第5話『あ~ん』
初めての授業だった科目があったおかげで、午前中の授業はあっという間に過ぎていった。先生の自己紹介とか学生時代の話とかけっこう面白かったな。私立の高校は面白い先生が多いって聞いたことがあったけど、それは本当だったみたい。ただ、朝倉先輩以上にインパクトのあることを言う先生はいなかった。
そして、昼休み。
「ことみん、一緒にお昼ご飯食べようよ」
「うん」
理沙ちゃんと一緒にお昼ご飯を食べることが習慣になっていた。決まって、理沙ちゃんが私の席の前にやってきて、向かい合う形でお昼ご飯を食べる。
「ことみん、ほら……あ、あ~ん」
「……えっ?」
理沙ちゃんは自分のお弁当に入っている玉子焼きの半分を、私に食べさせてくれようとしている。こんなこと昨日まで一度もなかったのに。今朝の告白を意識しているんだろうなぁ。
「えっと、理沙ちゃん……」
「ことみんに食べてほしくて作ってみたんだ」
「……いただきます」
私のために作ったって言われたら、断るわけにはいかない。多少恥ずかしくても食べさせてもらおう。
「はい、じゃあ……あ~ん」
「あ~ん」
理沙ちゃんに玉子焼きを食べさせてもらう。甘くて、ふんわりしていて美味しい。まるで私の好みが分かっているかのようだ。
「どう、美味しい?」
「美味しいよ。甘くて私好みだよ」
「ふふっ、良かった」
両手で頬杖をつきながら私のことを見ている理沙ちゃんがとても可愛らしい。朝倉先輩への揺るぎない恋心さえなければ、理沙ちゃんの彼女になっていた確率はかなり高いと思う。
「今のあたし達、周りからだとどう見えるのかな。やっぱり、付き合っているように見えてたりするのかな……?」
百合をしようと告白されたあってか、凄くドキドキする。それに、理沙ちゃん……はにかみながら視線をちらつかせているし。
「……どうだろうね。とても仲が良く見えるんじゃないかな」
「そ、そうだよね! えへへっ……」
顔を赤くしながらも、嬉しそうに笑っている理沙ちゃん。凄く可愛いな。今朝、私に告白して、振られたけど……この様子だと今も私のことを好きでいてくれているんだと思う。
「ねえ、次は何が食べたい?」
「もう十分だよ。その気持ちを頂いておくね。そうだ、お礼に今度は私から理沙ちゃんに何か食べさせてあげるよ」
「い、いいの?」
「うん。でも、私のお弁当はお母さんが作ったんだけどね」
料理は好きな方だけど、朝があまり得意ではないので朝早く起きてお弁当を作るまでのことはできないと思う。
「それでも嬉しいな。じゃあ、食べさせて? あ~ん」
まだ何を食べさせようか決めてないのに、理沙ちゃんは口を開けてスタンバイ。目を閉じたまま口を開けている姿がまた可愛くて。スマホで写真撮ろうっと。
「今、変な音がしなかった? もしかして、スマホであたしの顔を撮った?」
「やっぱりバレちゃった。だって、今の理沙ちゃんの顔とっても可愛いんだもん」
「うううっ、恥ずかしいよ……」
そう言いながらも、理沙ちゃんは目を閉じ、口を開けたまま。ふふっ、かわいい。
ミートボールとか色々なおかずが入っているけど、玉子焼きを食べさせてくれたから玉子焼きがいいよね。
「じゃあ、理沙ちゃん。あ~ん――」
――ピンポンパンポーン。
理沙ちゃんに玉子焼きを食べさせようと思ったとき、校内放送のチャイムが鳴った。
『1年3組の折笠琴実さん。至急、生徒会室に来てください。繰り返します――』
えっ、何で生徒会室に呼び出されないといけないの? そう思ったけれど、思い当たる節はあった。脳裏にあの人の顔がよぎったし。
それにしても、放送で自分の名前が言われると結構ドキッとするものなんだ。クラスのみんなから視線を集まるし。うううっ、何だか恥ずかしいよ。
「ことみん、呼び出し?」
「うん。きっと、例の風紀委員のことじゃないかな……」
「その可能性はありそうだね」
まさか、生徒会を味方に付けて私を風紀委員にしようとしているのかなぁ。朝倉先輩は確か3年生だし、生徒会メンバーとの繋がりがありそうだから怖い。先輩は私のことをずっと待つと言ってくれたけど。
「じゃあ、生徒会室に行ってくるね。私のことは気にしなくていいから、先に食べちゃっていいよ」
「ううん、待ってる」
「……分かった」
ただ、本当に話題が風紀委員のことなら、早く終わらせた方がいいだろう。向こうのペースに乗せられて、間違った決断をしちゃうかもしれないから。
「じゃあ、行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
理沙ちゃんのためにも早く話を終わらせよう。そう心に決めて、私は教室を後にした。
入学して間もないので、生徒会室がどこにあるのかいまいち分かっていない。なので、近くにいる生徒さん達へ訊きながら生徒会室へと向かっていく。
「ううっ、こっちは入学して間もないんだから、迎えに来てくれたっていいのに……」
それは甘えなのかもしれないけど。つい、気持ちが口に出てしまった。
そして、ようやく生徒会室の前まで辿り着いた。うううっ、呼び出されたからか、職員室じゃないのに緊張するなぁ。
――コンコン。
扉をノックすると、
『はい、どうぞ』
中からそう言う女性の声が聞こえた。朝倉先輩じゃなくて安心した。
「失礼します」
そう言って、私は扉を開けて生徒会室の中に入る。
「1年3組の折笠琴実です」
生徒会室の中にいるのは、金色の髪でおさげの髪型が印象的な女子生徒さんだけ。とても綺麗で、可愛らしさも感じられる方だ。優しそうな雰囲気を醸し出している。そんな彼女に思わず見惚れてしまう。
「折笠琴実さん、初めまして。入学式では新入生のみんなに話したけど、こうして、あなたと1対1で話すのは初めてね」
「は、はい!」
そうだ、この方は入学式で話していた生徒さんだよ。確か――。
「改めまして、私、3年1組に所属する生徒会長の
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