暗がる心のこと

【自傷とは】

 例えば手首を切ったとしよう

 冷たい痛みが与えられ、広がる血を感じることができるだろう

 青紫だか緑色だかの色をしている血管から流れる血は赤いことを確かめられるだろう

 例えば首を絞めたとしよう

 喉から顔まで広がる圧迫と、心臓がそれでも血を送ろうとする脈動を感じるだろう

 自分が嫌いな世界の空気が肺に入らないことに安堵するだろう

 例えば毛を抜いたとしよう

 引きちぎられる小気味良い音がし、たった一瞬の痛みを感じるだろう

 これは日々でも起こり得る特別ではないことと誤魔化すだろう


 例えば頭の中で自分を殺したとしよう

 痛みも圧迫感も音も存在しない世界だ

 血は想像で、だくだくと血を溢れさせる脈動も想像で、一瞬ですら痛みは感じない

 ただひたすらに死なない自分を傷つけることができる

 これは果たして自傷だろうか


【死とは】

 死とは、自分がいなくなることだ

 しかし、眠れば、それは自分がいなくなっていることと違うのだろうか

 自分がいないのだ

 自分が観測できないのだ

 観測できないものは存在しているかあやふやなのだ

 誰かが観測していても、眠っている自分が本当に自分なのかは証明できない

 眠っている間に死んだとして、次に目が覚めればまた自分が起きて始まるのではないか

 それを観察することができる人間は存在しない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る