第22話 交流「女学生と少年」


「えー! じゃあウィルさんは百層までガイドできるんですか!」


「この間まで斥候として固定PTパーティーを組んでたからね……その時の到達階数は百六十層さ! ハハハ」


「すごぉ〜い! もし良かったら友達になってくれませんか? 私達どうしても百層まで行かないといけないんですー」


「ああいいとも。俺もお節介ってやつは性分に合ってるからねえ。ハハハハハ!」


 などと鼻を伸ばしたウィルの笑い声と、

 それを助長する学生風の女共の黄色い声が俺の前から聞こえてくる……

 なんなの? とてつもなく気分が悪いんですが。

 

 いや、まだウィルがモテてるだけなら文句はない。

 あいつは役に立つ上に男前だからな。


 だが問題はそこじゃない……俺の扱いについてだ。

 最後尾を歩く俺に目を合わせないどころか……

 存在すら彼女らの記憶から抹消されてしまっている。


 あ……また、目から水が止まらない。

 どうしてこうなった?


 昨日は確か……二十層で準NMDネームドクラスの街を壊滅させたんだ。

 そこで一夜を過ごした俺たちは二十一階層で……

 別のPTに出会った……いや、出会ってしまった。



  —



「ところでクラウス……君は攻撃魔法は使えるかい?」


 ちょうど二十一階層の階段を見つけたところでウィルがそう言った。

 Lv4までのしょぼい魔法しか使えないと俺が答えようとしたら、

 今は短剣になってるチェルノが会話に割り込んできた。


『魔法の話? それなら昨日ボクが食べた杖の話をしたいんだけど』


 そういや昨日、チェルノに指輪と杖なら食べていいぞと言って寝たわ……

 朝起きたら二つともきっちりなくなっていた。


「あれは材質が木だから使えないだろ?」


 そう……チェルノは材質が金属じゃないと再現できないのだ。

 それ以外を食べた場合は……ただの餌にしかならない。


『いやいや、杖の効果の話だよ。なんと……魔法の威力を上げて使うことのできる効果だったんだ!』


 なん……だと?

 じゃあ俺のしょぼい魔法でも、ド派手に爆煙を巻き上げて……ん?

 いやそれ普通じゃね?


 魔法の威力が上がらない杖なんて、この世界に存在しません。

 だってそれ「杖」って言わない……「ただの棒」って名前だから。


 ウィルも肩を落としてるところを見ると、この会話の無意味さに気づいたらしい。

 俺とウィルは目を合わせると二十一層へ向けて階段を降りることにした。

 道中でチェルノに詳しく説明しすることに……だが本人は納得できないようで、


『威力を上げて使えるんだよ? すごいと思うけどなあ』


 未だ、短剣が杖を賞賛するという変な状況を作っていた。

 てかお前はそれを食べたでしょ?

 それ以前にもう杖無いから……


「ま、まあとにかく……魔法は使えないってことで話を進めていこうか。そうなると……二十八層まではきついかもな……」


 ウィルはそう言って腕を組む。

 要するにそこまでは魔法一強ってことか……

 俺のスターレイとフレイムショットがどこまで通用するかなんだが……

 なんせ俺のINT(知力)は低いのだ。

 せめてINTの高いチェルノに攻撃魔法を覚えて貰っとけばよかったな……


 二十一層には今まで下層にしか無かった広場が設けられていた。

 そこには魔方陣のようなものもあった。

 何らかの方法でここまでショートカットできるんだろうな。

 あとでウィルに聞いてみよう……あとで。


 今はそれどころじゃない。

 目の前には、俺がこの地下迷宮に入って初めて会う別のPTが目の前にいたからだ。


 紺のブレザーに、赤いチェック柄のスカートを履いた少女が四人。

 もう一人、紅い外套に茶色の短パンの少年がいたが、こっちは付き添いだろうか?

 少女たち全員分の荷物を持たされていた。

 いやあれ相当重いぞ?


 ウィルは俺に振り向くと、


「あれは魔術学士院アカデミーの生徒だな……クラウスどうする? 俺たちは魔法が使えないし向こうのPTに入れてもらえるか聞いて見ても良いかい?」


「合流して探索が進むならそれに越したことはない。そこはウィルに任せる」


 言っておくが俺の「任せる」は、” その判断の結果に俺も責任を持つ ”

 という意味で、世の中のアホどもみたいに、” お前に任せたらひどい目にあった ”

 なんて後から言うつもりは全くないぞ?


 俺たちが二言ほど交わし、彼女たちとの交渉を決めるよりも早く相手の方が動いた。

 トコトコと一人の少女が近寄ってくると、


「初めまして冒険者さん! 良かったら私たちと四十層まで行きませんか?」


 そう和かに話しかけてきたのだった。


  —


 魔法一強のエリアで、魔術師に頼る俺達よりも早く声をかけてきた彼女達。

 何がそうさせるのか詳しく話を聞いてみると、

 彼女達の一人がまだガイドも頼んでないのに「二十一層転送スクロール」を誤って使ったらしい。

 その子を助けるため、他の四人も同じスクロールを使い今に至るというわけだ。


 中々に友達思いじゃないか……だが待てよ?

