第11話


―――静かな静かな夜。


 ここはいつだって夜は風で木が揺られる音しかない。そんな場所で煙草をふかすのが最近の日課…。


「何してんですか、師匠っ!」


「痛っ、殴ることないだろ、レイ。」


 今日は冷たい息子には殴られるわ、侵入者がいるかもしれねぇわ、イベント目白押しだな、なんて考えながら注意された煙草の火を消した。


「それより、特に何もないみたいですね。」


「ああ。」


 軽い返事をしながら、もし、本当にフィットニアの連中が侵入していたとして、何故進入したのか、それがわからないかぎり対策のしようもないな、と考えていると、先ほどまで隣にいたレイが足を止めた。


「レイ、どうした?」


 レイは考え込むように腕を組み、小さく何度か唸ると、なにやら閃いた様にガバリと勢いよく顔を上げた。


「師匠!さっき映像に映っていた所に行ってみましょう。」


 その言葉と勢いに押され、すんなりと頷いてはそのまま問題のあった場所へ向かった。


「…確か、ここのあたりですよね。」


 俺は「嗚呼。」とだけ返事をしては周りを見渡すが、特に俺の目にも変わった様子は見られない。


 レイの目にはどうだろうか?何か残っていれば、少しは不安要素がなくなるかもしれない。まぁ、逆に俺たちの仕事が増えることになるかもしれねぇが・・・。


 レイははぁ、と小さく息を吐き、こちらを見ながら小さく首を横に振ってみせた。


 ・・・証拠は何もなし、か。面倒事が増えるだけでなく、アイツへ報告に行かないといけないってことが一番面倒だな、と更に深い溜息を零しながら、煙草が吸いてぇな、と愚痴を心の中で零した。


 その後、レイは役に立てなかった為か、落ち込んだような表情を浮かべては小さく溜息をついていた。


 気にするな、という意味を込めて、ポンポンと頭を撫でてやると、少し拗ねた様にこちらを見たかと思うと、大人しく撫でられていた。


 ・・・いつもこんな風に素直だったら、可愛いんだけどな、と内心、苦笑が零れた。


「じゃあ、レイ。直接見ても何もねェんなら、いつも通り仕事こなすか。」


レイにそう声を掛けると、「・・・師匠、大丈夫ですか?」とえらく真剣な表情で確認されてしまった。


 ・・・本当に最近、俺のことなめてねェか?一応、師匠で父親なんだが・・・。


 その日は特に異常も、エラーの発生している本もなく、すんなりと夜が明けた。

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