――ボイスレコーダー③――


 ゾンビの掃討作戦を国連が正式に認めたようだ。

 と言っても、すでに死に体である国連の決定権は、今や中国だけが持っていると言っても過言ではない。

 つまりそれは中国が決めたのだ。


 中国は、一人っ子政策の廃止により爆発的に増えた国民を浄化するいいチャンスだと捉えているだろう。

 危機的状況である水不足や食料難を回避するための、都合のいい免罪符というわけだ。

 

 いや、中国だけではないのかもしれない。

 人の命が脅かされているという現実を前にして、どの国もゾンビを殺す口実が欲しかったのだ。


 現に、人権の観点から人間であるゾンビを殺すことに難色を示していたアメリカやイギリスも、決定を機に大規模なゾンビ掃討作戦を開始したという。


 この瞬間ゾンビは、単なる駆除すべき害虫と同じ扱いとなった。

 誰もが、ゾンビが元々人間だったという事実から目を背けて、な――。


 ……それでいいのか?

 友人、恋人、そして大切な家族――それを殺すというのか。


 はっきり言おう。

 この世界は狂っている。

 私がなんとかしなければないらない。

 

 そう、私はこの局面を打開するすべをすでに持っている。

 それは奇跡的に作ることに成功した、『


 つまり抗原の投与による免疫の会得であり、それだけ聞けばこれ以上ない打開策だろう。

 しかし副作用として、微量ながらZOウィルスを体内に取り込むことになる。

 それがどのような結果をもたらすのか未だ不明であるが、それは今後の実験で徐々に明らかとなっていくだろう。


 そうだ、実用化するには当然実験が必要なのだ。

 人体を使っての医学的な実験が。

 

 倫理的に問題があるのは重々承知だが、道徳意識が崩壊しているこの世の中で然して気にすることでもない。


 問題なのは誰を被験者として使うかなのだが、これもすでに手を打ってある。


『亡失の孤児』を使えばいい。


 ゾンビパニックの衝撃により記憶を失った子供達に、[偽りの記憶]と[ゾンビは恐怖の対象ではないという洗脳]を施したうえで、『トモダチワクチン』の投与をすればいいのだ。


 そしてゾンビ達のそばに置いて、一年ほどその効果を確かめる。

 食料とライフラインガス・水道・電気さえあれば、共に生活をしていけるのかどうかを。


 子供を利用するなど、卑劣極まりない行為かもしれない。

 そのそしりは甘んじて受けよう。

 全ては人類のためにという大義名分があれば、そんなものは痛くもかゆくもない。

 

『人類再繁栄計画』を成功させるために、喜んでマッドサイエンティストになってやろうではないか。





 ……ただ、


 せめて被験者の子供達は強く生き抜いてほしい。


 それが私の切なる願いでもある。





 ◆最終話 『手を取り合って』に続く。

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