 そのスクロールは寝返りを打ったら間違えて使ってしまうようなもんなのか?

 ……まあいいか。


 彼女たちは共同探索の了解を得ると、「早く行こう!」と言わんばかりにウィルの手を引っ張っていく。

 自己紹介も探索を進めながらするそうだ……どんだけ急いでるの?

 二十一層は深い谷が迷路になったような場所だった。

 一応光は差すのだが谷が深いせいか薄暗い。

 直前までアンデッドのプチ主がいたからなのか、ここも死体的なものが出そうだ……


 まず、ウィルを引き連れ、先頭を歩く女の子が隊長格のメルセデス。

 長い黒髪のお嬢様だ。基本はこの子が話を進める……他の子に決定権はない。


 そのメルセデスに相槌を打つのがチャロという子だ。

 赤いショートカットで、暇さえあればメスセデスの周りをくるくるしてる。


 残りのエメリー、オフェリアは大人しいメイドみたいな感じだ。

 だが……二人とも目つきがキツイ……近寄りたくないな。

 

 最後に唯一の男の子でである少年の名前はレイドラ。

 彼が間違えてスクロールを使った張本人らしい……

 もうね、この時点で彼女たちを信用できないのは俺だけだろうか……だがその少年は、


「僕のミスなのに皆助けに来てくれて本当にありがとう! 僕とってもうれしい!」


 そう言ってたくさんの荷物を抱えながら、両手を広げて満面の笑みを振りまくレイラ少年。

 ふーむ……本人がそう言うんだから間違いないのか?


「私たちは見てもわかると思うんですが、魔術学士院アカデミーの在校生で四人とも魔術師でーす!」

「みんな一つは特急クラスの魔法を使えるんですよ? ちなみに私の得意魔法は『雷撃』! えっへん!」


 メスセデスという子が言うには全員魔術師らしい……これで木こりだったらビビるわ。

 黒髪に続けて話し出すチャロという少女は、自慢げにそう言うと大して無い胸を張っていた。

 てか四人?

 後ろに歩くレイラ少年は魔術師じゃないのか?

 見たところ赤い外套を羽織ってるだけで、同じ学校の制服を着てるように見えるが……


「ウィルさんは斥候なんですよね? ……で? 後ろにいるクラウスさんはどんなご職業なんです?」

「そりゃローブ着てるんだから当然魔術師でしょー、ね? ね?」


 そう、確か……ここまでは良かったんだ……

 だが魔法を覚えたての俺は調子に乗ってしまった……

 俺もやめときゃいいのに、


「まあ一応、中級までならなんとか使える魔法がある……スターレイ」


 そう言って近くの岩に光魔法を撃った。

 俺は、この光魔法に相当な自信を持ってた……それがいけなかった。

 ライトから出る光源を絞ることによって、熱線に変える魔法……それが「スターレイ」だ。

 つまりライトがつ出現する俺は同時に二発撃てるのだ。

 ——ピスピスッ!


 岩に二箇所焦げ目ができた……やべえ俺かっこいい。

 どうよ? って感じのドヤ顔で皆を見たら……

 全員が魂を抜かれたような顔をしていた。


 いち早く正気に戻ったメルセデスが、


「そうですね……バッタなら一撃で倒せるかもしれません」


 その言葉を皮切りに……俺は大爆笑されることになったのだ。

 ウィルも一緒になって腹を抱えていた……

 なんだよ……ちょっとぐらいフォローしてくれてもいいだろ?


 散々俺を笑い者にしてた一行は、

 ウィルの「では皆そろそろ下へ向かおうか」という言葉で探索を開始し始める。


 ここからだ……俺は無視され始めたのは。

 俺の存在を忘れたかのようにズンズン進んで行く一行だったが、

 今まで最後尾だったレイラ少年は仲間を見つけたかのように俺に近づいてきた。

 おお……心の友よ!


「改めてよろしく! 僕の名前はレイラ。魔法は上級までしか使えないけど魔力総量が多いことが僕の自慢! だから……これ全部持ってあげてね!」


 なるほど……PT内で一番使えない奴が荷物持つってルールなのか。

 確かに……その方が生存確率は高い。

 俺は甘んじてその仕打ちを受けることにした。

 リュックが五つ……レイラ少年……君のも俺に持たせるのかい?

 あれ? 世界が水没してる……


 レイラは俺に全ての荷物を預けると、解放された小鳥のように前を歩くメルセデスのところまで駆けて行った。

 そんな彼の姿を見せられた俺は、なぜか先ほどまでの暗い気持ちが吹き飛ぶようだった。


「転職もできない俺が……魔術師を名乗れるわけもないか……」


 俺には魔術スキルどころか、職業すら持ってないんだ……

 そう考えると凹む権利もないわな。

 考えるだけ無駄な話だ……それより自分の出来ることをやっていこう。

 そう切り替えてる俺にチェルノは……


『気に入らない……ギャフンと言わせないと気が済まない』


 なぜか憤慨していた。

 また始まったよこいつは……だが今回は無理だろ?

 なんせ可能性が全くないんだからな。



 ……え?

 なんか作戦あるの?


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