第88話 カクヨム

 僕の小説には、彼女がモデルとなっている主人公が多い。

 彼女の言動をデフォルメすることが多いのだ。

 他にモデルがいないわけでもないのだが…彼女は特徴的なのだ。


 僕には2人、自分の人生に影響を与えてくれた女性がいる。

 1人は18歳年上の女性。

 彼女は僕に知恵をくれた。

 刑務所にも入らずに、一般社会にぶら下がっていられるのは彼女のおかげだと思う。

 今でも感謝しているし、なにより僕の人生で一番穏やかに過ごせた時間は、彼女と一緒にいた時だと今でも思う。


 もう1人が『N』だ。

 奇しくも、彼女は僕より18歳年下で出会った年齢も僕が前述の彼女に出会った歳だ。

 不思議な繋がりを感じる…。

 彼女は僕に希望をくれる。

 小説をネットに載せるなど、彼女が居なければしていなかっただろう。

「お湯ラーメン」の第一話は彼女が笑ってくれたから書いてみただけ…そこから『カクヨム』との付き合いが始まった。

 彼女とは、嬢として呼んでいた時から、色んな話をした。

 お互いの本当の名前も知らないのに…僕は自分のことを彼女に話し続けた。

「今日は、なんの話をしてくれるのか、楽しみだったよ」

 当時のことを彼女はそう言った。

 僕に呼ばれるのが楽しみだったと…。

 時間ギリギリまで話していたことを思い出すと…当時から風俗嬢として見ていなかったのかもしれない。


 僕の小説には実話が多い。

 そのほとんどを彼女の反応で判断しているのだ、書くか書かないか…。

 最近は

「その話、書いてみて」

 そう言われると短編にして書いている。

 彼女との食事の話は、今や日記のような感覚で書いている。

「またネタにされるね」

 そう言って笑う彼女の顔、子供のように無邪気な表情を見せる。

 きっと素直な笑みなのだと思う。

 そして仕事では見せない笑顔なのだろう。

 僕もそうだから…会社では自然に笑えないから…。


 笑うだけではない…喜びも…悲しみも…怒りも。

 僕は彼女と言うフィルターを通すことで表面に表れる感情。

 きっと彼女にしか見せない僕…。


 冷めているわけではない…と思う…。

 ただ、表面に出さないだけ…出せないだけ…。


 彼女は僕の感情を簡単に引っ張り出す。

 いとも簡単に…。

 表情に乏しい僕が自然に感情を顔に出す、それが自分でも不思議でならない。


 表情は出さないほうがいい…ポーカーも、チェスも…子供の頃から…そう教えられたはず…。

 バカはすぐに感情をテーブルに曝ける。

 そして金を失う…。


 笑えなかった…泣けなかった…喜べなかった…でも怒りだけは抑えられなかった。

 自分の欠点は『怒り』を抑えられないこと…。

 それで幾度も失敗した…大切なものを失った…そうなるまで抑えられなかった…。

 大切なものを失うことで…僕も怒りを失ったのだ…。

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