六章 駆け落ちカップルは賞金稼ぎでした

第20話 女騎士さん、再会する

「で……。なんで兎とドラゴンがついてくるわけよ」


 昼下がり、みんなで城下の洋菓子店にくりだした。

 近隣諸国で評判の店が、いよいよこの魔王国の城下で出店した。

 ……という情報を、ロインがマイセンから得たからである。


「「観察だ」」

「政治局員だなまるで」

「時々わけわかんないこと言うよね、アキラ」

「魔王だからきにしないで」

「おやつが欲しいだけなら、ちゃんと買っていくのに」

「モギナスからお小遣いもらってっし、俺がいれば、だいたいの店でツケが効くからなー」

「魔王財布便利ーちょーべんりー」

「まるでATMみたいな言い方しないでくんない?」

「えーてぃーえむ、ってなによ」

「異国にある機械だ。無人の銀行みたいなもんだな。雑貨屋の店先や駅や港の待合に置いてあって、あらかじめ預金しておいた金を取り出すことが出来る」

「うわーべんりー。……なんで魔王国にはそれないの?」

「この界隈の国は、通貨がみんなコインだろ。その機械を使うには、発行する貨幣を紙幣にする必要があんのよ」

「しへい……?」

「こーいうやつ」


 晶はポケットから財布を取り出し、日本銀行券を見せた。


「こ……これ、異国のお金? すごい……こまかい印刷……紙も薄いのに丈夫そう……ぞ、象嵌までしてある!!!! も、もも、ものすごい価値があるんじゃ……」


「その国では高額のがこういう紙のやつで、小さい金額のがコインなんだよ。たくさんお金がある時でも、持ち運びに便利だろ? 紙幣ってのはまあ、国が価値を保証する小切手みたいなもんだな。だから国が安定してないと、紙くずになっちまう」


「……しへいってのを作るって、すごくたいへんなんだね……」


「印刷技術や製紙技術だけありゃあいいってもんじゃねえからな。だから、このへんで流通するのはずっと先だろうなあ」


「魔族の国ってすごい文明進んでると思ってたけど……もっと進んでる国ってあるんだね」

「そういうこった。お勉強はそのぐらいでいいかい? はやく買いにいこうぜ」


                  ☆


「ふー……。あぶなかった。もうちょっと遅かったら売り切れてたねー」

「お前があちこち寄り道してっからだろ、ロイン」

「だってーだってー(略)」


 買い物を済ませて城下の商店街をぷらぷら歩いていると、おのぼりさんのロインが、あっちの店こっちの店と覗き込むので、ちっとも城に戻れない。


 ん!?


「危ない!」

「きゃっ」


 往来で何かの接近を察知した晶が、ロインの腕を引っぱり路肩に避けた。

 すぐさま、男が全速力で目の前を通過していった。


「うわ、あぶなかった……」

「ぼーっとしていたら、お土産が台無しになっていたところだな」


『ぎゃあッ!!』

 通過して数秒後の悲鳴。

 そして、どう、っと倒れる音。


「へ? なんだなんだ」


 晶が声のした方を見ると、先ほどの男が足を抱えて倒れていた。

 ひどく苦しそうに呻いている。

 よく見ると、足に矢を受けていた。


「そいつを捕まえてくれ!」


 叫びながら駆け寄ってくる、男とその連れの女。

 男は大剣を、女は弓を手にしている。

 まるで、どこぞの魔獣ハンターのようだ、と晶は思った。

 二人は倒れた男に駆け寄ると、手際よく縄で拘束した。


「……あれ? もしかして」

「どうした、ロイン」


「「あ――――――ッ!!!!」」


 ロインと、二人組の女の方が、互いを指さしてシャウトした。


「な、なんだ、知り合いか?」


「「元同級生です!!」」


「なんだってええ――!」


 ……ロインよ、お前の同級生って一体……。

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