第9話




 一番の理由は、師匠に相棒として頼られている、ということだ。こういうときいつも思う、師匠の役に立てるように、頼りにされるようになりたいと…。


「…い、おいっ。聞いてんのか?」


 いけない、ついつい考え込んでしまっていた。師匠はなかなか返事をしない僕に少し苛立った様に声をかけた。


「すみません。考え事してました…」


 師匠は小さく気をつけろとだけ言ってモニターを見た。それを追うようにモニターに注目すると、ある一冊の本が映し出されていた。


「これ、中央には保管されていない本ですね。」


 カラン様へ確認のためにそう言って見ると、小さく笑みを零しながら頷いて見せてくれた。


「レイはきちんと仕事しているな。ジェイド、見習えよ?」


 カラン様少しあきれたように師匠に向かって伝えると、師匠は特に気にしていないらしく、再度モニターへ視線を移した。


「それでこの本がどうしたんだ。」


 師匠はあからさまに話題を変えると、タッチパネルになっているモニターへ手を伸ばし、操作をし始めた。

 このモニターというよりこの図書館になるモニターは貯蔵してある本を検索し、閲覧することが出来る。その為、本を借りずとも読むことが可能でもある、とても便利な代物である。


「私の間違えでなれば、この本に時間を操作する術が書いてあったはずなんだが…」


 操作していた師匠を退かし、カラン様はすごいスピードで本を捲っていく。相変わらずすごい能力だと思う。僕も同じような能力を極めてはいるけれど、ここまで早くは読むことは不可能だ。早くならないと、と思いながらカラン様の手が止まるのを待った。


「あった、これだ。魔法とは違うが、古代の遺跡に残っていたものらしい。だが、古代文字で書かれている上に全文が分かったわけじゃないらしく、結局、扱える者もいない、とは記されてはいるが・・・。もしかしたら、フィットニアはこれの解読に成功したのかもしれないな。」


 カラン様は少し困ったように頭を抱えるとモニターに映る書物を消した。僕はもしかしたらと思い、再度映像を見直し始めた。すると、案の定先ほどまで映っていた黒いもやが全く見えなかった。


「まさか、本当に時間を操ることが出来るということか・・・?」


「・・・おそらく。ですが、完全、というわけではないみたいですね。」


「どういうことだ?」


「完全に操ることが出来ていれば、あんなに少しずつ消していく、なんて面倒な事、僕ならしませんよ。」


 僕のその言葉に苛立ちを隠すこともせずに壁を殴る師匠に、冷静に聞くカラン様。フィットニアが成功していることにも、頼ってくれた師匠の役に立てずに終わってしまったことに僕も悔しさを感じた。


「これ以上は無理だろう。他のリーダーには俺から伝えておく。夜はジェイド、レイ、いつも以上に気を張っておいてくれ。」


 カラン様はモニターを通常へと元に戻し、僕に「悪かったな、もう戻れ。」とだけ声を掛けて、僕が来る前に淹れていたであろう、冷めてしまったコーヒーを手に取り、流しへカップを転送した。


 僕と師匠は監視をカラン様へ任せ、中央塔へ向かった。



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