」
仲間の戦士が俺にそう伝えてくる。
長耳族をよく見ると確かに仲間の言う通り、長耳族が半分くらい後ろに下がっていた。
「何を考えているんだ長耳族は?」
「わかりません。 分けなければ俺たちが支配している奴らと良い勝負ができたと思うんですけど」
「確かにそうだな」
仲間の戦士の言う通り、全員を集めて戦えば少しでも俺たちが支配している種族に勝利できたかもしれないのに。
「……まぁいい。 このまま敵に向かって突き進め!」
「了解です」
そうして長耳族に俺たちが突き進んでいると、突然長耳族から見たことのない物が一杯支配している種族に飛んでくる。
その見たことのない物は人に当たるとその当たった者は次々と死んでいく。
「な、なんですかあれは!?」
「……わからない。 あんな物見たこともない」
「ど、どうしましょうか!?」
ざわざわと騒がしくなっていく戦士たちに俺は落ち着くように声をかける。
「落ち着け! あの飛んでくる物をよく見ろ! あれに当たらなければいいんだ。 俺たちにはあの力がある、あんな物簡単に避けられるだろう?」
「そ、そうですね! 流石は戦士長!」
「当たり前だ。 ……それにしてもあれは一体なんなんだ」
タテガミ族の戦士たちが落ち着いたのを見てから俺は長耳族のあの攻撃について考える。
だが、俺ではあれの正体がまったくわからない。
すると、仲間の戦士が再び声を掛けてくる。
「戦士長、このままでは俺たちが支配している戦士が全滅してしまいます」
「……そうか。 さて、如何したものか」
俺は戦場をよく見る。
戦場には長耳族のよくわからない攻撃で一方的に攻撃され死んでいった戦士たちの死体が多くあり、このままでは確かに全滅しそうだ。
そこで俺は1つのことを思い付く。
「良い考えが思い付いたぞ。 死んだ戦士の死体に身体を隠させるのだ。 そうすれば前からの攻撃に耐えられる筈だ」
「……それに奴らは従いますかね?」
「なに、死にたくなかったら従うしかないだろう?」
「確かにその通りですね」
そう、奴らはあの長耳族の攻撃から死なない為には従うしか方法はないのだ。
予想通り、支配している戦士たちに指示を出してすぐに奴らは従った。
「上手く長耳族の攻撃を耐えていますね」
「ああ。 これでなんとか全滅は避けられたな」
「そうですね。 ですが、これからどうしますか? これではこちらが動けませんし」
「そうだな。 ……とりあえず、長耳族の攻撃が止むまで待ってみるか」
「わかりました」
そう決めてじっと支配している戦士が死体に隠れていると長耳族も攻撃が無駄だと思ったのか、あの攻撃をやめた。
しかし、死体から戦士が少しでも身体を出そうとすると、あの攻撃が飛んでくるので動けない。
しばらく、その動かない時間が続く。
すると、突然前に居た長耳族が後ろに向かってこちらに背を向けて走り出した。
「動いたッ! 前の戦士たちに追わせろ!」
「了解です!」
突然、背を向けて逃げ出した長耳族を支配している戦士たちが追いかけるが、距離的にも足の速さ的にも追いつけそうにない。
「しょうがない。 お前ら! 【タテガミ族の誇り】を使って俺たちタテガミ族が長耳族を追いかけて殺す! いくぞ!」
「「「おおおぉぉぉ!!!」」」
前の戦士たちでは長耳族に追いつけそうにないので、俺たちタテガミ族が【タテガミ族の誇り】を使って長耳族を追いかけることにする。
タテガミ族の誇りというのは俺たちタテガミ族が使える不思議な力で数年前に発見された力だ。
このタテガミ族の誇りを使うと俺たちの身体能力が大幅に強化されて、力も強くなるし足も速くなる。
まさに俺たちタテガミ族にふさわしい最強の力。
この力があるからこそ俺たちは誰にも負けないと断言出来るのだ。
タテガミ族の誇りで身体能力が大幅に強化された俺たちは普段ではありえない速さで大平原を走る。
すると、すぐに長耳族を追いかけている俺たちが支配している戦士たちの背中が近付く。
「お前たち! 真ん中を空けろ!」
俺の指示を受けた戦士たちが左右に分かれて道を空ける。
俺たちはそこを通って長耳族に追いつこうと更に速く走る。
長耳族の背中が近くに見えてきて、もうすぐ追いつけるというところで背中を見せていた長耳族が反転して俺たちタテガミ族にあの攻撃を飛ばしてきた。
しかし、タテガミ族の誇りを使っている俺たちにそんな物が当たるはずもなく、すべてを避けてとうとう長耳族に辿り着く。
「おおおおおおおおおお!!」
『gansj』
俺は石の槍と変な物を持った長耳族と接触する。
俺は石の槍を構えてその長耳族に突然するが、長耳族はその変な物で俺の攻撃を防いだ。
『slander』
どうやって防いだのかよくわからないが、そんな事はどうでもいい。
今は目の前の敵を楽しんで倒すのみ。
そこで俺は目の前の長耳族が男ではなく女だということに気が付く。
「なんだ? 長耳族の女か? ちっハズレだな」
『idbdodusgdcdj』
男の長耳族の戦士であれば、もう少し戦いを楽しめたのかもしれないと思いながらそう言ったのだが、その言葉に長耳族の女は怒ったのか石の槍で俺を突き刺そうとしてくる。
俺はその石の槍を脇で抑えて動かなくした。
『usbfceoak』
「なんて言っているか知らないが、終わりだ」
相変わらず、この長耳族の女がなんと言っているのかわからないが、俺は早く次の敵と戦おうと思いながらこの長耳族の女の頭を思いっきり石の槍で上から殴り終わらせた。
長耳族の女が倒れるのを少し見ながら横に居る新しい長耳族の戦士に俺は向かっていく。
そうして、俺たちタテガミ族は次々と長耳族の戦士を殺していった。
途中で長耳族の戦士の救援がやって来たが、それも同じように殺していく。
長耳族はどいつもこいつもおんなじような動きしかせず、大した強さもなかった。
時折、あの不思議な攻撃を飛ばしてくるが見えているなら当たらない。
そして、向かってきた長耳族をすべて殺し残るは後ろに居る少しの長耳族だけになった。
俺たちタテガミ族は追いかけてきた支配している戦士たちの後ろに一旦下がる。
なぜならタテガミ族の誇りはずっとは使えないからだ。
再び使うのには少し休憩しなくてはならない。
「いやぁ戦士長。 長耳族なんて弱い奴らですね!」
「そうだな。 期待外れもいいところだ」
「それでこれからどうしますか?」
「とりあえずはここで休憩だな。 再びタテガミ族の誇りが使えるまで待つ。 どうせ長耳族に近付こうとしてもあの攻撃を飛ばしてくるだろうしな」
「了解です」
そうして、俺たちは長耳族と向かい合ったままタテガミ族の誇りが使えるまで待つ。
この時間が終わった時、その時が長耳族の負けだ。
そう思っていた俺たちタテガミ族の前に圧倒的な恐怖と力が舞い降りる。
――それは絶望だった。
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