第6話 画伯・魔王
夕食後。
ピーナッツのような殻付き豆をむしりながら喰らう、ロインとモギナス。
まだケンカの続行中で、ののしりあったり、時折殻を投げつけ合っている。
そんな二人を横目に、晶は買ってきたばかりの画材で絵を描き始めた。
「陛下、まーなんてお上手なんでしょ。額を発注しなければ……」
「よせよ、油絵でもあるまいに」
「いえいえ、紙に描かれた絵もまた趣がございます故」
「そんな落書きわざわざ額装することないわよモギナス」
「なんですか、失礼な」
一旦収まったかと思えば、またケンカを始める二人。
「ったく……。女子かよ」
って、片方は女子か。にしても。
初めてロインを見た時は、二次元嫁がリアルに出現した、と心ときめいたのに、蓋を開ければこんな調子なんだから、やっぱリアルの女なんか嫌い。
「いーもん。俺は嫁を自分で生産するから……」
「なにブツブツ言ってんの、アキラ。きもちわるい」
「うっせ! ほっといてくれよ(涙)」
ビシッ。
モギナスの殻アタック。
ロインの額にヒット。1ダメージ。
「いたッ! なにすんのよ!」
「陛下を愚弄することは許しませんぞ」
「なによ、あんたもさっきgdgd文句言ってたくせに! こいつってばねえ――」
「あーあーあーなんでもありませんなんでもありません!!」
「だ! ま! れ! お茶の間でカジュアルにお前等のもめ事に俺を巻き込むんじゃねえ! ただでさえ巻き込まれてんだから!!!!」
そう怒鳴ると晶は自室に引っ込んでしまった。
「あーあ……」
「陛下……」
「ねえモギナス、巻き込まれてるって、なに?」
モギナスは、ただでさえ細い目をさらに細く、口をへの字にして、しばし無言で手元の豆を剥いていた。
「……人間が、聞いたらマズいこと?」
モギナスは、手を止めて呟いた。
「貴女がお后にでもなれば、お話しする機会もありましょう……」
「あー……。そういう、部外秘的なやつ」
「そういう、部外秘的なアレです」
「ふうん……」
ロインも無言で、ひたすら豆の殻を剥いた。
☆ ☆ ☆
「陛下、ご精が出ますな。茶菓子をお持ちしましたよ……ん?」
晶の部屋にやってきたモギナスだったが――
「あらら。お疲れのようですな……」
晶は机に突っ伏して眠っていた。
「では失礼してベッドに……ん?」
モギナスが晶を抱き上げると、さきほどの絵が完成していた。
「ほう……。やはり晶様はロイン嬢のことが。ふふふ」
☆ ☆ ☆
翌朝。
晶の部屋の前の廊下で、モギナスとロインがこそこそ話をしている。
「本当にこんな不思議な格好で魔王の機嫌が直るの?」
「間違いありません。かならずお喜びになること請け合いです」
「き、昨日は悪かったと思ってるけど……、これ、私がやらないとダメ?」
「ダメです」
「うう……ホントに他の人じゃダメ?」
「ダーメーです。多少なりとも責任を感じているなら、さっさと陛下を起しにいってくださいよ、ロイン嬢」
「はあ……」
覚悟を決めてドアノブに手を掛けるロイン。
少し開けて中を覗くと、晶はガーガーといびきをかいている。
「ほら、起きちゃったらサプライズにならないんですから」
「わかってるってば……」
足音を立てずにそーっとベッドに近寄るロイン。
ちら、と入り口を振り返る。
モギナスが険しい顔であごをしゃくる。
はあ、とため息をつくと、ロインはベッドサイトから身を乗り出した。
「アキラさん、朝よ……起きて」
「zzz……」
「アキラさん、起きて、アキラさん」
「ん、んんん……」
むにゃむにゃ言いながら目をこする晶。
「んー……。あ、朝か……。はぁああああああああああああッ!?」
晶は大声を上げつつベッドから跳ね起きた。
「み、みささちゃん!? なななななななななななななななな、なんで!?」
(みささ、って誰よ?)
ベッドから遠ざかりたい気持ちを必死に殺して、ロインは引きつった笑顔で言った。
「お、おはようございます、アキラさん。さあ、お食事の準備が出来ていますよ。起きてください」
「み、み、みささちゃああああああ~~~~~~~~んッ」
晶はロインに抱きついた。
「ぎゃああああああああああああああああッ、た、たすけてえええええ!!!!」
しかし、モギナスは無視を決め込んでいる。
「みささちゃん、お、俺の所に来てくれたんだな! 俺と、け、結婚してくれえええっ!!」
「いやああああああああ――――ッ!!」
バキバキバキドス。
ボコボコにされ、床の上に転がる晶。
「ちょ、調子に乗るのもいい加減にしろ! クソアキラ!!」
「いててて……。なんだ、夢じゃなかったのか……。夢ならよかったのに……」
失意の表情で、ごろりと向こう側に転がる晶。
プリプリと怒りながら出ていくロインと入れ替わりに、モギナスが部屋に入ってきた。
「ああ、なんてこと……、大丈夫ですか陛下」
「おはよう、モギナス。俺、寝直すわ。夢の中に帰るから」
晶はもそもそとベッドに戻っていった。
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