第34話『君のパンツは何色か?』
東雲先生や掛布さんが活動室を後にし、ようやく本来の落ち着いた雰囲気に戻ってきた感じがする。特に問題もなく、穏やかな学園生活を毎日に送ることができればいいのに。そうするために風紀委員会があるんだけど。
「色々とあったせいか、こうして穏やかな時間が流れることが非日常のように感じてしまいますね」
「そうですね、千晴先輩」
「今日は一仕事をしましたし、休憩ということで紅茶でも飲みましょう。ひよりさん、手伝ってくださいませんか?」
「分かりました」
じゃあ、私は椅子に座って紅茶を淹れるのを待とうかな。さ、沙耶先輩の隣で。
――コンコン。
椅子に座ろうとしたときにノック音がしたので、私が扉を開けると、そこには生徒会長さんの姿が。
「あら、折笠さん」
「生徒会長さんですか。お疲れ様です」
同じ金髪なのに、東雲先生とは違って会長さんからはお嬢様という雰囲気が感じられる。おさげの髪型で落ち着いているからかな?
「お疲れ様。生徒会の方が一段落したから様子を見に来たの」
「そうですか、こっちも一応……一段落しましたので。さあ、入ってください」
「うん、お邪魔します」
「こんにちは、生駒さん。空いている席に座ってください。今、私とひよりさんで紅茶を淹れますから」
生徒会長が入ってきたことで、活動室の中が一気に華やかになったような。
沙耶先輩が座っている隣の席が空いていたので、素早く席を確保。
「さっき、会議をしているときに外の方を見たら、風紀委員会のみんなと秋川先生、東雲先生が生徒を連れて歩いているところが見えたけど、どうかしたの? 午後に沙耶が盗撮した犯人を捕まえるって意気込んでいたから、まさか……」
「ああ、琴実ちゃん命名のコソコソ作戦を使って、私を盗撮している生徒のことを捕まえたんだよ」
会長さんのように、掛布さんをここに連れてくる場面を見た人は多いだろうな。
「へえ、よくやったね。といっても、沙耶は昔から有言実行ってタイプだけど」
「ははっ、言ったことが全部できたわけじゃないよ」
沙耶先輩、変態だけれどスペックが高いから、色々なことができそうだ。
やっぱり、生徒会長さんと沙耶先輩を見ていると、幼なじみって感じがしていいな。羨ましいというか。今度、会長さんと2人きりで沙耶先輩のことを話したいな。
「会長。紅茶をどうぞ」
「ありがとう、藤堂さん」
「砂糖やミルクはテーブルの上に置きますからお好みで。みなさんの分も淹れましたよ」
全員の前に紅茶が置かれる。紅茶の香りが部屋に広がっていき、さっきまでのことが嘘のように思えてくる。
角砂糖を1つ入れ、紅茶を一口飲む。あぁ、美味しい。気持ちが落ち着くよ。
「毎日、こうやって平和に紅茶を飲んで、ゆっくりできればいいんだけどね」
「そうですね、沙耶先輩」
「琴実ちゃんもそう思うよね。さっきの話の続きだけれど、私を盗撮したとして1年1組の掛布真白さんの身柄を確保した。さっきまでこの部屋で色々と彼女と話をしていて、東雲先生と一緒に生徒指導室に行ったよ」
「そっか。掛布真白さん……新年度が始まってそこまで時間も経ってないから、まだ知らないな」
4月もまだ半ばだから、知っている1年生はほとんどいないか。委員会や部活での繋がりがなければ知らなくても当然か。
「その掛布さんって子が、例のパンツを特別棟に置いて、沙耶のことを撮影したってこと?」
「そうだよ。しかも、掛布さんは1年半前に京華が教えてくれたダブル・ブレッドのメンバーだったんだ」
「ダブル・ブレッドのメンバー……って、まさかあの組織って噂じゃなくて、本当に存在していたの?」
「ああ。そのリーダーは……ブランと呼ばれているらしい。フランス語で白という意味だ。やっていることは黒いのにね」
自分の言ったことが面白かったのか声に出して笑っているよ、沙耶先輩。盗撮されたっていうのに不安や恐怖はないのかな。それとも、まずは自分を盗撮した人がちゃんと分かって、捕まえられたから安心しているのかな。
「ダブル・ブレッドが存在して、そのリーダーがブラン。全然知らなかったよ。まあ、1年半前からずっとネット上ではダブル・ブレッドが存在するっていう投稿があって、あなたがメンバーだっていう噂もあったのよ」
「ああ、それはさっき掛布さんから聞いた。ていうか、前から知っていたなら教えてくれても良かったのに」
「あなたはダブル・ブレッドには入っていないって信じていたし、風紀委員で頑張っている姿も知っていたから、言う必要はないと思ったのよ」
そう言うと、会長さんは優しい笑みをしながら沙耶先輩のことを見る。長い間、先輩と親しくしていて信頼もしているからこそ見せられる笑みだと思った。それがとても可愛らしくて、ちょっと悔しかった。
「まあいいよ。私は風紀委員会のメンバーとして、ダブル・ブレッドを倒すことしか考えていないから」
