Egyptian Starcluster

狐月

第1話



「まったく、師匠はどこで油を売っているんだか・・・。」


 ブツブツとどうも師匠という人物へ文句を垂れている少年・・・というにはすでに年齢が食っているらしい。

だが、青年というにはまだ幼い感じを受ける者は辺りをきょろきょろと見ながら、目的の人物を探しているようであった。

彼のいる場所は物静かで、庭か何かだろうか、そこらじゅうに木が植えられている。

だが、整えられている為、すごく落ち着く雰囲気、癒される空間になっている。


 彼は小さく あ、と声を上げると、駆け足で真っ直ぐに駆けていった。彼の視線の先には木々に囲まれ、丁度、死角にあるベンチに気持ちよさげに一人の男性が寝転んでいた。

 

 彼は大きなため息を吐いては「ほら、師匠起きて下さい。」と言葉は丁寧だが、声を掛けながらベンチから落とそうとしているようで、強引に肩を掴んでは押した。


「!・・・ったく、人が気持ちよく昼寝してんのに何邪魔しやがる。」


 男は不機嫌そうに眉間に皺をよせ、じろりと睨むように彼を見つめた。


「こんなところでサボってないで真面目に仕事してください。師匠がサボるのが僕にとっても図書館にとっても迷惑になっているので邪魔してるんです。」


 そんな男の様子に彼は表情を変えることなく、淡々とした口調で言い放つとベンチに座ったままの師匠と呼ばれた男の腕を掴むとぐいっと強く引っ張り、立ち上がらせた。


「痛えよ、レイ。もうちょっと師匠を大事に扱えって。」


 腕を掴む力が強かったせいか、師匠は不機嫌そうな表情を更に深めた。

彼・・・レイは特にその言葉に気にした風な様子もなく、「ほら、行きますよ。」とだけ声を掛け、変わらず声にも表情を表すこともなく、物静かな場所の中心にある立派なお屋敷のような場所まで師匠を引きずった。


 立派な建物は帝国図書館と呼ばれるところであった。レイと師匠はそこで働いているらしい。すると、レイは正面の扉から入っては先ほどまで引っ張っていた師匠の腕を離した。


「師匠、一応、昼間も仕事しないといけないんですからね。あんまりカラン様と僕に迷惑かけない様に。」


 僕、の部分を強調して言ってはそのまま奥へと姿を消した。


 そんな彼の姿を見ながら、煙草を取り出しては咥えると、ボソリと少しの不満と、小さな苦笑を零した。


「・・・前は冷たくなくて可愛げがあったのになァ。」


 彼の後姿を見送ると、師匠と呼ばれた彼は自分の持ち場のある東の塔へ向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る