第4話【大嫌い】

 謁見の間の国王や大臣たちは、俺たちを心から歓待してくれた。

 レスター国王は俺に言う。


「ルーファス・アルフォード近衛騎士団長、そなたはこの国を救った英雄だ。セシリアも感謝している。」


 セシリア姫は傷ついた体を押して謁見の間に来ていた。


「ルーファス殿、あなたはその身をていして私を救ってくださいました。感謝の言葉もございません。」


「レスター国王、セシリア姫。もったいないお言葉、身に余る光栄に存じます。しかし私は姫のお体が心配でございます。この後の話は長くなりますゆえ、どうか姫はお休みください。」


「本当にお優しいお方・・・。本日はそのお言葉に甘えさせていただこうと思います。お礼はまた改めてさせて・・・あっ―――。」


 姫は突然、崩れるように倒れた。

 俺は咄嗟とっさに飛び出し、すんでのところで姫の体を抱えた。

 気を失っている。

 息が荒いところ見ると、相当無理をしていたのだろう。




 ガーランド王国は決して大きな国ではない。

 国王も側近も政治的・軍事的に敏腕であるから、非情な帝国となれば、周辺の国々を配下に従えることなど容易たやすいだろう。

 だが、それをしない。

 民の平穏が国の平穏につながると、国王も大臣もそう信じて疑わないのだ。

 俺はこの国のために戦えることを誇りに思っている。


「セシリアは奥で休ませている。どうやら大丈夫なようだ、中断させてすまなかった。」


 国王はアイリスとパットのほうを向いて続けた。


「アイリス殿、このたびのことには感謝を禁じ得ない。竜を倒し、我が忠臣のルーファスを救ってくれた。」


「通りすがりでやったことです。お気になさらないでください。」


 パットは相変わらずアイリスの後ろに隠れている。


「聞けば、アイリス殿は光の剣技ライト・ソードを使われるとか。」


「はい。」


「光の剣技を伝える一族は魔導戦争で滅ぼされたと聞くが、もしやそなたは―――。」


 アイリスが沈痛な表情を見せた。


「・・・はい、私の名はアイリス・エルフィンストーン。一族の生き残りです。」


 そうか―――。

 アイリスが苗字を言わないのを不思議に思っていたが、それは一族を滅亡に追いやった戦乱を思い出したくなかったからなのだ。


「やはりエルフィンストーンの一族であったか。そなたがドラゴンスレイヤーを持っているのも納得がいく。昔、ダリル・エルフィンストーンという男と共に戦った時、彼が同じものを手にしていた。」


「ダリルは私の叔父で、剣の師匠です。先日亡くなりましたが、生前は良くレスター国王のことを話しておりました。いずれ国を取る人物だと。」


 それを聞いて、国王は天井を見上げた。


「そうか、ダリルも逝ってしまったか。妻も、友も、私を置いていく・・・。」


 魔導戦争で国王は妻を失っている。


「たしかエルフィンストーンの村には若き天才魔法剣士がいて、親衛隊を率いて侵攻してきた魔王と相討ちになったと聞くが。」


 アイリスは、隠れているパットを自分の前に出して答えた。


「この子が魔王アスモデウスを封じた英雄、私の兄のパトリック・エルフィンストーンです。」


 謁見の間に動揺が走る。


「その姿・・・。そうか、呪いか!?」


 国王の言葉に、アイリスは唇を強くかみしめた。


「魔王は死に際、兄に駆け寄った私に呪いをかけようとしたのです。兄は私をかばおうとして、このような姿に・・・。」


「・・・忌々しきは魔王か。アイリス殿、解呪ディスエンチャーントは試されたか?」


「ダリルが試しましたが・・・。呪いにより、返り討ちに遭いました。」


「なんと・・・。ダリルは呪術にも秀でていたはず。なんという強力な呪いであろうか。」


 その時、大臣の一人が国王に進言した。


「レスター国王、私の配下の呪術師エンチャンターに解呪を試みさせてはいただけないでしょうか。」


「待って、危険よ!?」


 それを聞いたアイリスが、慌てて止めに入る。


「呪いを解析していたダリルから聞いたのだけど、この呪いは魔王親衛隊の悪魔それぞれが強力な守護ガーディアンになっているの。だから解呪しようすると・・・。」


「私どもは、この国を救っていただいたアイリス殿に恩返しをしたいのです!」


 アイリスは絶句しているようだった。

 やがて彼女は俺のほうを向いた。

 頬が大粒の涙に濡れている。


「ねぇルーファス、この国の人たちってどうしてバカばっかりなの? 私、そういう人って好きだけど、大嫌いよ!」

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