「へえ、珍しく朝倉さんと考えが一致しましたね。私もこのような行為をするダブル・ブレッドを許せません。私の仲間を盗撮しましたし……」
「朝倉先輩のような微笑ましい変態行為だけならまだしも、盗撮とか度が過ぎたことを組織的にやっていますから、私も先輩方と同じ考えです」
沙耶先輩、千晴先輩、ひより先輩……みんな風紀委員の一員として、ダブル・ブレッドと真っ向に挑むつもりなんだ。
「琴実ちゃんはどうなの?」
「私ももちろん、ダブル・ブレッドを許すことはできませんし、どうにかしなければいけないと思っています。ただ、私達に掛布さんが捕まえられたのを知ったからか、リーダーのブランは彼女との繋がりを断ち切ってしまいました。向こうも動き始めていると思いますから、こちらも気を付けなればならないと思います」
「……風紀委員のみんなに、自分の正体が知られないようにするためね」
会長さんは真剣な表情をしながらそう呟いた。
「目の前のことを一つ一つ解決していく、っていう私のわがままをみんな聞いてくれたんだ。それに、今回のことに関しては、何のリスクも伴わない行動はないって思ってる。ブランに警戒され、組織を刺激してしまったかもしれないけど、一歩……いや、何歩も前進したと思っているよ」
「……沙耶らしい考え方ね」
何だろう、沙耶先輩と会長さんの間にある独特の空気感。私なんかでは到底作り出せそうにないこの雰囲気は。沙耶先輩に向けられる優しい視線からして、会長さんにとって沙耶先輩は特別なんだなぁ、と思わせる。
「ところで、京華」
「なに? 沙耶」
すると、沙耶先輩は真剣な目つきで会長さんのことを見て、
「今日のパンツはもしかして……白かな?」
とてもくだらない質問を放ったので、思わず紅茶を吹き出してしまうところだった。
「沙耶先輩、何を訊いているんですか」
「……京華のパンツの色が凄く気になるんだよ」
「ふふっ、どうやら私のことをブランだと疑っているようね。ブランはフランス語で白のことって沙耶が教えてくれたもんね。残念、今日のパンツの色は水色でした。ちなみに、昨日は赤」
そう言うと、会長さんは椅子から立ち上がり、チラッとスカートをたくし上げ、水色のパンツを穿いていることを示した。
「水色だったね」
「でしょう? まったく、沙耶ったら。幼なじみのことを信じていないの?」
「信じているさ。でも、生徒会長という全校生徒の上に立つ役職を京華は担っているからね。ほら、ダブル・ブレッドは白布女学院内の組織だし、ブランが掛布さんとの連絡手段をすぐに断ち切ったことから考えて、ブランは学校関係者である可能性が非常に高い」
「なるほど。それで、この学校の生徒会長である私じゃないかって考えたと。ふふっ、それなら沙耶だって十分に怪しいじゃない?」
「どうして?」
「沙耶は生徒からの人気も高いし、何よりも……変態だから。変態組織をまとめるのにスキルはちゃんとあるでしょ?」
満面の笑みで言えるのがさすがは幼なじみといったところか。でも、会長さんの言うことに納得できてしまう自分がいる。
「ははっ、面白いことを言うね。自分がパンツを拾った瞬間を撮影しろって掛布さんに命令したことになるよ。そんなことをして何の意味があるの?」
「……それもそうね」
「ひどいなぁ。さっきは、私がダブル・ブレッドのメンバーじゃないって信じていると言ってくれたのに」
「ちなみに、沙耶が穿いているパンツの色は?」
「私の色は黒だよ。黒が一番好きな色なんだ。だから、白を意味するブランとは平行線を辿るわけだ」
会長さんがやったように沙耶先輩もちらっ、とスカートをたくし上げて、黒色のパンツを見せる。沙耶先輩、大人だなぁ。あと、太ももも綺麗。
ある意味でブランの可能性が高そうな2人だけど、2人ともブランじゃないよね。特に沙耶先輩は。そうであると信じたい。
「ダブル・ブレッドのことは風紀委員会に任せるわ。私も気になることがあったり、何か分かったりしたら情報提供するから」
「ありがとう、京華」
「とりあえず、来週は1年半前と同じように、朝の服装・持ち物チェックと放課後の見回りについて強化しましょう。あとはダブル・ブレッドの動向次第で、どのように対処していくか考えていきましょう。掛布さんの話は真衣子さんから聞いておくから、月曜になったらみんなに伝えるね。今日はもう解散でいいんじゃないかな」
「そうですわね。では、みなさん。今日はお疲れ様でした」
こうして、今日の風紀委員会の活動が終了した。
これで本当に今週の学校生活が終わったか。何だか盛りだくさんすぎて、とても長い1週間だったなぁ。沙耶先輩に助けられて、風紀委員になって、沙耶先輩を盗撮する犯人を捕まえて、ダブル・ブレッドという変態組織がいることが分かって。
この1週間を振り返ったら、どっと疲れが襲ってきた。土日はゆっくりと休もう。そう思いながら学校を後にするのであった。
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