第6話 転校前日(日曜日)

 ガタンゴトンガタンゴトン。


 乗客がまばらな車内に電車の走る音が満たされる。やがてその騒音トンネルに入るとゴーという音に耳障りなものに切り替わった。


 電車内では話す人もいない。日曜日なのに子供連れの家族もおらず、殆どが年寄りだった。電車自体は比較的綺麗だったが、どこか寂れている雰囲気がある。


 カナデ・ヒアリはそんな殺風景な電車の座席から外を見ていた。トンネルの壁しか見えなかったが、やがて電車はトンネルを抜けて青空が窓に映し出される。


(おお……これはまたすごい感じっ! まるでSF映画に出てくる要塞みたい!)


 思わず感嘆の声を上げてしまいそうになるが、静かな電車内なので口の中で声を飲み込んでおいた。


 ヒアリの座っている側の窓からは巨大で長大な工場地帯が並んでいた。モクモクと白い煙を上げる複数の煙突、パイプむき出しの施設、規則正しく並ぶ貯蔵庫。閑静な郊外で生まれ育ち、その後の旅でも見なかった存在だ。


 反対側の窓からは5階建ての建物がずらっと並んでいるのが見えた。外壁がくたびれた灰色のものが多数の中、一部最近塗られたとみられる青っぽいものやピンク色のものがあったが、建物の形状やオーラといえるモノが明らかに昔の建物だとはっきり見て取れる。そんな建物が規則的に並んでいるかと思えば途中から不規則になったりして数十以上ひしめき合っていた。40年以上前に作られた巨大な団地である。


 ヒアリはそんな町の様子を見て、興奮が止まらない。


(ここならきっと新しいことに出会える! 私の知らない見たことない街だから!)


 今日で一人旅を始めて三回目の転校。今まで一度も失敗しなかったが、今回も上手く生活できる。そう確信していた。



 やがて電車は目的の駅にたどり着き、ヒアリも荷物を手にして降りて、自動改札を通り町へと足を踏み出した。

 

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