第7話


 そのまま、西塔を出て、レイが所属する中央塔へ足を向けた。

向けたものの、なかなか見つけることが出来ねェ。いつもであれば、俺の気配に気づいて寄ってくるんだが、何かあったか?先ほどの侵入者の件もある、少し足早に塔内を歩き回る。


 ・・・いつも絡んでくるカトレアもいないが、司書たち自体も少ない。司書室にいるかもしれない、と思い、近くの司書室へ足を運んだ。


 すると、ドアを開けた瞬間ざわついている数人が一斉にこちらへ視線を移した。その中か見覚えのある人物がこちらに駆け寄ってくると、丁寧にお辞儀をした。


「ジェイド様、レイさんに用事、でしょうか?」


 こいつはレイの同期に当たる人物で、名はシトリン、といったか。綺麗な面だと少し見遣り、「嗚呼」とだけ返した。それを聞くと若干困った様子で言いづらそうに口を開いた。


「・・・先ほど、奥のリラックスルームへリーダーと入っていかれましたよ。」


 目だけリラックスルームを見ながら告げるシトリン。俺はあまりこいつの事を信用していない。中々本性を見せず、常に笑顔を張り付けている。俺の嫌いなカトレアのように、だ。


 まぁ、カトレアがリーダーとしている中央塔には似たり寄ったりの人物か数名いるのだ。集まるのも仕方がないか、と諦める。


 それにレイが友人として認めているのだ、変な奴ではないのだろうと納得させている。


「・・・カトレアと、か?」


 何故、俺がカトレアを苦手としているかというと、考えていることが読みにくい奴なので元々良い感情は持ってはいなかったが、レイが中央塔に所属してからは更にその感情が強くなっている。


 ・・・まぁ、単純に俺の息子に無駄に言い寄り、無駄にくっついているからである。


 少しの苛つきを表に出しながら、づかづかとリラックスルームへ近づき、ノックをせずにドアを開けると、げんなりとした表情で上司を見つめる息子とその息子の首に腕を回し、「ねぇ、レイちゃん。惚れたりしてくれないのー?」などとふざけたことを抜かしているそいつが目に入った。


 元々、俺がこの部屋に入ることに気付いていたであろう息子は目で「助けて。」と訴えている。


 ドアの開いた音で気付き、眉間に皺を寄せているカトレアは俺を見てニヤリと胸糞悪い笑みを作った。


「あれれ~?レイちゃんが心配で来たの、お義父さん?」


「誰がお義父さん、だ、・・・気色悪い。おい、レイ。頼みてェことがある、ちょっといいか?」


 カトレアの発言に鳥肌を立てながら、レイの方を見ると、カトレアの言葉を気にしていないらしく、俺から頼み事をされるのが嬉しいらしい。普段、人前では笑みを見せない息子がほんの少し口元を緩めている。


 それにカトレアも気付いたのであろう、少し悔しげにこちらを睨み付けていた。


 それにフンと鼻でいかにも馬鹿にしているといった感じで笑うと、ついてくるであろうレイに背を向けて、部屋を出た。

当然といった感じで後をついてくるレイをいつもこれぐらい素直だったらいいのに、と内心思いながら足は西塔へ向かっていた。


「それで頼み事って何・・・ですか?」


 家での口調になったことを無理やり直すと少し咳払いをしたレイにふっ、と小さく笑みを零すといつもするように頭をポンと撫でてやった。


 すると、余程周りの目が気になるらしく、素早く周りに目を配るといないと分かり、大人しく撫でられていた。そして、段々と恥ずかしさが勝ってきたのか、俺の手を掴みやめろという様にじっと睨み付けている。


 それすらも可愛いなどと思う俺は相当な親バカになったものだと苦笑を零した。


「悪い、頼み事ってのが、ちょっと能力を借りたくてな。」


「・・・どっちの方?」


「どちらも貸して欲しい、いいか?」


 やはり、特殊能力を使うには体力も使う為、両方と聞いて少し眉間に皺を寄せている。頼むという様に真っ直ぐに見つめると、ふぅ、と小さく息を吐き、「分かった」と渋々といった感じではあるが、了承してくれた。


「内容だが、フィットニア帝国の奴がこちらへ侵入しているかもしれない。それをまず見つけてほしい。・・・頼めるか?」


 最後に「難しいなら断っていい。」と付け加える。こう言えば負けず嫌いのレイは多少難しいことでも断ることはない。


 案の定、「僕が断るわけない。師匠からの頼み事だし・・・。」と少しボソボソとした感じで言いながら先ほど掴んでいた手を己の頭へ乗せ、撫でろという様に見ていた為、小さく笑みを零しながらご希望通りに撫でてやった。


 すると、満足したのだろうか、ほぼ無表情のレイが俺の前なら見せる笑みを浮かべてこちらを向いた。・・・可愛かったので思わず抱きしめたら、容赦なくみぞおちを殴られてしまった。


 ・・・レイ、最近俺に対して厳しい上に冷たくないか?


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