第23話「たとえどういう結果になっても」

「うあああ!」

 サオリさんが突然頭を押さえて苦しみだした。

 そしてじいちゃんがサオリさんに向かって叫んだ。

「姿を現せ、妖魔よ!」

 え!?


 するとサオリさんの体から黒い霧が吹き出し、それは人の形になった。

「フフフ、よくわかったな貴様」

 黒い霧、妖魔が話しだした時

「破邪聖光!」

「ギャアアア------!?」

 ユカが問答無用とばかりに妖魔目掛けて破邪の光を放つと、妖魔は光の中へ消えていった。


「……あれ?」

 サオリさんは自分の手のひらを見ながら呆けていた。


「ふう、これで……守護神様、大丈夫ですか?」

「待て、まだ終わってない!」

「え?」

 ユカがサオリさんを心配して近寄ろうとするのをじいちゃんが止めた。


「う!?」

 するとサオリさんはまた苦しみだし

「う、あアアアー!」

 さっきより多くの黒い霧が吹き出し、彼女の着ている服が破れ、その霧が体を覆った。

 そして目が赤く光り、いかにも邪悪な表情になると

「フフフ、一瞬ヒヤッとしたけど、私はもう守護神と一体化しているからいくらでも甦れるわ、この体が消えない限り」 

 サオリさん、いや妖魔はそう言った。


「な、何ですって!?」

「そ、そんな」

 ミカとユカはその言葉を聞いて驚きながら後退った。

「ただ憑かれているなら心が二つ以上見えるはずだが、見えたのは一つだけ。という事はと思ったが、やはりか」

 じいちゃんが妖魔を睨みながら言った。

「し、しかし妖魔は神様にまで取り憑けるものなのか?」

「サオリ様は神としてはまだ若い御方、それ故に悩んだり苦しんだりもされる。その心の隙を突かれてしまったのだろう」

 姉ちゃんの疑問にじいちゃんが答えた。

「ええ。叶わぬ思いを抱き苦しんでいたこの女を取り込めたのは幸運だったわ。おまけにその本の存在も知ることができたわ。これで」

「全ての生物を消す気か!?」

「待ってください隆生さん。そんな事したら妖魔は存在できなくなるはず」

 ミカがそう言うと

「そうよ。でもね、その本があれば全次元世界の者達に恐怖を与える事ができるわよ。自分がいつ消されるかもしれないという恐怖を。それが我らの糧になるわ」

「その為にミルちゃんを、か……させるかよ!」

「へえ、どうする気?」

「こうするんだよ。そりゃああ!」

 僕は剣を抜いて奴目掛け、全力で光竜剣を放つと


「ギャアアアー!?」

 あっさり命中した。

 てか攻撃すると思わなかったようだな。



「ちょ、隆生! それまずいだろ、その体はサオリのものだぞ!?」

 姉ちゃんが叫んできたが、僕は構わず全力で攻撃し続けた。


「優美子、黙っていろ」

「え、父さん?」

「それよりミカさん、ユカさん。……の準備を」

 じいちゃんが二人の方を見て言った。


「え、何故……あ!」

「お姉様、わたしもわかったわ。やろ」

「ええ!」




「ゼエゼエ……あ、あんた何で躊躇わず全力で来るのよ!?」

 妖魔はよろけながら立ち上がりそう言った。

「ん? 妖魔にいいように操られるくらいならいっそ殺してくれ、と正気のサオリさんなら言うだろうと思って。神様なんだし」

「だからって本気で殺しに来る!? こういう場合何かいい方法を考えるものでしょ!?」

「そんな事考えてる隙に逃げられて最悪の結果になったら……無念だけどサオリさんには死んでもらうしかないよ」

「あんたそれでも正義の味方なの!?」

「は? 僕は正義の味方じゃないよ~。皆を守れるならたとえこの手を血に染めても、悪と呼ばれようとも一向に構わないよ~、キャハハ」

「ひっ!」

 僕がちょっとヒトシの口調を真似て笑いながら言ってやったら、妖魔はガタガタと震えだした。


「さ、死んでよね、木っ端微塵になって……キャハハ」

 僕は妖魔の頭上に剣を振り下ろそうとした時


「って殺すならこいつだけにしろ!」

 そう言って妖魔がサオリさんの体から抜け出した。よし!

「今だ!」


「「極大破邪聖光!」」

 僕の後ろから破邪の光が放たれ、それが妖魔に直撃した。


「ギャアアアアア------!」

 妖魔は完全に消滅した。


「ふう、ありがと」

 僕はその光を放った「一人」の少女の方を向いてお礼を言った。

 ダークブルーの長い髪で目は黒と青のオッドアイで模様が入った白いローブを着ていて、翼を広げた鳥の彫刻が先端にある杖を手にしている彼女。

 それはミカユカが伝説の超秘術「融合変身」で融合した姿である。


「「いえ……てか、さっきの隆生さんは本気で怖かったですよ」」

 うん、見事にハモった感じの震え声だな。

「え~? そうかな~キャハハ」

「「だからそれ怖いって」」


「ああごめん。でもじいちゃんなら僕の考えてる事が読めるから、伝わると思ってたよ」

「ああ。しかし隆生、あれ本当に手加減なしだったな」

 じいちゃんは少し呆れた表情になってた。


 そして二人が元に戻った後、僕は倒れているサオリさんにマントを被せて抱き起こした。

「う、あ、私は」

「大丈夫ですか? すみませんやり過ぎて。僕には妖魔だけを斬る事ができなかったので」

「……いえ、そのまま殺してくれてもよかったのに……ああ、私はなんて事を」

 サオリさんは泣いていた。

「何言ってんですか。死ぬなら全ての生物を元に戻してからにしてくださいよ」

「元に……その手段がわかりません。ミルちゃんが本に触れることができるのだけは知ってますが」

「なら皆で調べましょうよ。その為にじいちゃんを呼んだり、僕達の力を試したりしたんでしょ?」

「……はい。それも本当の事……でも時折アマテラス様の事を思うと理性が」

「それならですね、これが終わったら僕達がアマテラス様を引っ張りだしてきますよ。その時にとことん話せばどうですか? たとえどういう結果になってもそれでケリがつくでしょ?」

「……ええ」

 



 時空の狭間

「さてと、これで一つ終わったね」

 ヒトシはセイショウとランの方を見て言った。

「ええ。でもまだ人間達を元に戻す方法が」

「最高神様なら知ってるんじゃないのかしら?」

「うーん、でも教えてくれるかな? あ、そうだ。僕とセイショウで最高神様に(ズキューン!)してやれば……ひひひ」

「父上様、いくら私でもお祖母様とヤリたくはないですよ」

 セイショウは呆れながら言った。


「え? そうか、最高神様はランのお母さんだからセイショウから見ればそうなるね。じゃあ僕だけでやるよ。ランも入れて親子丼」


 グサグサグサアッ!


「はい冗談です、ごめんなさい」

 ヒトシは無数の黒い槍で全身ハリネズミになったまま謝った。


「全くこの人は、もう」

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