第1話『ガルパン』

 ――パンツ、見せてくれる?


 私のことを助けてくれた朝倉先輩の口から飛び出た言葉は、とてもじゃないけれど信じられないものだった。

 いや、実際には言っていない。私の聞き間違いのはず!


「……あの、よく聞こえなかったのでもう一度言ってくれますか?」

「うん、パンツ見せて。パ・ン・ツ」


 き、聞き間違いじゃなかったんだ。


「み、見せることなんてできませんよ! いくら先輩と2人きりでも!」

「でも、何でもお願いを聞いてくれるって言ったのは琴実ちゃんじゃない」

「言っちゃいましたけど、それはできることに限定してます! そう考えるのが抄紙機でしょう! そして、パンツを見せることは私にはできないことなんです!」


 助けてくれたときは白馬の王子様のような感じだったのに、今はもう単なる変態さんにしか見えないよ。よく考えたら、あの男達よりも朝倉先輩の方が危険人物だったんじゃないの?

 朝倉先輩は何やら真剣に考えている。ろくでもないことを考えていそうな。


「じゃあ、スカートをたくし上げてみようか。それならできるよね」

「確かにスカートを上げることはできますけど、それってパンツを見せることと同じじゃないですか」

「あっ、できるって今言ったね。言っちゃったね、琴実ちゃん」

「……あああっ!」


 し、しまった! できるって言っちゃった!

 私がまんまと策略にはまってしまったせいか、朝倉先輩はニヤニヤと笑っている。


「女子に二言はないよね、琴実ちゃん」

「……パンツを見せることは嫌ですけど、これで先輩の気が収まるなら、一度だけ……一度だけですよ! 先輩には助けてもらったご恩があって、できることは何でもするって言ってしまって、今は私の部屋で2人きりだからですからね!」

「必死に理由付けする琴実ちゃん、可愛いね。分かった。じゃあ、琴実ちゃん……スカートをたくしあげてくれるかな?」


 そう、今回きり……それも断り切れない理由があってのことなんだから! そう割り切ってやるしかない。恥ずかしいけれど。


「ど、どうぞ……」


 私は制服のスカートをゆっくりとたくし上げる。ううっ、物凄く恥ずかしい。

 朝倉先輩、私の穿いているパンツを見てどう思っているんだろう。知りたくないけれど、気になってしまう。


「へえ、純白のローライズなんだ。琴実ちゃんらしい」

「……感想を口にしないでください。恥ずかしいです……」


 うううっ、どうしてこんな人に一目惚れしちゃったんだろう。こんなにド変態なんだって分かっていたら、絶対に好きになってない。あのかっこよさはある意味で罪じゃないかと思ってしまう。


「もういいですか。私の……パ、パンツはもう堪能できましたよね」

「そんなわけないよ。パンツは見て、触って、嗅いで……初めてパンツを堪能したって言えるんだよ!」

「知りませんよ! そんなの!」


 パンツを見ながらそんなこと言われても全然心に響かないよ。そもそも、言っている内容だって酷いし。

 ……って、ちょっと待って!


「見て、触って、嗅いで……ってことは……」

「……物分かりがいい女の子は好きだよ、琴実ちゃん。まずは琴実ちゃんに似合う純白のパンツを見た。次はね……」


 すると、私の太ももに何か温かいものが触れる。


「ふあっ」


 この生温かくて、ちょっと柔らかい感触は……朝倉先輩の手! 


「先輩、そこまではダメですっ! だって、パンツを見せるだけの約束じゃ……」

「……あれ? 私が頼んだのは、琴実ちゃんはスカートをたくし上げることだよ? パンツを見せるだけ、とは一言も言ってないよ」

「そんな屁理屈……」

「最初から言ってないよね。パンツを見せて、とは言ったけど……パンツを見せるだけでいい、とは一度も言ってないから」

「……確かに言ってません。けど……」


 本当にああ言えばこう言う、というか。自分の欲求を満たすためなら、どんな手段でも使ってくるんだ。


「じゃあ、そういうわけで……いただきます!」

「えっ、ちょ、ちょっと……ひゃああっ!」


 私のパ、パンツに何かが触れてる! それに、生温かい吐息が……パンツ付近にかかってる! すー、はー、すー、はー、って朝倉先輩の呼吸する声が聞こえてる!


「女の子らしい甘みのある匂いに、ちょっと刺激的なものが感じられるね……」

「だから、いちいち解説しなくていいですから!」


 2人きりでも恥ずかしいんだよ。女の子にだけどパンツを見られて、触られて、嗅がれて……うううっ、もうお嫁に行けない。


「……ふぅ、満足。やっぱり、ガルパンはいいね」


 私のことを見る朝倉先輩は満足そうな表情を見せている。


「先輩。ガ、ガルパンって何ですか……?」

「女の子のパンツ。ガールのパンツ、略してガルパン」

「……訊いた私が馬鹿でした」


 もっと真面目なことかと思っていたんだけど。それとも、何かのアニメとか漫画の略称とか。そうだよね、朝倉先輩だもんね。


「……やっぱり、君は他の女の子とは違う」

「他の女の子とは、って今までにもたくさんの女子のパンツを堪能してきたんですか」

「当たり前じゃない」


 えっへん、と胸を張って言われてしまった。本当に朝倉先輩は女の子のパンツ……ガルパン第一なんだね。ここまでパンツ好きを主張されると逆に清々しく思えてきたよ。


「ねえ、琴実ちゃん。お願いがあるんだけど……」

「お願い、ってまさかパンツを嗅ぐ以上のことをしたいんですか!?」

「違う違う、今度は真面目なお願いだよ」


 そう言う朝倉先輩は真剣な表情をしているけど、パンツを見られ、触られ、嗅がれたことがあった以上、そう簡単に彼女のことが信用できなくなっていた。ただ、好きな気持ちは不思議と消えていないけれど。


「とりあえず、お話しだけ聞きますよ。それで、お願いとは何なんですか」


 変なお願いだったら適当に流せばいいか。流すことができればいいけど。

 朝倉先輩は真剣な表情は一切変えることなく、口角を僅かに上げて、


「琴実ちゃん。風紀委員になって、私の相棒になってよ」

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