第4話 女騎士さんと事後処理
「おま、これ誘拐じゃんか! どーすんだよモギナス!」
「もももも、申し訳ございません~~~~~~~」
「俺じゃなくて彼女に謝れ」
「私に謝れ」
「申し訳ございません~~~~~~~」
拘束を解かれ、ワゴンの上で手首をさすりながら、土下座中のモギナスに侮蔑の眼差しを投げる女騎士さん。
まるで何かのプレイのようである。
「私にこんなことをしてタダで済むと思ってんのか? 国際問題だぞ!」
「だよなあ。さすがにマズいだろ……」
ひょこりと頭を上げると、モギナスが言った。
「その点については抜かりありません。陛下の命により王宮にお招きしたことになっております。もちろん、彼女に快諾頂いたという前提で……」
「な……ッ! 私に断りもなく……。サイテーだな!」
「たしかに」
女騎士さんの侮蔑の眼差しに、殺意がプラスされた。
「……とにかくだ。彼女が拉致された原因は俺にもある。現状でだれにも解呪出来ないから、ジタバタしても始まらない。つーわけで、今度こそ本当に丁重におもてなしするんだ。いいな? モギナス」
「御意」
はあ、と大きなため息をつく、女騎士さん。
「安心してください。貴女の安全はこの俺が保証します。ところでお名前は?」
「私の名は、サー・ロイン・テンダー。ロインと呼べばいい」
「俺はアキラ」
「……聞いている魔王の名とは違うようだが……、愛称のようなものか?」
「ま、まあ、そんなもんだ。よろしく」
「ああ……」
女騎士・ロインは、大きく足を組み替えると、高い天井を仰いだ。
☆ ☆ ☆
ロインは自室と侍女をあてがわれ、着替えを済ませると、ベランダから魔都の景色をぼんやり眺めていた。
「はあ……。なんでこんなことになっちゃったんだろ……」
女学校を卒業後、実家に居づらかったこともあり、たまたま「戦後の賑やかし要員に」と、女性を募集していた騎士団に入った。
戦乱の長かった自国では、貴族の子女は男女問わず武術を身に付けている。そのためロインは難なく入団試験をパス。
訓練過程を終えた彼女の初任務――安全な護衛任務に就いて……このザマである。
「はー……。私このまま魔王のお后にされちゃうのかな……。隣国の王家に嫁ぐとか、王族でもあるまいし、そんなん自分にはあり得ないと思ってたのに……」
曲がりなりにも貴族の生まれではあるが、政略結婚に利用されるほど身分が高いわけでもない。むしろ子供が全員男児でなかったために、実家は家督問題でモメている有様だ。
「それにしても――。なんでこんなに文明違うのかしら……」
日の暮れかかった城下町には、家々にもれなく灯りが点り、通りはどこも明るく照らされていた。商業施設の多い区画では、良く言えばカラフルな、有り体に言えば色的に悪趣味な広告灯が輝いている。
何らかの魔法を使ってあるのだろうが、一番進んだ王都でも見られない、美しくも禍々しい光景である。
魔都も母国の王都も、いずれも戦火に巻き込まれてはおらず、戦前より原型を止めている。
しかし、元々魔力が高く長命な種族でもある魔族と、ただの人間を比較して、どちらの方がより文明を発展させることが出来るかと言えば、明白だった。
「こーんな進んだ国と戦争して、よくドローに持ち込めたものね。……ま、人間側は数カ国の連合だったけど。あの人の良さそうな魔王を見てると、去年まで戦争してたなんて、とても思えない……」
「あの戦争、さっさとやめてもよかったのです、お嬢様」
ロインの背後からストールを掛けながら、侍女が言った。
「お気づきでしょうが、我が国は人間の国の一つや二つ、いつでも滅ぼすことは容易でした」
「でしょう……ね」
「ケンカを売られた魔王様にとって、ただの暇つぶしだったのですが、売った方は相手の力量も分からず、止めどきも逸して数十年。昨年には言い出しっぺの王族も亡くなり、魔王様の暇つぶしに付き合うには国庫の負担もバカにならず、魔王様に黙って水面下で特使を送り、こちら主導で和平交渉に持ち込んだのです」
あの男を見る限り、面白半分に何十年も戦争を続けるようには思えなかったが。
「はあ……」
結局は、魔族の手のひらの上、だったってことか――。
今の自分も、魔族の手のひらの上……。
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