第3話「突然の再会」


「渡辺さんっ、細身の割には凄いバッティングでしたねっ!!」


 ふっふっふ、野球部には入ってなかったけどバッティングセンターだけは師匠と一緒に良く通ったものさ。


「ボーリングもめっちゃ上手かったじゃないですか~♪私も自信あったんですけど、ハンデ貰っても1セットも取れなかったー」


 ふっふっふ、トルネード投法は学生時代に師匠と研究して編み出した技なのさ。


「……でも、ちょっとくらいは女性に花を持たせる程度の手加減を覚えた方が良いと思います」


「…………すんません」


 いやぁ、若い頃に戻ったみたいで熱くなり過ぎちまったみたいだ。


 昼食後はアレコレと一通り遊び倒し、日が暮れた今は車の中で佐々木さんに持ち上げられたり、駄目出しをされたりと会話しているだけでもなんだか楽しい気分になってくる。


 俺の中で言えば、女性限定で一番気が合う人って言われたら多分佐々木さんかも知れん。


「それにしても、渡辺さんがあれほどアニソンに精通しているって思わなかったです。最後までアニソン縛りカラオケで私と張り合える人なんていませんでしたよっ!!」


 神海家に行けばいつも玄関先から恭子の部屋に拉致されて、当時の子供向けの録画アニメを山ほど一緒に見せられたもんな~。作品的にも佐々木さん世代にドンピシャで被っていたようだ。


 ちなみに、途中で不動産屋さんに寄ってもらって、こっちで住むアパートの鍵を既にGET出来ていた。今からは恐らく時間的に晩飯でも食べに連れて行って貰えることだろう。


「動きまくった&歌いまくったおかげで、結構腹も喉も飢え飢えなんだけど、どっか飯が食えるとこに連れて行ってもらえればありがたいな」


 今までの佐々木さんチョイスで考えれば、ファミレスなども覚悟していたが意外とそうでもなかった。


「お任せあれですっ!でもでも、渡辺さん大人♪私も大人♪ご飯だけじゃなくてお酒も飲めるところにしますね~」


 まさかの提案に助手席の俺は両手でサムズアップしちまった。グッジョブ佐々木さん、柄にもなくノリノリなんだけど俺♪



 そして行き着いた先は九州支社の近くにあるビルが並ぶ繁華街の居酒屋で、コインパーキングに車を停めた俺たちはルンルン気分で店内へと足を運んだ。


「ここはですねー、ウチの会社が昔から良く使っている居酒屋なんで、請求書も回せるし、社員だったら給料日払いも出来ますんで会社の人たちもたくさんいますよっ!あっ、ほら、あそこにも、あそこにもっ、アレは経理の2課の方達ですね~」


 次から次へと指を差し教えてくれるのはありがたいが、男共にすっごい目つきで睨まれているんだけど。入社5年目ということから推測するに年齢は姫ちゃんと同じくらいだろうが、超童顔の所為か、もっと若い女の子社員たちを差し置いて今なおマスコットガールとして君臨しているらしい佐々木さんを独り占めしていることが非難の的になっているのだろう。


 俺が配属する部署の面々がいないことを切実に祈る。


「さっ、じゃんじゃん頼んじゃってくださいっ!コレとコレはオススメですよ~♪あっ、私が接待係でした、てへ。お酒は……取り敢えずビールですよねっ」


 席に案内されても一向に落ち着く様子はなく、佐々木さんのテンションは更にグイグイと上昇していき、俺に発言するタイミングを与えてくれない。


「ではっ、私と渡辺さんの再会を祝して……かんぱーいっ!!!!!」


 ガシャン。


 俺が持つ大ジョッキへ彼女が全力で同じジョッキをぶつけてきやがった所為で、中のビールが1/3ほど弾け飛んだ。ってか、祝すのは俺の出張……もとい転勤にじゃねえのかよっ!


 結局、飲んで(佐々木さんが一方的に)喋って、飲んで、喋ってしているうちに、頼んだツマミや料理が並ぶ前に完全に出来上がってしまっていた。


 普段の俺なら、流れに身を任せ一緒に酔い酔いになるのだが、とにかく周囲の男共がチラッチラと此方を睨みを効かせてくるのでそうもいかない。


「あはははは~♪やっぱ渡辺さんは楽しいですね~、飲んでますかー!!」


 いや、飲んでいるけどおっかなくて酔えないんだよ。店を出た瞬間に周囲の野郎共から袋叩きにされそうで。


 そしてようやくポツポツと料理が来始めた頃、座敷の壁に掛けた佐々木さんのコートのポケットからスマホの着信音が鳴った。


「はいはい、恵でーす♪」


 佐々木さんはめぐみという名前らしい。


「んっ、お父さん?」


 ブッ。


 ちょっとビールを吹いてしまった。この雰囲気でお父さんて……なんか気まずい。着信画面で相手を確認しとけよっ。


「えー、まだいいじゃないですか~、渡辺さんとご一緒しているんですよ~、まだまだ宴もたけなわにすらなってないんですよぅ」


 おいっ、いちいち俺の名を出すんじゃねえ!ってか、俺の事なんてお父さん知らんだろうが!!


「ぶー……はーい。わかりましたぁ。わかりましたってばー」


 色々と喋っていたようだが、最後はちょいとふてくされた感じで通話を切っていた。


「渡辺さーん、残念です。お父さんが門限とうに過ぎているから早く帰って来なさいってー」

 

 門限て……アンタ学生かよっ。


「あ……ああ、うん。お父さんを心配させたらいかんな。帰った方が良いと思う」


「私はヤだって言ったんですけどー。そしたら「これ以上遅くなるなら、お前を差し出した部長の首を飛ばす」って言われちゃったんでー、仕方がないです~」


「えっ」


「ってことですので~、お店の人には請求回すように言っときますので、この後もジャンジャン飲み食いしちゃってくださいね~。あっ、ついでに社用車のあっちゃんも貸してあげますんで、帰りはこの店で代行頼んだらそれも請求一緒にできますので~」


 そう言うと、佐々木さんは店員に2,3言付けをした後にフラフラと店の外へと出て行った。


 超庶民派の形振りに騙されていたけど……もしかして、佐々木さんて佐々木専務の娘さん?


 そりゃあ、このヒガミっ気満載な周りの男共も簡単には手を出せないわな……


 っつーか、あっちゃんて……社用車に愛称つけんなや。


 そもそも、このテーブル一杯に並んだ明らかに2人分以上の料理をどうすんだ。


 そんな感じで突っ込んだら良いのやら、呆れたら良いのやらでトホホな感じで佐々木さんが出て行った店の扉をぼんやり眺めていると、入れ替わりにどこか既視感のある女性が入って来た。


 多分知っている女性だ。


 でも、思い出せない。


 すると、相手もこちらに気づいたのか、カツカツとヒールを鳴らしこっちに歩いて来た。



「純一くん……よね?」


「あっ……真希先輩」


 

 それは、入社したとき俺についてくれた新人職場指導の先輩だった。


 あの頃の短髪で活発な雰囲気とは見違えるほどに様変わりしており、髪は長く落ち着いた大人気を帯びていた。



 そういや、随分前に九州支社に転勤したんだっけか。



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