第34話

「ま、待ってくれ!」


 親父は膝立ちの状態になり、降伏した兵士のように両手を掲げた。

何だ、今度こそ本物の命乞いか?

 格闘戦の後で疲弊しているとはいえ、俺には十分、今の親父を素手で殺すだけの自信がある。それを直感的に感じたのだろう、


「私は研究から手を引く! これ以上着手はしない! だっ、だから命だけは――」


 そんな言葉を聞きながら、俺の挙動は我ながら実にスムーズだった。

 両脇のホルスターから拳銃を抜き、片手撃ちを一回ずつ。


「ぎゃあああああああ!!」


 手を引く? 着手しない? だったらその手をもらおうじゃないか。

そう思って、俺は親父の両の掌を撃ち抜いた。チリン、といつかの倉庫での戦闘のように、薬莢が高い音を立てて鳴った。


「これ以上、あんたに未来は渡さない」


 俺は拳銃をホルスターに戻し、親父に背を向けた。親父は俺を撃つだろうか? 葉月を撃ったあの銃で? 俺は振り返りざま、余ったペイント弾を放り投げた。すると、


「ぐあっ! くそっ、くそっ!」


上手く親父の拳銃に炸裂した。親父の手が、血を滴らせながら床に落ちる。


「もう二度と会わないでくれ。頼む」


 親父がこれでもかと顔を歪めるのを見、ギリギリと奥歯を鳴らすのを聞きながら、俺はその場を後にした。

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